14「白々明の頃に」
宇佐神宮を発った戸次軍一行は、三つの隊(前軍・中軍・後軍)をさらに
現在、戸次軍の総数は二千人に達していた。
各小隊に分散させたのは、少ない数に見せることで大軍の威圧を
宇佐神宮からも
先の
宇佐神宮の頼みならばと
というよりは大内家と敵対したくない……大内家と宇佐神宮との争いに関わりたくないのが
「
親延がポツリ呟いた。
親延たち戸次軍の各大将は宇佐神宮の兵卒たちを戦力に
戸次軍として
加勢してくれた由布家、十時家が戸次の為に戦ってくれるかは未知数であった。実際に戦力となるのは半数程度であろうか。
日が昇り、徐々に明るくなっていく。
“
戸次軍が進み行く平坦な道は、
既に馬ケ嶽城(敵方)にも、戸次軍の行軍は知れ渡っていてもおかしくないが、道すがら特に大きな騒ぎや問題も起きず、昼過ぎ頃には“松江”(現・豊前松江)へと辿り着いた。
■□■
宇佐神宮側の協力者である松江村の
村一番大きい村長の家にて、八幡丸を始めとして、叔父の戸次親延、分家片賀瀬の戸次
そして十時、由布の
各々険しい表情を浮かべながら質素な食事を口にしつつ、討伐軍に加わっている宇佐神宮の使者より今回の敵将(佐野・間田)の特徴を確認していた。
「此度の兵を集めて宇佐へと侵攻を企む
「他に判断できる特徴は?」
「そうですね、他には……佐野は鼻が大きく、確か間田は……そう、右眉の上に
馬ケ嶽城の
取り逃がしてしまっては軍を興した意味が無くなってしまう。
ましてや八幡丸たちは敵方(佐野・間田)の顔などは知らない。
似顔絵というものはあっただろうが、すぐさま達者な絵師を手配できるものではないし、人の顔など
誰を討ち取ったかは、よほどの著名人でなければ判別ができない。その為、戦後の後に“
「出来る限り
「
「だったら、
「ああ、そうだな。その方が良いだろう。という訳で宇佐の方、
「か、
細かな取り決めが終わると、親延は
「さて、
藤北を発つ前から“城攻め(攻城戦)”の方針であり、その為の戦略と戦術を、ここにいる戸次家の中枢が短い期間にも関わらず、熟考を重ねては練りに練っていた。
「も、もし、敵方が
ふと宇佐神宮の使者が不安を漏らした。
全てが予想通りに事が進む訳がないと誰もが頭の
敵方の兵数は約五千人。
それらが待ち構えていて、数が劣る
「それこそ望むことよ! 我が由布騎馬軍は山も野も関係なく
僅かに漂い始めて不安な空気を吹き飛ばすように、由布
馬と弓で狩猟を得意とした「
少し自慢げに、そして自信に溢れる
「おうおう、何を
十時惟安がこれ見よがしに周囲に聞こえるように声を漏らすと、由布惟克が
「なんだ?
「
「はは。ご忠告、痛み入る。
由布惟克と十時惟安は、お互いに視線を合わせずに
お互いの自尊心と
パンと親延が手を
「前もって
由布惟克は手にしていた
「まあ、案じるより
「ああ、そうだな。どんな
十時惟安も杯を由布惟克に向けて、お互いの健闘を祈り、杯に
かくして最後の
この場に残っているのは、八幡丸(孫次郎)、戸次親延、戸次親久の戸次家の
「叔父上(親延)殿、これは提案ですが……敵方の様子を逸早く知ることは
八幡丸の
「なに、たわけなことを申すか。先に申したとおり、既に
「ああ、それもそうか……」
「八幡丸よ、お
「分かっております。しかしながら、軍の指揮を取るのは総大将の務め。指揮の為の判断材料を多く把握した方が良い思った次第です」
八幡丸もまた、
初陣だからこそ、浮足が立つのは仕方ない面があるとしても、軍の大将がうかつな行動をしても良いものではない。
「八幡丸、
親延は叱りつけるように、重い口調で言い放った。
「……ええ、承知しておりまする」
渋々と納得する八幡丸。
続けて、親延は
「して、親久。“別働隊”については片ケ瀬の者たちは参列せずに、本隊の方に従軍してくれ」
「ということは、あちらは松岡や十時殿たちだけで?」
「ああ。少しでも本軍の兵数を多く見せたい。それに、もし撤退することになったのなら、お主が
戸次一族と家臣たちは、当然
だが、加勢してくれた藤北の民や由布や十時たちを出来る限り生存させて故郷に返さなければならないのも、軍を
親久は
「分家だからこその義務を果たしましょう」
無事に藤北に連れ帰ったとしても、生き残った親久たち戸次一族は
「さて、斥候が戻るまで我々も一休みをしようか。孫次…いや、八幡丸。解っていると思うが、ここを抜け出して、単独で馬ケ嶽に向かうなよ」
「承知しております。身共が探りを入れても意味が無いのでしたら、明日の戦に備えて休息をした方が役に立ちましょう」
そう言うや八幡丸は、その場に寝っ転がり眠り始めたのであった。
親延と親久はお互い顔を見合わせ、すぐに考えを改める八幡丸の柔軟な態度に思わず感服してしまう。
「ところで、親延。孫次郎が人を
「藤北は平穏なところ
「そうか……。肝の方は?」
「
「それまた
親延と親久は
一方、松岡兄弟(親之・親利)は月夜に照らされて、暗闇の先の馬ケ嶽城がある方向を見据えていた。
「ついに、ここまで来たな」
「兄者。この
「ああ……」
松岡たちは馬ケ嶽城にて大内との戦いを知る二人(兄弟)であり、生存者である。それ故、戸次軍の中で誰よりも、この弔い合戦に強い思いを抱いていた。
落城した日の光景が脳裏をよぎり、年月を重ねた
荒々しく掻き立てる胸の内とは裏腹に、夜は
■□■
八幡丸が横になって八刻(約2時間)ほど過ぎた頃――様子を伺いに行かせた
馬ケ嶽の
親延たちは
すぐに食事するのではなく、進軍中に歩きながら
支度が整うと戸次軍は松江を
東の空が
「あれが馬ケ嶽か」
藤北を発ってから
**************
▼補足情報
戸次軍総勢…2000人
▽内訳
・戸次藤北勢
・戸次片ヶ瀬勢
・十時勢
・由布勢
・木付勢
・宇佐神宮勢
▽軍編成
前軍…前軍大将:戸次親久、前軍侍大将:松岡親之、副将:井手度壽
前軍備え…由布隊:由布惟克、由布家続、
中軍…総大将:戸次孫次郎(八幡丸)、副将:戸次親延
中軍備え…十時隊:十時惟安、十時惟忠、十時惟通、十時惟次、十時惟種*
後軍…後軍大将:内田宗直、後軍侍大将:松岡親利*
後軍備え…木付隊:沓掛尚之
荷駄隊:宇佐神宮勢
※別働隊:松岡親利、十時惟種
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