第7話 クルーツ家の兄姉

兵士が一人、私の元へ情報を教えるためにやってくる。

私の名前は、クリスタル=フォン=クルーツ。現クルーツ家の当主であり、帝国東領を治める貴族でもある。言わば、領主ということだ。


「どうしたんだ、そんなに慌てて」


「ハアハア、大変です!帝国軍から、約3000の軍が……こちらに鎮圧するために攻めてきます……!対策をしなければ、我らの反乱軍は崩壊する可能性が!」


彼は走って来たのか、疲れながらもテキパキ情報を伝えてくれる。


「知らせてくれて助かる。まずは、南領から徐々に侵略して行こうと思っていたのだがな。ここで、兵力を失う訳にはいかぬ。至急、我が愛娘のイスリアに連絡を。弟のカルトンと共に敵兵約3000を二人で全滅させて来いと伝えてきてくれ。そのあとは、ゆっくり体を休めるがよい」


「はっ!!ただちに知らせに向かいます!お言葉に甘えさせていただきます」


最後に彼は綺麗なお辞儀をして、部屋から出て行った。


「頼むぞ、カルトン、イスリア……。君たちに反乱軍の未来がかかっている」


ドアを叩く音が聞こえる――。私は、入ってどうぞと優しめな口調で応える。


「はっ!失礼します!」


入って来たのは、一人の一兵卒だった。


「私にご要件があって、来たのでしょう?早く聞かせてくださる?」


そう私が言うと彼は、何故か頬を赤く染めながら早口気味にそれに答える。


「は、はい!現在帝国軍約3000の部隊がこちらに攻めてきておりまして、領主様がイスリア様とカルトン様に至急その部隊を全滅させよ、との命令が下っております。至急、準備を整えて向かってください」


「ご報告ありがとう。私とカルトンは、兵士がいなくても勝てると、父上は思っているのかしら……。まあ、いいわ。東領に到達する前に全滅させてあげる。カルトンをここに呼んできてくれるかな?」


「了解しました!カルトン様を連れてきます」


彼は、お辞儀をして部屋を出て行った。


「3000の兵士を相手に、二人だけでなんて圧勝は難しそうね……。でも、兵士だけの部隊なんてありえない。きっと、かなり戦上手な将軍がいるんだわ。ふふ、楽しみ」


私は舌なめずりをして、騎士服に着替える準備を始める。



「カルトン様!カルトン様!今いらっしゃいますか?」


ドアの向こうから、一人の声がする。きっと、一兵卒が俺様に情報を届けに来たのだろう。ドアを叩きながら、彼は俺様を呼ぶので仕方なしに部屋に入れてやる。


「フンっ、さっさと入らんか」


「はっ!失礼します」


彼はおそるおそるドアを開け、閉める。すると、俺様に届く声で


「現在、帝国軍約3000の部隊がこちらに攻めてきます!一刻を争うので、ただちにイスリア様と共に全滅させよとのこと!」


「ふむ、3000ぐらいなら我ら兄姉で十分だ。部隊という物には、必ず指揮官が存在する。指揮官が誰かわからんのか?」


俺は情報を伝えに来てくれた一兵卒に尋ねる。これは、全滅させることにおいて大切な情報なのだ。しっかりとキャッチしておきたい。


「す、すいません……。残念ながら、指揮官を見ることは叶いませんでした……。ほんとうに申し訳ございません!」


彼は、謝罪と同時に土下座をする


「男が土下座など……。やめたまえ!指揮官を確認できなかったのは痛恨のミスだが、仕方ないことだ。そなたはよくやった。我、カルトン。ただちにイスリア姉と共に向かおう」


「か、感謝します……」


彼は、急ぎ足で部屋から出て行った。俺様は、他人のことなど一切躊躇しない、自己中、下克上を狙っているなどと、悪い噂しかないので、彼は、俺様を恐れたのだろう。


しかし、俺様は自分で言うのもあれだがそこまで悪いやつではない。


俺は10分程度で騎士服に着替えると、イスリアの部屋へ向かった。


「でやぁああああ!」


俺は気合いの一閃を敵兵に向かって、行う。敵兵は、断末魔と共に血を吹き出しながら倒れた。俺と師匠は、次々に兵士を倒しまくり、約10人の敵兵は見事全滅した。


「さすが師匠、俺なんて足でまといですね……」


「そんなことはぁないぞ!我が弟子よ!カーっハッハッハ。さぁ、買い物へ出かけた娘をすぐに見つけて、東へ向かわねばな」


「そうですね!まずは、娘の救出から始めましょう!」


俺は師匠と楽しく会話をしていたが、一人の村人によって楽しさは消えた。


「う、う、裏切り者!皇帝陛下の兵士と将軍を斬り殺しやがって!通報してやるからな」


すると師匠は


「まあ、そう慌てるな少年。兵士の10人や将軍の1人や二人、屠ってなにが悪い。それに、陛下は我々になにをしてくれた?悪政だけではないか。そんな世の中はいやなのだ。私は、彼と共にこの帝国を終わらせて平和をもたらすためにやっていることだ。なにも、裏切ったって別によい」



「き、貴様ってやつはぁ!聞いていれば、好き勝手言いやがって!そうだ!貴様を殺して、陛下に報告すれば、私は手柄を立てれる!」



そう言った彼は、師匠に向かって殴って来る。一般人は巻き込みたくなかったのだが、仕方あるまい。



「師匠、ここは俺が。師匠は早く娘を!」


「任せたぞ、坊主」


「はい!」


「ほんとは一般人は巻き込みたくなかったんだがな……実力の差を見せつけてやるよ!」


俺は、殴りかかってきた村人に、久々の殴り合いをした。これが、叛逆者としての第一歩であった――


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