第5話 お前の好きは怖すぎる

 帰り道……阿部がポツリと言った。


「奥田、瑠璃色の瑠璃花さんは、お前が好きだ。だから告れ……」


「阿部……」


 僕が名を呼ぶと、阿部は僕の顔を見つめる。


「なんで瑠璃花の前に、瑠璃色を付けんの?」


 すると阿部は期待していた台詞ではなかった事を、露骨に現して溜め息を吐いた。


「語呂だよ語呂……本城瑠璃花さんより、瑠璃色の瑠璃花さんの方が語呂がいいだろ?」


「……阿部の感覚わかんねー。それとその〝告れ〟もわかんねー」


「奥田、瑠璃色の瑠璃花さんは、絶対君には不釣り合いな高嶺の花だ。そんな彼女が好きでいてくれる内に付き合いな」


 なんだか的を得ていて、ちょっとイラっとした。

 確かに瑠璃花は頗る美人だし、スタイルは抜群だし、頭は良いけど、阿部にここまで言われる筋合いは無いと思うのは、僕の驕りだろうか?


「マジで告られてるの俺見たから、だから言ってんだからね?」


「えっ?」


「先輩とか他校のヤツ等とかに、盗られるの厭じゃん?」


「いや阿部、それおかしいだろ?」


「今現在、彼女は奥田が好きなんだから、やすやすと盗られる事ないだろう?」


「あー?それって阿部、瑠璃花が好きだって事?」


「奥田、何度も言うけど、俺は瑠璃色の瑠璃花さんを好きだが、ラブではない」


 僕は真顔で言う阿部を見て、言葉を失うしか術はない。





 阿部・阿部・阿部・・・・・・




「やー」

 と

「ぎゃー」


 の間の声を、思いっきり僕は張り上げる。

 すると先生は飛んで来てくれる。


「瑠璃ちゃん……幾ら耀ちゃんが好きだからって……」


 先生が呆れた声を、ため息混じりに吐いた。

 その日瑠璃花は何を思ったのか、僕に抱きついて来た。

 それも驚く程の力と体重をかけて……。

 いやいやともがく僕を、絶対離さないと言わんばかりの怪力。

 その内小さな僕が転んで、瑠璃花がのしかかったまま、それでも抱きついているから、苦しくて僕は悲鳴をあげた。


「瑠璃ちゃん瑠璃ちゃん、おてて離して……瑠璃ちゃん!」


 先生が強情な瑠璃花の手をむしり取ると、瑠璃花が大声を出して泣いた。


「好きなのは分かるけど、耀ちゃんまだ小さいからね……」


 瑠璃花……お前の〝好き〟は怖すぎる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る