第8話 少しばかり色気付いていたって、仕方のない事だ

「図に乗ってるんじゃねぇぞ。いいか?高田先輩は、彼氏が瑠璃色の瑠璃花さんの話しばかりするんで、キレて別れたって話しだからな……めちゃ根に持ってるんだよ……だからお前をだなぁ……」


 阿部は、何処から仕入れた情報かしれない情報を教えてくれる。

 ……確かに……高田先輩は、中学の部活の時から素敵な先輩だ。憧れの先輩だと言っても過言ではない。

 好きになったって、仕方の無い存在だ。

 だが先輩には、同級生の彼氏さんが在たし、僕自身人様のものに目が行くタイプではないから、そんな風に思った事もなかった。

 高校生になって校舎で出会って、変わらずに親しげに話し掛けてくれたのだ、それは嬉しいに違いないし、好意だって持ってしまう。

 中学の時よりちょっと大人になっているのだから、少しばかり色気付いていたって仕方のない事だ。

 だから当然高田先輩からあんな事を言われれば、僕なんてイチコロだ。

 舞い上がって直ぐに、承諾してしまうのは当然の事だと思う。

 此処ぞとばかりに先輩と、お付き合いをさせて頂いている。

 ……頂いているのが本当だろうが、だけど僕はそれを惜しい事に逃してしまった。

 あの日……阿部達と弁当を食ったあの日の、瑠璃花の弾けるような笑顔を、久々に見てしまったから……。




 瑠璃花・瑠璃花・瑠璃花・・・・・




 瑠璃花は僕が好きだ。

 とにかく僕が好きだ。

 それはクラスの保育士の先生達が、認めている事実だ。

 それどころではない、他のクラスの先生達ですら知っている。

 それは、先生達が窓からお部屋を覗いたり、お部屋に入って来た時に、必ず瑠璃花が僕の側に居てちょっかいを出しているからだ。

 例えば抱きついていたり、例えば下敷きにしていたり、例えば踏みつけていたり……。

 その都度先生達は目敏く見つけてくれては、小さな僕に同情を寄せてくれるのだが、クラスの先生は


「もう、瑠璃ちゃんが耀ちゃん好きすぎて……」


 と言うから、保育園全体に知れ渡ってしまっているのが真相だ。

 そしてそれはママや瑠璃花のママに留まらず、クラスのママ達にまで知れ渡ってしまっている。

 ぜんたい保育士の先生は、何を意図してそんな噂を流すんだ。

 そしてを言われる時の、瑠璃花のその勝ち誇った顔は何なんだ?

 僕はを見るたびに恐れをなしている。

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