第2話 瑠璃花が、廊下を歩くと男子が騒然となる

 高校一年、瑠璃花と同じクラスになった。


 保育園の時から黒くて長くて、そして

 保育士の先生が、瑠璃花が前髪を切る度に言っていたセリフ。

 ちょっと太くて黒い眉毛が、隠れるか隠れないかギリギリの長さで、それは見事に真っ直ぐに切っている、その几帳面すぎる凄技は、保育園の七不思議の一つだった。

 そして、大きくて黒目がちな瑠璃花は、日本人形の様に可愛いくて、そしてそのまま小学校、中学校、高校と大きくなった。

 髪型も変わらずに、ただ髪が長くなったから、一つに結く様になっただけだ。


 そんな瑠璃花が、廊下を歩くと男子が騒然とする。


「瑠璃花だ」


 と言って騒ぎ立てる。

 そんな事を知ろうともしないで、瑠璃花は仲良しの女子と廊下を歩く。

 思春期の男子達に、どんな風に思われているのかすら、知ろうともせずに少し生意気な冷めた感じで……。

 いつからだろう、瑠璃花が僕に


「ようちゃ〜ん」


 と言って抱きついてこなくなったのは。

 その僕より大きな体で、のしかかってこなくなったのは……。




耀・耀・耀・・・・・・




 今日も今日とて、瑠璃花がニコニコしながらやって来る。


「瑠璃ちゃん、危ないから気をつけて……」


 と言った矢先に、平坦な畳に躓いて僕の上に転がる。


「ぎゃー」


 瑠璃花の体重を思う存分受け止めた僕が、痛みと苦しさで悲鳴をあげるのは理解ができるが、どうしてお前が泣くんだ?

 確かに痛いかもしれないが、離乳食も順調に進み、順調過ぎる程に体重が増加傾向のお前を受け止めた、離乳食を始めたばかりの状態の、まだまだ小さな僕が受け止めた衝撃とは比べ物にならないだろう。

 一瞬息が止まってしまったんだからね。

 瑠璃花、歩きたいのは分かるけど、毎日毎日平坦な畳につまづくのはやめてくれ。

 せめて転ぶなら他で転んで!

 瑠璃花の体重を、受け止められない僕の側には寄らないで!


「瑠璃ちゃん、耀ちゃんの半径1メートル以内、侵入禁止ねー」


 優しい保育士の先生が、僕に代わって引導を渡してくれた。

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