21「咎め」
孫次郎は幼き頃の遊び場だった藤北の
日は山奥に沈みゆき、辺りが夕焼けに染まるように孫次郎も
「戦勝の報だけで充分だろうに。戦死者や負傷者など
いや
初めて経験する父の
頭上の未だ痛みが引かぬ膨らんだ
病気で寝たきりだったとは
それほどに親家の怒りが度を越していたのであろう。
「大将が
視界が
孫次郎に
それは
頭の
初陣を華々しく勝利したのにと、
面と向かって「出ていけ」と言われたのもあり、藤北館に居れる訳も、戻れる訳もなく。このままここで夜を過ごすのも止む得なかった。
「孫次郎ちゃん!」
声がした方へ‥‥下を
お梅は二歳ほど年上の農民の子であるが、幼い頃より孫次郎の姉たちとも仲が良かったというのもあり、
とはいえ流石に人前では
「やっぱりここに居たのね」
「‥‥」
孫次郎はそっぽを向き、無言で返す。
「なに
「不貞腐れてなんかない」
「親家様に怒られたのが、そんなに
「そんなんじゃ‥‥」
「あの
「‥‥知らん」
素っ気なく返答した態度に、孫次郎が酷く落ち込んでいるのを察したお梅であった。
(なんだかんだで、小さな頃から一緒に居たからね‥‥)とお梅は胸の内で呟く。
下手に
「あ、そうだ。孫次郎ちゃんに訊こうと思っていたのよ。私の兄の与次郎のこと。ほら、孫次郎ちゃんの名前に似ている」
「‥‥それがどうした?」
「与次郎兄は戦死とか大怪我しておらんよね? 本当は安東(家忠)様にお訊きしたかったけど、すごく忙しくてお話しすら出来なくてね。だったら、お暇な孫次郎ちゃんに訊こうと思って、ここに来た訳よ」
「知らん」と
「‥‥すまぬが、与次郎の
「ということは生きている可能性があるってことね。それなら良かったわ‥‥」
お梅は胸を撫で下ろし、安堵の表情を浮かべた。
その様子が孫次郎の心を強く揺さぶった。
「もし、孫次郎ちゃんが“知らん”とか言っていたら、私も親家様みたいに怒っていたところよ」
「‥‥怒って、いた?」
「そうよ。そりゃ、あんなお
ふと父‥親家の姿がお梅に重なって見えた。
(もしかして、父上は‥‥)
「さてと、馬鹿兄が無事なのをお
お梅の独り言を漏らしている途中で、孫次郎は枝から飛び降りた。
「もう、危ないでしょう!」
「案ずるな。あれぐらいの高さで怪我などせんわ」
孫次郎は話しつつ歩きだす。
「どちらへ?」
「館に戻る」
「そうですか‥‥」
去りゆく孫次郎に向かって、お梅は大声で叫ぶ。
「あ、孫次郎ちゃ‥‥じゃなかった。若様! 此度の初陣での勝ち戦、おめでとうございます!!」
孫次郎は振り返り「うむ!」と返事しただけで、
振り返った時に見えた孫次郎の表情が少しだけ明るくなっていたのを、お梅は見逃さない。
そして、まっすぐ背を伸ばし、藤北館へと歩んでいく孫次郎の背中が一段と大きくなった気がした。
「ついこの間まで私より背が低かったと思ったら。男の子の成長は早いというか。あーあー、孫次郎ちゃんとか気軽に呼べなくなるかな。まあ、それも仕方がないか。ご武運を、若様!」
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