第13話 こんだけ可愛いかったら、しょうがないんだよ?

 映画といえば今話題の映画……といっても、やっぱり圧倒的に女子が多い映画だ。

 そんな映画館でも瑠璃花を遠目で見る、彼女同伴の男子達の視線は熱い。視線は熱いが、瑠璃花はを知ってか知らずか、それとももはや慣れてしまっているのか、気に止める様子も見せずに立川愛奈と話をしている。


「どうだ?奥田。瑠璃色の瑠璃花さんの、威力を思い知ったか?」


 何故か僕の隣に座った阿部が、妙なそれ見た感を露わにして言った。


「早くしないと、泥棒猫に盗られてしまうからな!」


 威圧的に阿部が言う。

 その阿部の視線は彼女の隙を見計らって、瑠璃花を見る男子達に送られている。


 ………確かに………


 僕だって、そんな事は知っている。

 否、阿部よりずっと前から知っている。


「ファイトだ奥田!」


 阿部はガッツポーズを作って言うと、そそくさと立川愛奈の隣に戻って行った。


 ………そんな事を言われても………


 上映が始まっても、映画の内容なんて頭に入って来はしない。

 瑠璃花は、物心付いた時からずっと側に居た。

 気が付いた時には瑠璃花は僕が好きで、保育園に通っている間ずっと優しかった。だけど何時からかわからない頃から、互いに言葉を交わさなくなった。

 ………どちらから?それとも同時だっただろうか……




 阿部ちん・阿部ちん・阿部ちん



「ギャ〜」


 僕は初めて、瑠璃花を叩いて泣いた。

 瑠璃花が佑君と遊んで、僕を仲間に入れてくれないから。


「ダメ〜!イヤァ〜!」


 が、最近の瑠璃花の口癖だ。

 特に僕が側に寄ると、脈絡も無くただそう言って、僕を突き飛ばす事もあるし、佑君とお喋りを片言ながら交わして、無視を決め込む事もある。

 そんな時は、僕は何故だか瑠璃花を叩く。

 時には佑君を叩くから、先生達に手を取られて叱られる事が増えた。


「瑠璃ちゃん、あんなに耀ちゃん好きだったのに……」


 お部屋の先生が、困惑顔で言った。


「耀ちゃん。女心と秋の空……って言ってね?移ろいやすいものなのよ」


 先生は大真面目に僕を見て、憐れむ様に言う。


「ヤダ〜先生。そんな事言ったって、耀ちゃんには解らないわよね?」


 とか笑って言う先生もいるが


「……だけど耀ちゃん。女子はよ」


 やっぱり神妙な表情で言った。


「……そうそう……凄く早いけど……試練だわ……」


 何故かお部屋の先生達は、大きく嘆息を吐いて言った。


「特に瑠璃ちゃんって……移り気ぽそう……」


「うんうん……お姫様タイプよね……こんだけ可愛いかったら、しょうがないんだよ?耀ちゃん」

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