第16話 後継者


「貴様がグランデとアウストロが協力して召喚した人間か。フンっ、弱々しい体をしておるわ……。おい、ウールラ、お前はあの上から見下ろしている二人を倒せ」



皇帝は誰もいないとこに命令をしている。謎すぎる行動に戸惑うが、冷静に抜刀しながら考える。皇帝はたしか、自分は幻影魔法を使ってバレずにここまで来れたと言っていたはずだ。


まさかとは思うが……。もうすでに帝国軍の包囲網にあるのか否か。その皇帝が命令した人物が足から段々姿を現して完全に人となりて出現した。



「はい。陛下。ただちに任務を遂行します」


声は女性であった。しかし、顔が鬼の仮面で隠れているため、よくわからない人物だ。



「ああ。俺が召喚された『 勇者だ』。貴様の悪政を止めるために異世界からやって来たのさ。覚悟せよ」



俺はデタラメなことを言って皇帝に斬り掛かる。


「甘い剣技だな。その程度では到底我には及ばんぞ」


皇帝は紫色の魔法陣を体の前に出現させ、魔法をなにやら唱えていた。唱え終わった時には魔法陣の中から、紫と黒でできた剣が出現する。



「この剣の名前はダークネス・ソード 漆黒の剣だ。この剣から強力な魔力を感じるだろ?その正体は私自信だ。私自ら力を与えているのだよ。そうすることにより、とてつもない力を発揮する」



ダークネス・ソードだと……。あいつは武器生成魔法を使えるのか……。たしか、ユウの見せてくれたやつに似たような魔法があったはずだ。


だが、俺の手には剣が……。戦える剣がすでにある。これでどうにか太刀打ちできる方法を探さねば。


「俺の力を甘く見るなよ?」


俺は魔法を使って一気に足を加速させて皇帝のすぐ目の前に到着する。そして剣を最高の速さで皇帝の懐にいれようとした。


しかし皇帝は予知していたのか、俺の攻撃を軽くダークネス・ソードで受け止めた。


「ほう。魔法と剣を合わせた戦いをするのか。いい戦法だな。しかし、それではまだまだだな」


その後皇帝と俺による激しい剣戟が繰り返された。約百合ぐらい打ち合ったあと皇帝はあとずさりして体勢を立て直すみたいなので俺もそれを見習う。


ウールラは上半身を前に突き出す形で飛んでいた。獲物を殺すためである。彼女は魔法陣からエクスカリバーを出現させて光をエクスカリバーの先端に集中させる。


「さよなら……二人とも……」


仮面の中の顔に涙が滲む。とても心が苦しい。



皇帝はベドにも任せようとしていた。


「ウールラは失敗するかもしれない。ベド、お前にも頼もう。あの2人の始末を」



「はっ!必ずや首を取ってきやす!」


ベドは姿を眩ましながらウールラを通りすぎ、巨漢の男へ向かって、剣を振り下ろす時に姿を露にした。


サドは素っ頓狂な声で驚く。


「な、なにぃ!?いきなり将軍クラスの奴が現れよった。あの仮面男も倒せなばならないのに」


不満に思うサドだったが、それでも対応して剣とサドが斧の激しい戦闘が始まった。



皇帝はまた魔法陣を作っていた。魔法が今にも飛び出しそうである。俺は魔法攻撃を阻止するべく、この『魔封じの剣 』を魔法陣に当てれば当てられた術者は魔法を一定期間使えなくなるので、魔法陣へ剣を当てにいく。


しかし――あと数センチで届く距離だったのになにかが体に背中から刺さったため、刺さった瞬間背中から大量の血を吹き出して、俺は刺さったまま床に倒れてしまった。



「ん?いきなり紫色の槍に刺されるとは実に不幸な少年だな。ストレンジャー・ボーマよ」


む、紫色の……槍?


俺の顔からも血がダラダラ流れ出す。ユウの泣き叫ぶ声が木霊する。



「だめぇぇぇぇぇ!!死んじゃいやあああ!」


ユウはベドとサドを押しのけ、手すりからダイブ、着地したあとに俺目掛けて走ってくる。来るな、来ちゃだめだ……。


ユウへ向かって俺に刺さったものと同じものが襲いかかるが、それらは全てユウに触れる前に砕け散っていった。ユウはオールガード完全無敵 の魔法を発動していた。



しかし、完全無敵というチート能力なだけあって代償が存在する。それは――メモリーブレイク思い出破壊攻撃である。


その名の通りであり、攻撃を防いだ数に応じて思い出は一つずつなくなっていく。昨夜のあれも、家族との思い出も全てなくなる覚悟でユウは走る。


しかし、それを皇帝は許さない。皇帝は赤色の魔法陣を作り、火属性究極魔法であるダイナミックファイヤ 爆破炎撃を発動させた。


しかしそれは、槍を放った正体が指1本で防いでみせた。


「この程度で自分が最強だと思っているの?はは、はははは!ばっかじゃねーの?」


そこには黒に染まった服を着ていて紫色の目をしており、体格や身長的に10代前半の小学生レベルの少年がいた。


「き、貴様……俺を侮辱したなぁあ!?」


皇帝は怒り狂い、数多の究極魔法をぶちかますが、それら全てを指10本を巧みに使って消滅させた。



「指1本で消せるような魔法じゃあ……ぼくには勝てないよ?だからやめときな?君はここで死ぬ運命なんだよ?いや、この場にいる全員かぁ……フッフッフ、アッハハハハ!」


だれ……なんだ……高笑いしているやつは……。俺は、うつ伏せに倒れながら考えていた、その時。ユウが俺を暖かい光で包み込んだ。すると、みるみる体の傷は治されていき、槍も消滅する。



「よ、よかっ……た。死んで……いない。間に合ったんだね……」


俺は体を少しずつ起こしながら、ユウに思いっきり抱きついてしまった。


「ユウ……ありがとう!おかげで死ぬ間際だったのが助かったよ。ありが……」


ありがまで言いかけた時、ユウの背中から血が出ていた。思わず手を見たらユウの血がどっぷり付いていた。ユウは目を白目にさせて顔を青ざめさせながら、俺の膝に顔ごと体を倒した。



俺は、怒りに満ちていた。絶対にあの男を……少年を許さない。ユウの背中には俺を倒した時と同じ槍が刺さっていた。あいつだけは、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺殺殺――


俺は目を鋭くして少年を見た。


「俺の名はストレンジャー・ボーマだ。貴様を殺す剣士である。貴様だけは絶対に殺す!!」


「名乗られた以上、名乗り返さないといけないね。ぼくの名前はアーカス・グランデ。黒の魔導書のであり、この世界最強の魔法使いさ!」



彼は自らを最強と言った。たしかにあいつは強い。俺はユウの恨みを晴らす為にも、必ず、あいつを殺さなきゃならない。絶対にユウも助ける。あいつも殺す。俺は天にそう誓った――

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