第4話

 俊哉の言葉に耳を疑った。

「それは…真崎が誰かに殺されたってこと?」

真崎が自殺したということだけでも信じられなかったし、殺されたなんて考えもしなかった。

「多分…。とは言っても直接手を下して殺されたってよりも、自殺させるように仕向けられたって言ったほうが正しいのかも」

「でも…いじめが原因なんだろ!ってことは、犯人は…」

と名前を口に出す前に口を閉ざす。これ以上先は言ってはいけないような気がした。そんな僕を見て俊哉はこう答える。

「新庄たちの可能性はかなり高いと言ってもいいだろうな…。だが、あいつらは俺の目の前で教室に向かって行ったのを見てる。あの後すぐに、屋上に向かう時間はなかった。」

俊哉の言いたいことがわからない。

「つまり…どういうこと?」

「新庄たちは利用されたに過ぎないってこと。新庄たちのいじめを利用して第三者が真崎を自殺に追いやった…」

そう言って俊哉は口をつぐむ。俊哉の返答は思いもよらぬものだった。それは言い換えればクラスメートの中に殺人を計画した者がいるということでもあった。

「それって…俺たちの中に…殺人犯がいるってこと?」

思わず尋ね返す。

「クラスメートかもしれないし、部外者かもしれない。」

僕はその言葉に少しホッとした。クラスメートの中に殺人犯がいない可能性があるということに安心したのだ。

「まあ、これは俺の予想にしかすぎないけどな。実際またねって言葉は特に意味はないのかもしれないし」

と俊哉は引き締まった空気を緩めるように言った。

「だけど、それはそれで嫌な気分だけどな。俺達がなんとかしてやれていたら起こらなかっただろうし」

と俊哉は自分自身の不甲斐なさに怒りを感じているようだった。

「そうだね…」

と僕もうなずく。すると俊哉は

「なぁ、俺たちでこの事調べないか?」

僕はその言葉に驚いく。

「悔しいのはわかるけど。警察に任せようよ」

僕は俊哉をなだめるように答えた。流石に無鉄砲すぎる。それは犯人がいたとしたら、直接関わりあうということだ。最悪僕らが狙われるかもしれない。

「だけどこの件に関しては俺らにも責任があるだろ」

俊哉のその言葉は僕の胸に突き刺さる。返す言葉がなかった。真崎のいじめに関して僕は何もしなかった。自分が次のターゲットになるのではという恐怖心で真崎へのいじめを見て見ぬふりをしてきた。しょうがないと言い聞かせて他人の振りをしてきたのだ。

「わかったよ…。でも危なくなったらすぐにやめさせるからね」

僕はこの事件を調べる事を了承した。僕をこう思わせたのは、罪悪感からだった。少しでも自分の責任を軽くしたいという気持ちが働いたのかもしれない。

「おっし、それじゃあ明日から情報集めてこう」

と俊哉は言った。何故ここまで真崎の事に必死になれるのだろう。持ち前の正義感の強さがそうさせるのか。ただ、僕には俊哉が楽しんでいるようにも見えて不安を感じていた。


 翌日、いつものように三人で学校に向かっていく。全てが普段通りだった。ただ真崎がいないと言うことを除いては。真崎の座席には一輪の白い百合の花が花瓶に生けられていた。真崎の座席だけぽっかりと存在していないかのように、クラスメートはいつも通りに過ごしている。いや、気にしないように過ごしているようで少しぎこちなさがあった。僕らのクラスは三十一名だった。今は三十名になってしまったが…。この三十名の中に真崎を自殺させた犯人がいるかと思うと恐ろしくなる。ただただ俊哉の勘違いである事を願うばかりだ。僕らは早速クラスメートから話を聞く事にした。まずは真崎の友人の香取六花かとり りくかから話を聞くことになった。

「ちょっといいか?」

と俊哉は香取に声をかける。香取は一瞬顔を伏せたが、すぐに顔をあげて笑顔を見せた。僕らに気落ちした姿を見せたくなかったのか無理して笑っているような気がした。

「何?」

香取は答える。

「昨日の真崎の行動わかるか?」

と俊哉は尋ねた。

「何でそんな事聞くの?」

香取は不審そうに俊哉に尋ね返す。

「ちょっと気になることがあってさ」

と俊哉の言葉にさらに怪訝そうな顔をした香取だったが、真崎の事について話してくれるようだった。

「そんなに話せることはないよ。この教室に来てすぐどこかに行っちゃったし。その後からずっと文はかえってこなかった。私から話せるのはこんな所」

「何か不審なところは無かったか?」

俊哉は食い気味に質問する。

「特に不審なところは無かったよ。いつも通りだった。自殺するようにも見えなかったしね…」

と香取は真崎の事件を思い出してしまったのか、一瞬口をつぐむ。しばらくの沈黙の後、香取は口を開いた。

「そういえばどこかに向かう前にスマホのメッセージが来てたような…」

香取から聞けた情報はそれだけだった。どうやら香取は誰かからのメッセージを受けて教室を出て、それ以来姿が見えなかったらしい。

「メッセージってきっと新庄達からだよね」

「普通に考えたらそうだろうな。真崎のスマホが見れれば早いんだけど」

と俊哉は未だに第三者が関わっていると信じているようだ。引き続きクラスの面々に話を聞いていく。

「真崎さんのこと?昨日はまず見かけてもないしな」

「真崎?なんかびしょびしょで屋上に取り残されてたんだろ」

「あー悪い。全くわからないわ」

だが、真崎について詳しいことはこれ以上わからなかった。残りのクラスメートに話を聞こうとしていたところで、

「何してるの?」

と肩を叩かれる。振り向くとそこには結愛の姿があった。

「なにもー。ただみんなが心配でさー」

と俊哉が答える。僕もそれに便乗するように曖昧な返事をした。

「私も手伝おうか?」

「いや大丈夫!もう大体終わったしな。なっ?重吾

」はぐらかすように答えた俊哉に僕は同意する。

「そっか」

とその言葉だけを残して結愛はその場を去っていった。僕たち二人は真崎の事件を調べていることを誰にも話さないようにしていた。中でも結愛にだけは絶対に知られないようにしないといけないと二人は硬く誓い合っていた。二人とも結愛を巻き込みたくなかったからだ。ばれたらきっと結愛も一緒に調べると言いかねない。たとえ拒否したとしても必ずついてきてしまう。そんな確信があった。だからこそ結愛にはこのことは隠し通さなければならなかった。

「とりあえず今回はこの辺にしておくか」

と俊哉も結愛にバレてしまう事を恐れたのか今回はここまでにする事になった。


 学校が終わり、三人で帰宅する。今日は真崎の葬式があるためまっすぐ帰る事にした。会話も結愛にバレないように真崎の事件のことを話すことはしなかった。スマホの調子がおかしいだとかアイドルの〜が可愛いだとか至って普通の会話をするだけだった。家に帰り、葬式のへ行く準備をする。とは言っても服は制服を着ているし、特に持っていくものもないのでほとんど準備をする必要はなかった。スマホには俊哉からのメッセージがきていた。

「葬式でも話聞くから」

そんなことまでしなくてもと思ったが、俊哉は言い出したら止まらない性格である事は重々承知していた。

「失礼の無いようにね」

とだけ返信した。俊哉は本当に真実を突き詰めるのだろうか。俊哉ならやりかねないし僕がちゃんと目を配っていかないと。そう心に誓った。


 真崎の葬式に出向く。あたり一面真っ黒の喪服を着た人々で溢れかえっており、僕らの制服だけ浮いているように思えた。

「よっ」

そこに俊哉と結愛が二人でやってきた。受付を済ませ、お焼香へと向かう。真崎の遺体は損傷が酷く、すでに火葬された骨だけになっているようだった。慣れない手でお焼香を終える。お葬式はの独特な雰囲気は何度やっても好きには慣れなかった。同時にお焼香を終えた俊哉が声を掛けてきた。

「真崎の両親のとこ行ってスマホのこと聞くぞ」

「結愛はどうするの?」

「ああ…そっか」

と特に無いも考えていないようだったので、僕は結愛と一緒に残り、俊哉が真崎の両親に詳しい話を聞いてくる事にした。僕にはこの状況で話を聞くなんて度胸は正直なかった。

「ちょっとトイレ行ってくるわ」

と俊哉は言い、真崎の両親の元へと向かっていった。僕と結愛は二人で待つ事になった。しばらくの間沈黙が続いていたが、結愛の言葉に沈黙が破られた。

「本当に…何もしてないの?」

結愛の言葉にどきりとする。

「なんのこと?」

ごまかすように答える。少しわざとらしかったか?

「ふーん…そっか…」

と結愛はこれ以上の追求をすることはなかった。またも沈黙が訪れる。沈黙に耐えかね、結愛に声をかけようとしたその時俊哉が戻ってきた。

「わりぃわりぃ、まった?」

「トイレにしては長く無い?」

と、結愛は疑いの眼差しを向ける。

「ちょっと、キレが悪くてよ」

と俊哉は冗談まじりに答えた。このまま僕たちは帰宅する事になった。いつも登校で見慣れている道も夜になるとまた違う景色に見えた。結愛を家まで二人で送る。

「二人ともじゃあね!」

と結愛の別れの言葉に二人は手を振り答える。そのまま二人で帰路につく。真崎の両親からは何か聞くことはできたのだろうか。

「何か進展はあった?」

好奇心から俊哉に尋ねる。

「真崎のことか?あまり事件に繋がるようなことはわからなかった。ただ、お目当のスマホは何故か真崎の遺体にも持ち物にもなかったらしい」

「スマホが…なかった?」

「そう…どこにもな」

香取の話だとメッセージを受け取った真崎はスマホを持ったまま教室を出たはずだった。それなのにスマホがないということは何処かで失くしたか…もしくは…。

「誰かが真崎のスマホを持っていったか。」

俊哉が僕の考えを悟ったかのように言った。

「持っていったとしてもいったい誰が?」

「新庄達が持っていったか…もしくは…そのほかの誰かが持っていってしまったのか」

僕はここでふと一つの方法を思いついた。

「明日教室で真崎宛にメッセージを送って見たらどうかな?着信音でわかるかも」

我ながらいい提案だと思った。しかし俊哉は

「いいとは思うけど…。真崎のスマホなんて持ち歩くなんてことしないんじゃないか?」

確かにその通りか…。僕がもし犯人なら持ち歩くことはしないですぐに処理してしまうだろう。

「ならスマホをなくした可能性を考えて着信音で携帯をまず探してみたらどうかな?」

「それならスマホが誰かに取られたって可能性がグッと高くなるし運が良ければスマホ自体が見つかるかもしれないな…」

と俊哉はしばらく考え込むと、

「どうせ新庄達に話聞いたところで相手にされないだろうしその作戦やってみるか!」

ということで、明日の昼休みにその作戦を結構する事になった。そんな話をしていると、二人はすでにそれぞれの帰路につく事になった。

「じゃあね」

と俊哉に別れの言葉をかけ僕は帰宅した。


 翌日の昼休み、僕らは真崎のスマホにメッセージを送る事にした。俊哉がスマホを取り出し真崎のスマホにメッセージを送る。


-ティロン-


スマホの着信音が教室中に鳴り響く。ただ、着信音を鳴らしたのは真崎のスマホではなかった。着信音を鳴らしたのは、クラス全員のスマホだった。

(こんな時にクラスグループにメッセージ…?)

クラスに今いるならはば不必要とも思えるグループへのメッセージ…。僕はグループのメッセージを開く。僕はそのメッセージの送り主を見てスマホを投げ出した。


スマホの画面にはこう表示されていた。


ー 真崎文からのメッセージを受信しました ー

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