20「愚か者」
豊後国・府内。
豊前・宇佐神宮から特に事件など起こらず、府内に辿り着いた戸次軍の姿に町人たちは
「戸次軍
上原館の門前で角隈石宗が戸次軍を迎え入れて、佐野や間田たちを引き渡すと、孫次郎、そして戸次親久、安東家忠が館の
大広間に宿老(家老)や近習たちが
孫次郎たちは平伏したまま、義鑑が上座に着座するのを待ち構える。
義鑑は着座すると、すぐに口を開いた。
「苦しゅうない、
威厳がある
孫次郎たちは
前に義鑑に
その時の義鑑が優しく微笑んでくれた
だが、今目の前に居る義鑑は、あの頃とは打って変わって
「お‥‥」
豊後国を治める大友家二十代当主に相応しい
安東家忠と戸次親久は
孫次郎は緊張と共に
「お久しぶりでございます。戸次孫次郎でございます。
屋敷内に響き渡るほどの
「うむ。久しいな、親家の
内情は宇佐神宮が大友義鑑(大友家)に救援を要請し、大友義鑑から戸次親家(戸次家)に挙兵を命じたのであるが、表面的に始めから戸次家による独断で合戦をしたと、周りに居る家臣たちに改めて
「
まるで
いつの時も、いつの頃も、目上の人―ましてや主君から褒められるのは心嬉しいものである。
孫次郎の初々しい姿に義鑑は微笑むものの、すぐに
「して、ゆっくりと此度の戦について、お主たちを
「「なっ!?」」
その
「何を仰いますか、
この時代、主君の言いつけ(
ましてや処罰されてもおかしくない無礼な行為の為、
「お、おい! 孫次郎、何を言っている!?」
安東家忠が咄嗟に声をあげてしまい、孫次郎の頭を下げようとさせるが、義鑑が口を開く。
「いかにも孫次郎の言い分も分かる。親家には戦の
「‥‥御屋形様の御下知ならば。畏まりました」
先程の威勢の良かった発言とは一転、義鑑だけに聴こえるぐらいの声で返事をしたのであった。
■□■
孫次郎たちが藤北に戻るための
側に控えていた
「よろしかったのでしょうか?」
それは孫次郎と共に親家の見舞いへ
「ワシも藤北に行くとなったら、
「先の時は内密で藤北に
「あの時とは状況が違うだろうに。此度の戦が
「左様でしたか。では、私の方は府内に残られる戸次親久殿たちの
そう告げると角隈石宗は
今、座敷には義鑑ただ
静寂で
「当主でも親友の見舞いですら、ままならぬとはな‥‥。いや、当主だからか‥‥」
こみ上げてきた思いが義鑑の頬を静かに
■□■
孫次郎たちは馬に
後ろには安東家忠と十数人の
戸次親久は孫次郎の代わりに、此度の戦について
八幡丸たちは府内を横を流れる堂尻川(現在の大分川)を上がっていき、途中で
道すがら
藤北に近づくほど山道は険しくなっていき、山道に慣れている愛馬・戸次黒も疲れが
「
孫次郎の
ふと後ろを振り返る――間延びとなった軍列、安東家忠や近侍たちは
本来なら
田畑にいた村民たちが孫次郎たちの姿を発見すると否や、すぐに駆け寄ってきた。
「おお、
「
「府内からの便りでは戦は勝利したとのとこですが、倅たちは?」
藤北に残った子供や年配の村民たちから四方八方に声を掛けられてしまい対処が追いつかない。
「落ち着け、皆の者よ!
安東家忠が
■□■
「ま、孫次郎ちゃん!?」
侍女のお梅が驚きの声をあげた。
なんの報せもなく突然帰ってきた孫次郎は
本来なら家に上がる前には
「いつ戻ってきたの?」
「今し方だ。父上殿は?」
「奥の座敷に‥‥あ、家忠様も」
孫次郎の後を追いかける安東家忠。他の近侍たちは館の出入り口にて待機している。
勝手知ったる我が家のもあり、ずかずかと奥へと進んでいき、親家の寝所に
「父上! 孫次郎、
孫次郎が声を発しながら部屋に入ると、親家は布団に入っており、側に継母のお
また、見覚えがある神職の服装を身にまとった老人‥‥由原八幡宮の
「孫次郎か‥‥」
親家が弱々しく、しわがれた声で呼びかけつつ上半身を起こそうとするが、もはや自分だけではままならぬ為に、お
藤北を発った頃よりも
病に
その嫌気が
孫次郎は腰を落とし
「
「そうか‥‥。これで親父殿(戸次親貞)も報われるな‥‥。それで、此度の戦で
「え? そ、それは‥‥」
予期しなかった質問に口どもる孫次郎。
「どうしたのだ?」
「えっと‥‥確か、松岡の親之殿、親利殿が敵方の
「松岡達が‥‥そうか」
親家は
この馬ケ嶽城の戦いで誰よりも意気込んでいた二人であり、二十五年前の戦の
最初から死ぬ覚悟での出陣だったと察してはいたが――
「だからと言ってな‥‥。して、他には?」
「他は‥‥あ、
孫次郎は家忠の方に向き、助け舟を求めた。
その姿に親家は
「う、うむ。他には、井手の七郎左衛門殿。また、十時惟種殿が
代わりに答えた家忠の内容に、親家の目がカッと見開く。
「なんと‥‥他家の方が此度の弔い合戦に
がなり立てた親家の大声に、その場に居た者たちは全員
「そ、それは‥‥」
「この
怒声と共に孫次郎の
身体の
とても立ち上がるのも困難で弱っている
「なぜ、此度の戦の犠牲者を御大将であるオマエが把握していないのだ!? 孫次郎!!」
「そ、それは‥‥」
先の拳骨の一撃で意識が
しかし、そんな判然としない態度に見かねた親家は
「この家から出ていくがよい。お主は戸次を継ぐ者に
親家の怒鳴り声が館内に響き轟いた。
これほどまでに
「ウッ、ゴホッ!! ガホッ!」
親家は叫んだ後、激しく
「御前様!」
「父上様!」
「親家様!」
お
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