17「馬ケ嶽城の戦い-後編-」
前軍の大将である松岡親之が倒れたことで、周囲にいた兵士たちの
右馬助が率いる兵たちも
場の空気が重くなり、
「由布騎馬隊、一旦下がれ! 由布歩兵隊、五の
由布隊の
他の歩兵隊も同様に段違いで隊列を作り、
また、後方の位置にいた
「弓隊! 構え!」
側に居た弓兵たちは矢を番え、いつでも
すぐに
「しかしながら、
万が一に備えて、戸次軍の総大将である八幡丸を後ろへ退かせようとしたが――八幡丸は前に出た。
八幡丸は大きな
「あれが、あの隊の侍大将か」
つまりは、先導する
八幡丸は手にしていた
狙うは右馬助の素肌を
だがしかし、普段の弓術鍛錬で使用している
「ならばこそ、成し遂げてみせよう!」
「お、おい。八幡丸!」
八幡丸の
下手に手を出して、あの
ましてや、矢が
だが、八幡丸は聞く耳を持たず。
弓を
「「「ウオオオオォォォォッッッッッ!!!!!」」」
山頂(二ノ丸)より
門から出てきた兵士たちは既に傷つき血を流しており、何かに追われているような。
次に別の集団が姿を
「あれは!?」
八幡丸たちが目にした集団は、松岡親利と十時惟種が率いていた別働隊であった。
二ノ丸を守備していた敵兵たちは迫りくる戸次本軍に集中していた為に、突如出現した別働隊に
そして松岡親利が門から出ては見下ろして、現状を伺う。
戸次本隊が馬ケ嶽の敵兵たちに攻め寄せられており、兄・松岡親之隊の損害は大きく隊列が崩されていた。
「兄上は……」
馬ケ嶽兵と戸次兵の人だかりの中から、地面に
「兄上!? 十時殿、ここはお任せいたします。松岡隊、ついてこれる者は、ついてこい! あの
「松岡殿!?」
形勢が
突然、現場を任された十時惟種だったが、恨み言一つも
「ふー、死中こそ
両手に持った刀を構え直し、敵勢へと斬りかかっていった。
■□■
「なんだ、あれは!?」
「おそらくは敵兵かと」
「見れば解るわ! チッ、抜かったわ。
予想外からの敵軍の登場に右馬助の兵たちは浮足立ってしまう。
上と下の
その好機を
由布隊へ進軍の号令をかけようとした時、八幡丸が叫んだ。
「進めや者ども! 時は今だ!」
八幡丸もまた瞬時に状況を
由布惟克は思わず口元を緩ませつつ、
「そら、
まず壁として前にいた由布隊が攻めかかり、続けて安東家忠が指揮する隊も行動に移した。
右馬助は歯ぎしりをしながら、踵を返す。
「誰か馬を貸せ! 池田、矢山。
「「エイ!!」」
右馬助は周囲の部下にそう命じつつ、馬に
立ち止まって迎え討てば、挟撃されて不利となる状況。
ならば、上(別働隊)か下(戸次本隊)のどらちかを突破しなければならない。
下の敵軍(戸次本隊)の総大将を討ち取ったとしても、敵が
必然的に二ノ丸へと戻り、二ノ丸を攻めている敵兵を
また別働隊の兵数は
右馬助の“
だが、一つ見落としていた点があった。
「うああああああッッッッ!!!!」
先程、
「な、にっ!?」
衝突した衝撃で松岡親之は後方へと吹っ飛び、右馬助は馬と友に体勢を崩されて倒れ込んでしまった。
「ぐっ! 死に損ないが……っ!?」
「てぇっりゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
駆け下りてきた松岡親利が兄・親之の身体を飛び越え――手にした打刀で、右馬助の首筋を狙い斬りつけた。
赤い鮮血が天高く吹き上がる。
右馬助は傷口を手で抑えるものの血は止まらず。
「お゛の゛れ゛え゛え゛え゛ええええええええ!!!」
只では
松岡親利の左肩より鎧や骨をも断ち切られて、
「その、傷を
二人は力無く崩れ落ちて
親利は意識が失っていく中、体当たりをしてその身で馬の足を止めた兄・親之の姿が見えた。
「あ、兄上……」
か
その呼びかけにも親之はぴくりとも動かない。
ふと親利の脳裏に、在りし日の幼き頃……剣術稽古を受けていた戸次親貞(八幡丸の曽祖父)との
『お主たち一人一人では、まだまだ半人前であるが、兄弟二人ならば
「まだ、まだ…半人前で、ござったな……。けど、親貞様に、やっと…顔向け……できます、な……」
満足気な微笑みを浮かべ、親利は静かに息を引き取った。
「松岡様!!」
「右馬助様!!」
各々の部下たちが呼びかけるも反応しない。
それに伴い両陣営の様子に明瞭な差が生まれた。
元より戸次親貞の弔い合戦の
それとは反対に馬ケ嶽城の兵たちは、隊の
「ば、馬鹿な……。右馬助様が……」
一人が
八幡丸は逃げゆく敵兵に狙い定めて矢を放つ。
「ここだ! 松岡たちが切り
八幡丸はこれまで一番の大声で張り上げると、戸次の兵卒たちも
統制を失った馬ケ嶽城の兵たちは連携が取れず、苦戦を
「このまま二ノ丸に
「ま、待て。八幡丸!!」
八幡丸は馬を走らせて駆け登っていき、安東家忠や近侍たちが後を追いかけていく。
一方で戸次親延は松岡親之、親利の元へと駆け寄った。
「親之殿! 親利殿!」
二人は黙したまま。
確かに
戸次親延の瞳に涙が浮かび、流れる。
藤北へ戸次本家(戸次親家)が移入した時に松岡兄弟もやってきた。
二人が戸次一族の前で真っ先に土下座をし、戸次親貞の討死について謝罪した姿が強く記憶に残っていた。
戸次親貞への
「親之殿、親利殿……大儀でありました。誠に…誠に…御見事でした。必ずやこの
親延が涙を流しているのを
「惟忠、惟次。そやつの
「うえ……」
と、十時惟次は思わず吐き気を催してしまったが、
「畏まりました」
惟忠は眉をひそめながらも
「人の
「畏まりました。父上」
惟忠は一呼吸を置いてから、目を見開き、
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