第24話 剣帝

「この怪物の正体の名前は――」


イスリアは何故か裸になっていながらも俺にこの目の前で鎖と錠によって腕が使えなくなっていても、まだ抵抗している怪物の説明をしてくれていた。


「正体は、なんなんだ?」


俺はイスリアに問うた。


「そう、正体は『ユウ』よ」


なっ……!


俺は驚愕していた。怪物の正体がほんとにユウならば、どうしろというのだ。怪物は抵抗力を強めていき、ついに鎖と繋がっている錠を腕の力だけで破壊していた。


『グルアアアア!』


力強い雄叫びを発したユウはもうユウじゃなくなっていた。あいつらが言っていた実験台というのが、これと関係しているとしたら……。クッ!どうすればユウを取り戻せるんだ。



「あっ……。私が服を素材にして魔法で作った鎖と錠をいとも簡単に……」


「イスリア!ユウを取り戻すにはどうしたらいいんだ!なにか手段はないのか!」



「手段……。わからない。私に分かるわけないでしょ!」


「そうだよな……」


俺が首を項垂れて考えていた時だった。ユウが本物の怪物のごとく俺目掛けて突進してきた。怪物のごとくというか、怪物なんだけどな。


ユウは左腕を振り下ろしてきた。その腕は漆黒に染まり、真ん中には二本の深紅の線があった。そして爪は飛び出ていて、いかにも簡単に相手を斬れそうな爪である。この攻撃に対し、俺は反射的に交わしていた。



「ユウ!やめるんだ!お前は怪物なんかじゃない!」


しかし、ユウから返ってくるのは『グルアアアア』という雄叫びだけだった。


「クソッ……戦うしかないのか……。でも、ユウを……大事な家族を……傷つけたくない……。やっぱり……戦う」


俺はユウと戦う決意をした。あいつはもう、この世にはいない。怪物に成り果てた。もう、ユウじゃないんだ……。



ユウは次の攻撃に転じていた。左腕が交わされたら今度は右腕で俺に振り下ろしてくる。だが、これもまた俺は交わす。迷うことなんてないんだ。俺は渾身の一撃をユウの腹に叩き込むが、ぴくりともしない。


「あ、やべ……」


やばいと思った俺はすぐ、後ろに退く。退いた直後にユウの背中からトゲによる攻撃がくる。何個ものトゲを俺は腕をクロスさせて防ぐ。だが、防ぎきれずに腕から血が出てくる。このままじゃ負ける一方だ……。あれを使うしかないな……。


俺はアルティメットボディを発動させた。これで、勝つ――。


ユウと俺のパンチによる激しい攻防が続いた。しかし、ユウには魔物じみた爪があるため俺の拳からは血が出てしまう。


「クッ……アルティメットボディでも血が出てしまうほどの高火力……。やばいなこれ」



*******************



「こ、ここは……」


私は私以外誰もいない真っ黒な空間で一人呟いていた。目の前を見ると、そこは白い光景があった。覗くようにして近づくとそこに映っていたのは変な色とりどりの不思議な空間が広がっていた。前に目を合わせるとそこには私にとって大切な人がいた。その人の名はボーマくん。


「なんで……なんで構えてるの……?」


私は質問するけど誰も答えない。


「どうして……どうしてそんなに……辛そうなの……?」


やはり、答えは返ってこない。私がどこにいるのかすらもわからない。ただ、目の前にはアルティメットボディを使っている戦闘態勢のボーマくんの周りの風景だけ。周囲は真っ黒。



「寂しい……早く、早くみんなのとこに……戻りたいよ……」


私は強く願うけれど、答える声があるはずもなく、私はただ一人、孤独感を抱きながら静かに体育座りで頭をかかえこみながら座る。


「私はどうしたら……」


『俺は……俺はユウを助ける!!うおおお!!!!』


響く声が前からした。窓越しに、ボーマくんの声がする。ボーマくんは構えながら近づいてくる。そして拳を私に向かって振りかざす。しかし、当たる直前に炎の魔法(?)がボーマくんを襲ったため、ボーマくんは魔法に当たってしまい吹き飛ばされて、背中から地面に倒れる。痛そうだ。


「ボーマくん……頑張って……」


*******************


「グハッ!」


俺はユウの口にできた魔法陣から出てきた炎に当たり、倒れてしまう。あれはブレスに似た魔法攻撃なのだろう。俺の体に激痛が走る。アルティメットボディで最大までステータスを高めたはずなのに、ダメージを負うほどの高火力を誇るとは……。ほんとに俺がユウを救えるのか?無理な気がしてきてならない……。


『力が……欲しいか?』


誰かが俺に話かけてきた。気づいたら辺りは真っ暗だ。だが、細い物体から出る光によって目の前は明るい。その物体から声が発せられたということだ。


「お前は……誰なんだ?そして、お前はどんな物体なんだ?」


光が強すぎて逆に物体が見えない。物体は答える。


『我の名は、剣帝:カイルズ・シャイン。南領の剣帝である。我のこの現在の体は剣だ。お前に力を貸すためだけに、剣となって会いにきたのだ。この剣は世界最高峰の価値がある。では、順に話そう』


『まず、お前をこの世界へ召喚したやつのことを話そう。そいつは東領の剣帝であった』


「あった……?過去形じゃねぇか」


『その通り。彼はすでに亡くなっている。お前をこの世界へ黒の賢者と共に召喚を果たした時に、貴様に自らの力を与えたという。まだ、目覚めていないようだが、貴様は現、東領のという訳だ』



「なっ……!」


俺は驚愕した。あまりにも急展開過ぎるし、俺が剣帝っていうのがまず謎。黒の賢者はなぜ俺を召喚しておいて敵である皇帝へ加担したのかも謎だ。謎が多い。


『驚くのも無理もない。急に言われたら尚更な。これから貴様は剣帝としてこの東領を守っていくということになるのだ。無論、他の領も守ってほしいのだが。そこまで皇帝の実力はやばいということだ』


「は、はぁ……」


俺は息を吐き出すことしかできなかった。俺が剣帝として守っていく?馬鹿なん?と思ってしまったが、たしかに俺の成長度は尋常じゃなかった。剣帝だからなのか?。召喚主が俺の体に力を与えたとなると……。目覚めたら東領最強になるってわけか……?


『最初に問うた、力が欲しいかという質問だが、答えはまだか?』


そうだった。他の話ですっかり忘れていた。


「ああ、俺は力がほしい……。ユウを救えるほどの力が……」


『よかろう。貴様に今だけ我が力を貸してやる』


そうして、カイルズ・シャインの現、姿である剣は今だけ俺の装備となった。


暗闇は晴れた。俺は倒れていたはずなのに起き上がっている。もう、迷うことはない。俺は強く光輝く剣を縦に振りかざし、ユウに向かって太い勢いのある光線を剣から放出させた。それはユウに直接当たり、ユウの身体に取り憑いていた魔物はユウから離れ、消滅した。ユウは意識を失い、その場で倒れる。


そう、ユウは無事に元の姿に戻ったのであった。


「ユウ……!!イスリア!!」


俺は大切な二人に向かって走り出して、肩を貸して歩きだし、魔法陣の中から出て行った――。

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