第5話
真崎からのメッセージがクラスのメッセージへと送られてきた。賑やかだった教室も真崎からのメッセージを見たクラスメートからだんだんと口を閉ざし、最後に言葉を発している者は誰一人としていなくなっていた。教室中が沈黙に包まれ、聞こえるのは隣のクラスの生徒達の話し声だった。僕は投げ出したスマホを拾い上げ、俊哉の方に顔を向ける。俊哉は至って冷静だった。俊哉と目線が会うと
「やっぱり真崎のスマホは誰かに持ち去られたみたいだな」
と耳打ちする。この事実を知っているのはおそらく僕と俊哉、それといるかもしれない犯人のみ。それ以外のクラスメート全員は状況が飲み込めないでいるようだ。
「なんで…どうして…?これ…どうゆうこと?」
結愛が不安そうな顔で僕たちに顔を向けながら、自身のスマホの画面を見せる。そこにはすでに開かれていたクラスのメッセージグループが表示され、真崎からのメッセージが一番新しいものになっていた。真崎からのメッセージは、
「わたシ を ミツけタラ 勝チ」
というメッセージの後に23:57:40というカウンターのメッセージが表示され、そのカウンターは1秒、また1秒と数字が減っている。誰一人としてこの状況をはっきりと理解している人物は誰一人いないように思えた。
「なんだよ…これ」
沈黙していた教室にそっと一言響いた言葉。この言葉をきっかけに次々と言葉が発せられる。
「どういうこと!」
「真崎は死んだんじゃ!」
「じゃあこれは誰からなんだよ!」
まるで土砂降りの雨のように、次々と不安の言葉が教室中を飛び交った。この意味のわからない状態にクラス中がパニック状態に陥った。この光景を見た俊哉は教壇へと足を向け一歩を踏み出そうとしていた。俊哉が何をしようとしているかはっきりと分かった。だから僕は、俊哉の右の二の腕をガッチリと掴みそれを静止する。俊哉が驚いた様にこちらを振り向く。
「何するんだよ!」
俊哉は僕の腕を振り払おうとしたが、僕は決してその腕を離さなかった。
「今、ここでスマホがなくなって誰かの手に渡ってるって言うつもりでしょ!そんなことしたらここにいるかもしれない犯人に目をつけられに行くようなもんじゃないか!」
僕は必死に説得する。
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」
しかし、俊哉はそんな僕の説得には耳を貸さず、僕の静止を振り切り、教壇へと向かっていく。
(だめだ…止められない!)
俊哉が教壇で真実を話そうとした瞬間、
「お前だけは許さない!」
鬼気迫る怒鳴り声がクラス中に響いた。声のした方を見ると、新庄の胸ぐらを掴んだ香取の姿があった。クラスメート全員がその光景をただ眺めている。
「てぇな…離せよ!」
新庄が香取に向かって怒鳴りつける。だが香取は決して怯まず、むしろ新庄以上に怒鳴り返した。
「あんたはいつまで文を傷つける!いつまで文を苦しめるつもりだ!死んだ後にもこんなことして何が楽しいんだ!」
「はぁ…何言って?」
「どうせあんたがこのイタズラの主犯だろ!死者をネタにして何が面白い!あんたのせいで文は死んだんだ!あんたが文を殺したんだ!」
その言葉に新庄は返す言葉もないようだった。
「あんたなんか…あんたなんか…殺してやる!」
香取はその言葉と共に右の手のひらを思い切り握りこむ。
「香取を止めろ!」
俊哉の声が教室中に響く。香取の握り込んだ拳が新庄の顔面に振り下ろされようとしたその瞬間、俊哉の言葉に反応した生徒が香取を新庄から引き離し、取り押さえた。香取も引き離そうと暴れていたが、さすがに三人もの生徒に押されられていることに観念したのか暴れるのをやめた。
「あんたなんか…死んでしまえ!」
香取の殺意の篭った言葉が教室中を駆け巡った。
「ざけんな!」
その言葉を残し新庄は教室を後にする。駒見、後藤も新庄の後をついて行った。
クラス中呆然としており、皆立ち尽くしていた。そんな状況を打破するかのようにパン、パン、という手を叩く音が響いた後、
「とりあえず皆さん落ち着きましょう。この件は彼らのイタズラのようですね」
そういったのは、
「ただのイタズラのようですし皆さんお気になさらずに。香取さんもお気持ちはわかりますが少し落ち着きましょう」
菅原の言葉に安心したのか
「ただのイタズラかよー」
「びっくりしたー!」
などと、さっきまでの緊迫した状況が嘘かのように特に気にすることもなくいつも通りに戻って行った。
「あんま良くないイタズラだね」
と結愛も先ほどまでの不安そうな顔はすでになくいつも通りのようだった。全てが元通りになったと言うわけではなく、うなだれたままの香取と事情を知る僕と俊哉だけは元通りというわけにはいかなかった。いたずらだと判明した真崎の送ったメッセージのカウンターの時刻は刻一刻と進んでいた。
騒然となった昼休みは終わりを告げ、午後の授業が開始となった。相変わらず香取は元気がなさそうだったし、教室から出て行った三人は戻ってくることはなかった。香取に問い詰められたせいか、教室にいづらくなってしまったのかそのまま授業をサボっているようだった。
全ての授業を終え、僕らはまた三人で帰宅する。三人でいる時はたわいもない話をして帰宅する。だが、結愛と別れ僕と俊哉の二人だけになると話はあの事件の話になる。
「今日の真崎からのメッセージなんか気になるよな」
俊哉が呟く。
「確かにそうだよね。一体誰があのメッセージを送ったんだろう?」
「いや、それも気になるんだけど一番はこのカウンターだ」
と俊哉はそのメッセージのカウンターを僕に見せつけていった。カウンターの文字は20:58:40という文字に変わっている。
「このカウンターはちょうど明日の12時ジャストに0になるようなってる。このカウンターが0になった時何が起きるんだろうな」
と俊哉は楽しげに言った。
「でも、これ新庄達の単なるいたずらでしょ?特に意味なんてないかもしれないじゃん」
「でも、このいたずら一体何が目的なんだ?単に楽しいだけ?」
「そうじゃないの?」
俊哉には何かが引っかかっているようだった。
「新庄達がやったとは思えないんだよな…。自分たちの首を絞めるだけでメリットもないだろ」
「確かにそうかもしれないけど…」
僕にとってはただのいたずらで特に事件性もないものであってほしかった。もうあんな悲劇は起こらないし、今まで通り三人で一緒にこれからも帰ることが出来たらそれで満足だった。結局このいたずらについて結論を出すことは出来なかった。
翌日、またも僕らはいつも通りに学校へ向かった。真崎からのメッセージのカウンターは今も動き続いており、現在は04:35:25となっている。教室の中ではこのカウンターを気にしている者はほとんどいなかった。授業中も刻一刻と時を減らし続けていた。午前中の授業も終わり、このカウンターが0になる12時まで数えるほどの時間しかなかった。今現在カウンターは00:01:30と表示されている。僕と俊哉は僕のスマホの画面をじっと見つめこのカウンターが0を表示するのを待った。残り10.9…3.2.1.0。ついに時刻は12時になりカウンターの数字は0になった。その瞬間昨日と同じようにクラス中のスマホの着信がまたも鳴り響いた。
クラス中の着信が鳴り響いたのと対照的にクラス中は静まり返っていた。昨日と全く同じ光景が繰り返されたことに不気味さを感じているようだった。またもスマホには新しいメッセージが送られてきており、メッセージの差し出し人も真崎からだった。だが、メッセージの内容だけは全く違った。今回の真崎からのメッセージはこう書かれていた。
「 ザンねん
こんカい の ヒガいシゃ は
シンじょウ とウじ
シいん ちっソクし 」
教室中が徐々に騒がしくなる。全く意味の分からないメッセージだった。やはりただのいたずらのようだと一安心したが、その直後強烈な違和感を覚える。突然教室中に笑い声が響く。
「おいおい、俺が窒息死で死ぬだって?誰だよこんなくだらねぇこと書き込んだやつ。こんな風にか?く、くるしい〜。たすけてぇ〜」
とおどけるように、自分の両腕で首を絞める真似をしている。その様子を見て駒見、後藤は爆笑している。僕は新庄の言葉で強烈な違和感の正体に気がつく。
(このメッセージを送ったのは新庄達じゃない!?)
僕は俊哉と顔を合わせる。どうやら俊哉もこの違和感に気づいたらしい。
(じゃあこのメッセージを送ったのは一体…)
ー バタン ー
突然教室中に何か大きなものが倒れる音が響いた。その音の主は新庄だった。
「がっ…がっ…」
新庄は声にならないような苦しそうな声を出している。
「おいおい、ふざけすぎでしょ」
「迫真の演技すぎw」
と駒見、後藤が新庄を冷やかすが、新庄は一向に起き上がろうとはしなかった。むしろ苦しさは増しているように見える。
「おいもういいって…」
駒見が新庄をなだめるように声をかけるが、一向に新庄が辞める気配はない。むしろさっきより小刻みに体が震えている。
「おいもうやめろって!」
明らかに普通じゃない新庄の様子に駒見は声を荒げる。それでも新庄は辞めることはなかった。この時、そばにいた駒見だけじゃなく、クラスメート全員が新庄が悪ふざけでこんなことをしているんじゃないと察した。新庄は、激しく痙攣しのたうちまわっていた。
「おい!おい!」
駒見は声をかけ続け、新庄の身体を無理やりにでも押さえつけようとするが、決して止まることはなかった。しばらくすると、新庄はのたうちまわることをやめた。
「あっ…あっ…」
新庄の口から喘ぐような声が聞こえた後、そのまま動くことはなかった。教室中が静寂に包まれる。
「新庄?新庄!?」
駒見が新庄に声をかけ続ける。あいも変わらず返事はなく、見るからにぐったりとしている新庄はすでに意識がないようだった。
「おい!新庄が息してねぇよ!死んじまってる!」
駒見のその言葉に教室中が騒がしくなる。信じられない言葉だったが、駒見が何度も何度も身体を揺すっても目を覚ますことがない新庄の姿が全てを物語っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます