18「馬ケ嶽城の戦い-決着-」
戸次軍本隊は開かれた二ノ丸の城門から
既に
突撃してきた新たな戸次兵の勢いに押されて、
「なんだ!? あの敵衆は!? 今井(右馬助)様や、その隊はどうしたのだ!?」
「あ、あれは!?」
馬ケ嶽兵の一人が指差した先へ他の兵たちも視線を移すと、声を失ってしまう。
敷地内に入ってきた
「そ、そんな……右馬助様が……討たれのか!?」
戸次軍本隊の襲撃によって苦境な状況に陥っている中、
「ど、どうしますか?」
「こ、ここは……
馬ケ嶽の兵数は未だ戸次軍よりも多いが、大半は
戸次軍も藤北の民を
元より戦いに不慣れな藤北の民を
また、右馬助の次位の
退却の鐘が鳴り響き、馬ケ嶽兵たちは後方へと
戸次軍は無理に追い打ちはせず、乱れた態勢を整えると共に一旦現在の状況を把握するように努めた。
「惟種兄!」
「遅かったな……
十時惟安は惟種の状態を
「流石にこの
「なーに、大した傷は負ってないよ。ほとんど返り血だ。今、凄く気分が良いんだ……。切り合いの中で相手の動きが、ゆっくりと動いて見えるようになって……これが境地か……」
と言うものの、惟種は背中や腹部を切られており、血が流れ落ちる。
「
「は、はい!」
惟忠は
「
「すでに惟次(息子)にそう云い伝えている。して、本丸への
「それを決めるは戸次の総大将の
そう言いつつ、戸次本隊(八幡丸)の方へ視線を移した。
由布惟克も十時たちと同様に自軍の状況を確認しては、息子の家続が無事なのを内心
そして安東家忠が様々な状態を確認しては戸次親延に報告する。
「佐野や間田といった
「逃げそびれた兵の話しでは、まだ本丸にて
「そうか。それはそれで好都合ではあるが……」
此度の戦の真なる目的は、首謀者の捕縛または討ち取るなどして
「親延様、降伏勧告は?」
「まだこちらの士気は
親延が指示する中、八幡丸は
今にも突入するような威圧を放っているようだった。
「八幡丸。分かっていると思うが……」
「分かっております。ただ見張っているだけです。ここまで来て、敵方の大将を取り逃がしては恥。しかしながら
「解っている。百名ほど監視に当てさせる。お前もお前で備えておけよ」
八幡丸は本丸を見つめたまま、「ええ」と言葉少なく返答したのだった。
ここまで来れば、取り逃がしは許されない。
敵方が詰城(本丸)から打って出るかもしれないし、抜け道から脱出するかもしれない。
当然、八幡丸や親延、他の各将たちも警戒しており、油断も隙もない。
■□■
「な…なん、だと……右馬助が……」
馬ケ嶽城の広間にて、
武者震いではない。恐怖と動揺によるものだ。
震えてはカタカタと
「今、こちら(本丸)に
「エイ。千名ほどでありますが、戦いに慣れた者は……。それに人は居ても、武具の方が足りておりません」
「なんだと? 集めた武具はどうした!?」
「集めた武具は二ノ丸の方に……」
「そうだったか……」と間田は、思わず手で両目を覆い尽くしてしまった。
「
やはり主力を担っていた右馬助が討ち取られ、その隊が壊滅してしまったのが痛手であり、場は意気消沈しているのを隠せなかった。
「ろ、籠城だ!! 籠城をし、お、大内殿に救援の要請を!!」
佐野がそう叫ぶも、この場に者達は一向に動く気配は無かった。
「な、何をしている! はよ、早馬の用意を。いや、その前に
馬ケ嶽の兵たちはお手上げな状態であると誰しもが思っていた。
だが、大内の口車に乗せられて軍を興してしまった佐野に取っては引くに引けない心情であった。
間田は一息を吐いてから話しかける。
「佐野殿。物見からの報告だが、
「なんだと!? なぜ、それを早く云わない!?」
「それも含めて相談しようとしたところだ。麓の兵は少なく見積もっても五百人ほどとのことだ」
馬ケ嶽城を攻めている軍の他に別軍が待機しているという報に、佐野の
敵軍(戸次軍)には余力(増援)があると思い込んでしまったからだ。
間田が言った敵軍は戸次軍ではあるが、戦いが不慣れな者たちで、此度の馬ケ嶽城攻めから外されていた非戦闘部隊であった。
その事を正確に偵察して把握していたのであれば、多少なりとも戦意を
しかし、奇襲によって混乱した状況では冷静な判断が出来ず、見誤ってしまったのだ。
「
間田が訊ねた。
他の家臣たちも命を賭して戦おうとする者は居らず、
まだ、
籠城にて大内軍が兵を差し向けてくれるまで耐え
ならばこそ、此度の戦を
立ち上がろうとした瞬間――
「「「ウオオオオオオオオッッッッ!!」」」
外から空気や建物を震動させるほどの
「な、なんだ!?」
「敵方(戸次軍)が攻め入っております!!」
「な、なんとしてでも、し、死守を!!」
そう指示しても、周りの者たちはその場に
「どうしたのだ!? はよ、せんか!!」
「‥‥クソが嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼あああああああォォォォッッッッッ!!」
「どこで間違えた‥‥どこで見誤った‥‥若殿(大内義隆)の誘いに乗ってしまったのが、全ての起因なのだろうか‥‥」
反対に間田は冷静になり、此度の成り行きに
■□■
戸次軍は各方面から壁に
「やーやー我こそは、
戦いの
「あれは、
前線を指揮していた由布惟克が、そう言葉を漏らす。
「
古代より中華の国では降伏や謝罪の意志を示す行為であり、また“編笠”を
「本物の降伏の使者でしょうか?」
由布惟克の側にいた兵卒が訊ねた。
「あえて
「
本物の使者かも知れないが、注目を集めた隙きを突いて、
次第に戦闘は停止していき、戸次や敵方の兵卒たちは降伏の使者を注視し始めた。
当然、由布惟克などの
降伏の使者は、まずは安東家忠の前に連れ出されて降参の旨を
「馬ケ嶽(敵方)が降参を申し出てきたか」
「はい。敵の御大将・佐野、間田の
「勝手に戦支度をしておいて勝手なもんだが、こうも簡単に降参を申し出てくるとは、やはりこの
豊前を支配するという強い野望があるとしたら、抵抗かまたは形勢を
ここで降伏を拒絶して無理に戦いを続けたとしても、双方に多大なる犠牲が出るだろうし、長期戦になるならば戸次軍の不利。
穏便を済ませるべきだと親延たちも密かに思い及んだ。
首謀者が佐野・間田でなければ、
「よし。此度の
親延が近習にそう伝えると、
「
「八幡丸よ、相手の首を取ったり、
絵巻や軍記物語では、大抵は敵手を討伐して締めくくられているが、現実の戦は敵(首謀者)を討ち取って、めでたしめでたしとお終いになるものではない。
これまで書物などしか
戸次士卒の中から無傷で騎馬に
■□■
豊後府内・
大友義鑑、そして同席していた角隈石宗と吉岡長増が、戸次の使者から書状を受け取り、馬ケ嶽城の
三者三様とも僅か数日で落城させた
「なんともはや‥‥
角隈石宗が言葉少なく漏らし、吉岡長増は一驚したや
「そうか‥‥この短期間の内に、見事に降伏せしめたか‥‥」
大友義鑑は身体を震わせる。
初めて由原宮の賀来が馬ケ嶽城で
「この早い陥落の報せは大内の援軍(介入)は無いと考えていいでしょう。して、御館様。沙汰につきましては如何いたしますか?」
そう吉岡長増が一番
「うむ。此度の佐野たちが戦支度を始めた
「
長増は先ほど内心想定していた内容通りだった為に、すぐに立ち上がりて落ち着きを払い退出していった。
「角隈。それと藤北の親家に此度の旨を
「
角隈石宗も吉岡長増の後を追うようにその場を後にした。
大友義鑑は
「よう、やったぞ親家。
満足気に遠く藤北にいる親家に届けるように、空へ言葉を投げかけたのであった。
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