第21話 誘拐
まずいな……。このままじゃ俺はここで死んでしまう。ユウ、いったいどうしたのだろうか……。俺の手には腹から出た血が付いている。体が寒い。この感覚……。前にも同じようなことがあったよな……。あの時もたしか、イスリアと一緒だったよな……。
「――ん、――くん、――ボーマくん!!」
「ん……?朝……か」
「朝かじゃないわよ!父上があなたに仕事してくれと言ってたよ。早く玉座の間に行った方がいいんじゃない?」
「そ、そうだな……」
俺は自分の手を見る。やはり血が付いてない。腹からも血はどっぷり出てきてないし。あれは夢……だったのか?でも、イスリアはちゃんと隣にいるし。シングルベッドで2人きりだし?意味わからん。
俺は起き上がってカーテンを開けて窓を見た。そこには東領最大の都市が存在する。存在するといっても、屋敷はその都市のど真ん中にあり一番デカいんだよな。皇帝に都市を破壊されなくて助かったと言っていいのだろうか。とりあえずかけてあった服を取って寝巻き姿から着替える。そして愛用している相棒である剣を身につける。
「じゃあ行ってくるわ」
「はいはい」
まるで夫婦のような挨拶をして俺は玉座の間に向かった。そういやアウストロの一家はどうしたんだろ……。
ここだな――
俺は軽くノックを3回してドアを開ける。
「し、失礼します……」
「そんなにかしこまらなくてもよい。俺とボーマの仲ではないか。まあ、話とは……。そう、ユウ・アウストロのことである」
なっ……!?俺は顔に表情を表さないでいたが、内心は驚いているのだ。まさか、正夢になるのではないかと恐れてもいる。
「ユウのことで……何かお話があるのですか?その内容を……」
「そこまで言わなくても話すつもりでいたのだがな、ユウは昨夜謎の黒いフードに包まれた人物と共にどこかへ出かけたという情報が入った。彼女は大事な戦力というのもあるし、立派な国民でもある。そして、一番親しい君に、様子を見に行って欲しいのだ。彼女らが向かった場所は定かではないがな」
!?!?ま、正夢になっちまったじゃねえか……。いや、ひょっとしたらあれは未来予知だったのかもしれない。
「わかりました。手当り次第に探します。ご報告感謝します」
俺はお辞儀をして玉座の間から出た。ユウがついていった謎の人物……。いったい何者なんだ。手がかりが少なすぎる。とりあえず部屋に戻って作戦を練ろう。
「イスリア?いるか?入るぞ」
俺は部屋へ入った時、愕然していた。イスリアが……その場にいないのである。
「嘘だ……ろ。イスリアーーー!イスリアはどこなんだ!!イスリア!」
部屋に戻って作戦練ることも忘れて部屋から飛び出し、屋敷内でひたすら呼びかける。道中に屋敷内の者達から「大丈夫か?」と声をかけられるが、それを無視して俺は叫びながら走り続けていた。そう、俺は見落としていた……。
俺とイスリアの部屋の窓が開いていたことに、俺は気づきもしなかったのである――。
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