第9話 俺と愛菜ちゃんは、お前と瑠璃色の瑠璃花さんを応援している!

「……いいか奥田……」


 阿部は、小さくつぶらな瞳を向けて言った。


「俺と愛菜ちゃんは、お前と瑠璃色の瑠璃花さんを応援している……」


「えっ?愛菜ちゃん?」


 僕は聞き捨てならない言葉を耳にして、阿部を再び凝視した。

 すると阿部はちょっとシマッタ感を露わにして、ほんのり顔を赤らめて見せた。


「えっ?えっ?お前らマジ?」


 いつの間に?瑠璃色の瑠璃花にラブでないと公言した阿部は、立川愛菜と?〝ちゃん付け〟……それも名前の〝ちゃん付け〟する間柄かよ?


「……お……」


 阿部は少し、声をひっくり返して言った。


「奥田には悪いが……そう言う事だ」


 阿部は真っ赤になりながら言うと


「だから奥田。お前も頑張れ!そして夏休みには、二組で遊び歩こうじゃないか」


「へっ?」


 またまた阿部の、意味不な言葉が炸裂している。


「夏休み二組?」


「カップルカップル……」


 阿部の意味不な、不気味な動きにも唖然としながら、僕はとんでもない成り行きに呆然となった。


「だから奥田、高田先輩は諦めろ」


「いや、だから高田先輩とは冗談的な……」


「付き合わないなら、それでいい」


 阿部はそう言うと、それは物凄い勢いで僕の背中を叩いて笑った。


 ……そうだ僕は高田先輩に、そう言って茶化したのだ……


「先輩冗談キツイなぁ……僕先輩が彼氏持ちなの知ってますよ……二人がキスしてる所見ちゃいましたから……」


 高田先輩は、そのままグッと黙って僕を睨み付けていた。


「……瑠璃花の事を、嫌っているのも知ってますよ」


 先輩は、思いっきり僕の頰を叩いた。




 耀・耀・耀・・・・・




 僕はクラスが上がる前に誕生日を迎えた。

 そう……もう少ししたら、僕らはひとつ上のクラスに上がる。

 そのちょっと前に僕はやっと、クラスの皆んなと同じ年になった。


「耀ちゃん一歳おめでとう〜」


 先生達が、ハッピバースデーのお歌を歌ってくれる。


「ようちゃーん、おめ・で・とう……」


 どうやらママから、一所懸命教えられた瑠璃花が抱きついて言った。

 それを僕が厭がったので、瑠璃花が僕を突き飛ばした。


「ギャー」


 と僕が泣く前に瑠璃花が泣いた。

 そのつぶらな瞳から、それは大粒の涙を玉の様に落として泣いた。

 それは悲しそうに泣いたので、僕はそれが悲しくて声を上げて泣いてしまった。


「瑠璃ちゃん、耀ちゃんにごめんなさいは?」


 先生が瑠璃花に言う。

 だけど瑠璃花は、泣き止む事なく泣き続けている。

 僕はその時ちょっとだけ、瑠璃花が泣いた理由を分かった気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る