第6話 そうかな?あんなの美人かな?

「奥田君付き合おうか?私たち?」


「えっ?」


 そんな僕は、一学年上の高田先輩から、ある日唐突に言われた。

 高田先輩とは、中学の時に部活が一緒だった。

 余り部員もいない感じの読書部は、一生懸命部活をしたくない生徒や、ちょっと人見知り的な生徒、物凄く本好きな生徒が入部するから、部員の数はまあまあだが、ただ活動する人数はそう多くはないし、月に一回の部活の授業に部員が揃うくらいの部だった。

 だが僕とか高田先輩などは、意外と本好きなのでそれ以外でも部活に勤しんでいたから、必然的に親しくなったという感じだ。

 ……確か中学三年生の時には、同じ三年生の運動部の彼氏さんがいたような?


「奥田君って、本城さんと仲良いんでしょ?付き合ってんの?」


「えっ?ええ?無いない……付き合ってなんか無い」


「……よかった。本城さんって、頭良いし美人だし……とても敵わないって思ってた……」


「そうかな?あんなの美人かなぁ?」


「男子の憧れの的だよぉ。何人も告って、玉砕してるって有名だもん」


 瑠璃花が三年生からも、告られたと噂になっている。

 他にも、言い寄る男子が尽きないとも聞いている……。

 何時ごろからだろう、〝まんま〟大好きポッチャリ瑠璃花が、スッと背が伸びてスラリとモデルの様な体型になったのは?

 いつも僕を押しつぶして踏みつけていた、あの瑠璃花が……。

 誰が見ても眼を見張る程の、抜群のスタイルの持ち主と化したのは……。

 その頃からかもっと前からだろうか……瑠璃花は僕を見もしなくなった。

 名を呼ぶどころか顔を見るどころか、僕の存在を忘れてしまったかの様に……。


「……どうする?付き合う?」


 高田先輩は少し何時もとは違う様子を醸し出して、僕に近寄って来て聞いた。





 愛菜・愛菜・愛菜・・・・・・





「瑠璃ちゃん!耀ちゃんはやっと、伝え歩きができる様になったんだからね、だきだきしちゃダメなんだよ〜」


 先生が一生懸命説明してくれる。


「うんうん」


 瑠璃花は、そのつぶらな瞳を一心に先生に向けて頷く。


「瑠璃ちゃん偉いねぇ」


 先生は物凄い微笑みを向けて、瑠璃花の頭を優しく撫でた。

 すると瑠璃花は嬉しそうに、ちょっとだけ上手になった歩行を早めた。


「きゃ〜瑠璃ちゃ〜ん!」


 先生の悲鳴がお部屋に響いた。

 鈍臭い瑠璃花は何にも無い畳に躓いて、ちょっと離れた所でやっと伝え歩きしている僕に向かって、抱きつく様に突っ込んで転んだ。


「ぎゃー」


「うわーん」


 押しつぶされた僕は、顔面を畳にぶつけて泣いた。

 全て僕に受け止められた瑠璃花は、何故泣くんだ?

 吃驚しただけで泣くんじゃないよ!


「瑠璃ちゃ〜ん」


 先生の吹き出す笑いが、微かに聞こえた。

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