16「馬ケ嶽城の戦い-中編-」
馬ケ嶽城・本丸。
城内は慌ただしく、まさしく狂乱状態だった。
「まさか、今日攻めてくるとは!?」
太ましい体格をした男が
男は、この馬ケ嶽城の大将であり、此度の
「敵方(戸次軍)の動向は、しかと捕捉していたのだろう! それがどうして、
声を荒げて、家臣たちに怒鳴りつける。
「エイ。
「だから、
「夜の暗い内に行軍しており、
「言い訳など聞きたくはないわ!!」
激しい怒りをぶつけるように、身につけようとしていた
「佐野殿、少しは落ち着け。どう騒いでも
声をかけたのは、もう一人の大将・
間田の方は既に鎧を身に着けていた。
「解っとるわ! ならば、どうするのだ!」
「まずは兵を
「
間田は軽く息を吐く。
「武器と兵を集めたのならば、さっさと練兵をさせとけば良かっただろうに。こうもまとわりがないとはな。
「それはお主も賛同したことではないか!」
「……
「
「難しい相談だな。此度の戦支度は若殿様(大内義隆)の下知であり、我らがそれに参与した身。次期当主への
援軍を呼べない
「今しがた攻め立てている軍勢は如何ほどだ!」
少しでも怒りが
「斥候や物見からの報告では、万の軍勢ではないと。少なくとも我が軍よりも少ないとのことです」
そう、敵方(宇佐神宮の軍勢)は自軍五千人よりも少ない兵数だというのは把握していたが、その劣勢の軍勢で、すぐに攻めかかってくるとは思っていなかった。
普通ならば、馬ケ嶽の
佐野・間田……いや、正しくは
佐野たちの役目は兵を集め、大内家の援軍が来るまで、馬ケ嶽で籠城の時間稼ぎをすれば良いだけのことだった。専守防衛ならば大した訓練は必要無いとして、練兵などを行う手間を
佐野たちの
未だ戸次軍が大友軍からの
大友からの援軍でないと思い込んでいるからこそ間田の最初に言った通り、落城をさせぬ為に死守することが
「早急に、このごたごたを立て直せねばならぬ……」
「間田様。その役目、
「おお、
官職(右馬助)の名で呼ばれた者は、
「我が隊は
右馬助はその鍛えられた
配下の中でもっともの腕の立つ武人の背に、佐野は
■□■
「「「ウオオオオオオオッッッッッッーーーー!!!」」」
戸次の
松岡親之が率いる兵卒(隊)に負けじと、由布惟克が率いる由布隊の騎馬隊は
その姿を目にした兵卒たちから「流石は
先頭集団の
「うおりゃあああああああああ!!」
“突き”の攻撃範囲は“点”で
また、戦場では一対一の戦いなど
横から払い叩くことで、“線”での攻撃となり敵を
由布
由布の槍術は、この“たわみ”が
柄の部分は鉄だが中は空洞になっており、その空洞の穴に
これにより鉄槍にも関わらず、先述の“たわみ”を生み出し、軽量化しつつも強度を高めている。
柄のたわみが
家続が繰り出す槍の軌道は、蛇が
その槍技―
独特な軌道に敵兵たちは一瞬硬直してしまい、身をかわせずに打撃を受けては悶絶してしまう。
痛みで足を止めたところで狙い定めて突き刺した。
家続は
「身体が重い。なにより
訓練などのいつもの蛇突ならば、具足どころか人骨をも砕き相手を失神させるのだが、先の通り具足を
それでも足を止めさせるほどに充分ではあるが、普段の力を発揮できずにいることに納得できなかったのだ。
家続もまた初陣の緊張で身体が硬くなっているのだろう。
「糞ガキがあああああ!!」
多数の敵兵が家続を狙い、一斉に襲いかかる。
馬上で
そこへ松岡親之が駆けつけては加勢し、手にした
「助太刀いたします、家続様」
「松岡殿、かたじけない」
「しかしながら家続様、なかなかの御手前で。由布の槍は蛇の如くと
戦いの中でも
武功を積んでいる壮年の松岡親之の姿に、いつか己もこのような域に達したいと、大いに奮起するのであった。
「「「ウオオオオオッッッッーーーーー!!」」」
山の頂きより雄叫びが轟き響いてくる。
戸次勢が見上げると、馬ケ嶽城の二ノ丸の城門が開き、武具を身にまとった兵卒たちが、
「打って出てくるとは、好都合。
戸次軍の
二人が衝突するほどに接近するや否や――薙刀を振り下ろす。
「えッ!?」
井手が自身の薙刀を振り下ろす前に、敵兵の薙刀が振り下ろされて、井手は袈裟斬りにて身体が両断された。
「井手殿! うわっ!?」
巨体の兵士は続けざまに近くにいた戸次軍の兵卒たちを切り払った。
「ふん、他愛もない。
二ノ丸から出陣してきた五百名ほどの敵兵たちは腕が立つ者ばかりで、戸次軍の勢いを止めたのである。
特に右馬助は、対峙した戸次兵たちを二~三回打ち合っただけで容易に切り伏していく。その光景に別格の
だが、相手がどれほど剛の者であったとしても、
由布
「まだ家続様には荷が重いお相手。ここはお任せを」
松岡親之は軽く息を吸い、吐く。
一呼吸おいてから、馬の腹を
「松岡親之が、
右馬助と
鼓膜を貫くほどの金属音と共に火花が散った。
「ほう、老いぼれの
松岡親之の長年の経験と技よりも、右馬助の
打ち合う中、押し込まれて、松岡親之の薙刀を弾き―――
「貰ったあああああっっっっ!!」
右馬助の薙刀が松岡親之の右腕を切り落とした。
「ぐっ!!」
普段ならば激しい痛みが襲うだろうが、興奮状態であるが故に痛みはなおざりとなり、松岡親之の左手は腰に吊るしていた打刀の柄を握る。
狙いは右馬助が乗る馬。
「なんだと!?」
馬は大きく仰け反り、右馬助はなし崩し的に落馬してしまったのである。
松岡親之もまた勢い余って落馬するも、すぐに体勢を立て直し、右馬助に斬りかかろうとするが――
―ドゴッ!
鈍い音と共に松岡親之の横腹に強烈な衝撃が
右馬助が膝を着いたまま薙刀を振り払い、柄の部分で打たれたのであった。
「松岡様!」
配下の兵たちが呼びかけるも、松岡親之はピクリとも動かない。
「よくも我の愛馬を……。
油断していた訳ではないが、まさか自分の馬が殺害されるとは思っていなかった精神的な衝撃の反動も合わさり、右馬助は鬼の形相となりて、ドスの利いた声で言い放った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます