第5話 未来予知能力
俺は死んだ……。あっさりと皇帝によって殺された……。半日しか異世界での生活はできなかった。そして、俺は今どこに……?
「起きて、ボーマ君。朝だよ」
ああ、綺麗な声で俺の耳に囁く女性は誰なのだろうか。朝だよと言ってたなぁ。え?朝……?俺には『明日』なんて来ないはずなのに。なぜ?
俺はおそるおそる瞼を開けていく。そして、目が完全に開いた。目の前には、誰かがいる。多分さっき俺に囁いた女性だろう。
「ん、んぅ〜。おは……よ」
寝起きの時にお馴染みの声を発してしまい少し恥ずかしい気持ちになってしまった。
「おはよ。じゃないわよ!!さっさと着替えて下に降りてきて。私のお父さんが、朝食を作ってくれたわ。ま、お父さんが作ったってわかるだろうね。あなたが、突然ここの鍛冶屋に入ってから1年経つもん」
ん?俺が鍛冶屋に入ってきた?どういう意味だ?俺は死んだはずだ。わけわからん。
「あ、ああ。いつもありがとう」
「この場で言わず、お父さんに直接行ったらどう?私は先に行くから!またね」
「あいよ」
俺が返事をすると、ボロボロの布でできた服を来ていて体も洗っていないらしい彼女は下へ駆け下りていく。
俺は思い出した。異世界召喚され、この世界の最初にきた街は、ここザッカーラだ。
恐らく死んだあれは、未来予知能力かなにかが働いていたのだろう。でも、あれは本に入ってからすぐのことだった。謎である。
俺は、急いで布団を畳み、中世によくありそうな服に着替えて下に降りた。
「おはようボーマ。今日はよく寝れたかな?」
「おはよう師匠。ああ、よく寝れた」
なにげない会話から、朝食が始まる。俺は食卓に並んでいる品を確認する。まず、パンみたいな食べ物。それと、スープ?かな。それに、目玉焼きのようなものもある。
「こんなご馳走を……。居候させてもらっている身なのに、ありがとう」
「礼には及ばねぇさ。手伝ってもらってるからには、ちゃんと飯も食わせてやらんとなぁ。はっはっは」
ほんとにいい人だなぁ師匠。あ、なぜこの男を師匠と呼んでいるかというと、まだこの世界に来たばっかりのころに偶然拾ってもらって、居候させてもらいつつ鍛冶を手伝い、たまに剣も教えてもらってる。
この人は今の帝国が成る前のこの国の王に将軍として仕える、なかなか立派な騎士だったようだ。
「師匠、今日は師匠の娘もいますし、久々に家族で出かけてはどうです?」
「じゃ、お言葉に甘えてそうさせてもらうとしよう。今日は娘が買い出しをする当番だから、それが終わってからだな。ユウ、どうかね?」
「はい!私は買い物のあとでも、大丈夫ですよ!お父さんと一緒に出かけるなんて、ほんとに久しぶりだなぁ」
「ユウさんも喜んでいるようでなにより」
「さぁさぁ、食べ終わったから鍛冶の続きを30分ばかりするかなぁ」
「じゃあ、私は買い出しに行って来ますね」
師匠は3人の皿を片付け、ユウは外へ出た。師匠は、職場に戻り再び鍛冶を開始する。
俺もそれに習って、一緒に金属を叩く。
それから20分が経過した。
「ほんとに覚えるのが早いなぁ。俺の跡を継がせたいぐらいだよ。ガーハッハッハ」
俺、継ぐ気ないんですけど……
「か、考えてみます……」
と、返事した時。この鍛冶屋に入るためのドアからトントンという音がして、ドアが思いっきり開かれると。
「失礼します!俺の名前は、ガルゼオ・ウー。帝国軍の将軍である。王の命により、そなたの娘を貰いにきた」
「いくら皇帝の命令だからって聞き捨てならんなぁ。貴様に娘を渡す訳がないだろ!なぜ私の娘を狙うか!」
師匠は怒っているようだが、優しい口調で怒鳴る。たしか、娘は今買い出しに出かけたはずだ。帰って来ない今ならまだチャンスはある。こいつらを、なんとかして退けないと
俺はヒソヒソ声で師匠に話す。
「師匠、帝国軍の将軍は俺が引き受けます。きっと外には10人ばかりの雑魚兵がいるかと思いますが、私に任せてくれませんか」
すると、師匠もヒソヒソ声で
「お前戦えるのか?まあ、今までの修行の成果を見せつける気なのならば、否定はしない。私は急いで娘を見つけて隠れよう」
「了解」
俺は、応じたと同時に先刻できたばかりの剣を見据える。
あの剣さえ取れれば……
そして、俺はこのあと皇帝の叛逆者となる。
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