過ち
俺たちは、ギルドから出発した後、目的地近くの村へと向かった。一泊した後に、その龍を倒すためだ。
「いやはや、このような高名な冒険者様が来るとは思わず、ゲホッ、ゲホッ、、はぁ、失礼しました。何も準備が出来ていないのですよ」
「いや、気にする事はない。どうにも、
「そんなことだと思ったよ。ベルフさん、あんなに広い家に住んでるくせに、ほとんどの部屋使ってないもん」
「…余計な事を言わんでいい。それよりも、村長よ。体の方は大丈夫なのか?」
「このような老いぼれを、気遣って頂き光栄です。ゴホッ、ですが、心配には及びません。遅かれ早かれ、旅立つ身ですので…」
村長の顔は、まるで、全てを悟った仙人のようだった。死を予感し、死を受け入れているかのような。
その姿に、ベルフは意を決する。
「分かった。マーマル山では、上質な薬草が採れると聞く。依頼のついでに採ってこよう」
「いえ!そういうわけには、ぐふっ、ま、参りません……」
「案ずるな。あくまで、これは俺の意思だ。金など要らぬ」
「とはいいましても……」
村長としては、何もしていないにも関わらず、なぜベルフがそこまでしてくれるのかが理解できなかった。
「いいんですよ、村長さん。ベルフさんは、こう見えて優しいから。この人に拾ってもらった僕が言うんですから、本当ですよ」
昔、人目のつかない路地裏で死にかけていた元捨て子は、すかさず言う。村長と当時の自分とが、重なって見えたのだろうか。
「だから、余計な……ああ、もういい。……それはともかく、村長は気にせず休んでてくれ」
ベルフは、もうたくさんだとばかりに話を切り上げた。もう、苦情は受け付けないと言わんばかりだった。
そういった所も、彼の優しさなのだが本人は自覚がないようである。エルだけでなく、村長すらその姿に微笑んでいた。
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一行は、険しい山道を登り続けた。しかし、村長から、最短かつなだらかなコースを教えてもらったので、あまり苦労はしなかった。
エルも、出会った当初とは見違えるようになり、スイスイと山道を駆け上がっていく。ウスノロと言われていたのが、嘘のようだ。
「そんなに急ぐと、高山病になるぞ?」
「大丈夫、だいじょーぶ。僕、まだまだ行けるよー」
注意を促しながらも、ベルフは内心喜んでいた。あんなに弱っていたエルが、健やかに育ったのを実感出来たからだ。自分の育てかたは、間違ってなかったようだとも思った。
やがて、エルとベルフは山頂付近にまで来る。
すると、
「ウルグアアアアアアアアアアアッッツツツ!!!!!!!!!!!!」
「っと、ようやくだね、ベルフさん」
「ああ」
二人は、龍の雄叫び程度で動じるたまではなかった。 龍自体は始めてだったが、今までにも怪物と呼ばれるものどもを狩ってきた。
経験は、積んであった。あとは、身につけてきたノウハウを生かすだけ。
山頂にそっと近づいていく。
なるべく、初撃は不意打ちが望ましい。それも、今までの経験が裏付けとなっている。
山頂は、大きな
幸い、龍はこちら側に背を向けている。絶好の機会だ。運が良ければ、一撃で仕留められるかもしれない。そんなことすら、ベルフは考えていた。
「じゃあ、カウントいくぞ、、、3......2......1......今だ!」
彼の掛け声とともに、戦闘は突如として始まった。
先に、エルが跳ぶ。音すら置き去りにする突撃は、もうベルフですら捉えるのが難しくなっていた。
(成長したな……いずれ、俺の跡を継いで、#快撃__バスター__#の通り名を授かって欲しいものだな)
戦闘中であるにも関わらす、ベルフは感慨に耽っていた。弟子であり、息子のようでもあり、そしてかけがえのない相棒でもあった。
ベルフは、この依頼を最後に引退を考えていた。そろそろ、エルの動きに歳がついていかなくなって来ていた。
「とおりゃっ!」
エルは基本的に徒手空拳。半分は龍の血が流れているので、身体能力は人間に比べて遥かに高い。そのため、冒険の中でも拳と蹴りだけで通用してしまうのだ。
だが、
ガキッ、という音すらなかった。
「えっ、攻撃が通らない……?」
そんなことがあるのだろうか。今まで、エルの攻撃は弾かれたことはあっても、全く傷つけられないなんてことは無かった。
「そ、想定外だ!エル、逃げるぞ!」
自分の攻撃なら、などとは考えもしなかった。いつものセオリーが崩されているのに、無理矢理押し切るのは悪手だ。頭の中では、危険信号がガンガン点滅している。
だが、事態はさらに予想外の方向へと進む。
「何?エルだと?………よく見れば、その中途半端な鱗、貴様、まさかあの忌み子か!」
「っ」
龍がエルに向かって話し始めた。どうやら、エルの過去を知っているようだ。明らかに、良い印象を持たれているとは言い難いが。
「くくく、そうかそうか。お前が、あのロクでなしの息子か!………はて、もう一人の小娘は何処へ行った?」
「妹のことを知ってるの?」
質問に質問で返すエル。やはり、エルのことを知る龍らしい。だが、妹がいることは、ベルフは初耳だ。
「ああ、知ってるとも。父親に似て、貴様も妹のベルセルクも、なんともおぞましく、愚かしい」
「い、妹を!馬鹿にす」
「じゃあ、やってみるか?」
「!」
エルに被せるように発言する龍。その目は自信に満ち溢れており、負けることなど微塵も考えていないようだった。悔しいのは、それが十二分に有り得るということだ。
「妹のことを馬鹿した私が憎いか?なら、証明してみるがいい!龍族の掟だ、全ては強さで決まる!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
高笑いする龍。エルは体を小刻みに震わせており、どうやら我慢の限界のようだった。
「いいだろう、受けて立つ!」
「馬鹿野郎!!挑発に乗っては駄目だ!!」
相棒は堪らず、声を荒らげる。何となく、ここで止めないと不味いことになる気がした。
「すみません、ベルフさん……折角、助けて頂いた命なのに、こんな形になってしまって」
そんな事言うな、まるでもう二度と会えないようじゃないか。止めてくれ。俺を置いていかないでくれ。
言葉は沢山浮かぶのに、何故か声に出せなかった。出しては行けない気がした。
「覚悟が出来たか。よし、いいだろう。ここは、このライオット様の名に免じて、二人いっぺんに片付けてやる」
「そんな!逃げて下さい、ベルフさん!」
今度は、自分の方が言われる側になってしまった。
だが、自然と足は動こうとしなかった。諦観に近いのだろうか。もう一緒に死ねるならば、それでいい気がしたのだ。
龍の顎に、力が集中していく。一撃が放たれるのも、時間の問題だろう。止める者は居ない。居るはずがない。
そんな時だった。
ドン!
急に、押された。エルが俺を助けるために、山頂から突き落としたのだ。
文句を言う暇もなかった。そのまま俺は山道を転がり続け、いつしか獣道に入り、木にぶつかって意識を刈り取られてしまった。
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「………………………うっ、うぅぅ、ん?こ、こは?」
「やっとお目覚めになりましたか」
小屋のような場所だった。木造で、部屋な中には最低限の家具だけがあった。自分は、ベットに寝かされている所を鑑みる限り、どうやら奇跡的に拾われたようだ。
俺に声を掛けてきた男には、見覚えがあった。確か、、、、
「……村長の息子のトルスだったか?」
「覚えて頂き、光栄です。ですが、私の父は貴方様が寝ておられる内に亡くなってしまいました。今は、私がこの村の村長代理を務めております」
「そうだったのか。俺が山に入ってから何日経った?」
「3日です」
「そうか…」
申し訳ないことをした、と思った。あの人の良い村長のことだろう、きっと俺の帰りを楽しみに待っていたに違いない。
「それなのに、それなのに俺は……くそっ!」
思わず、ベットを叩く。
「貴方様に非は御座いません。私が言うのもあれですが、父は元々先が短かったので」
「だからこそだ。死にかけの状態だった彼を期待させて起きながら、まんまと裏切ったことに変わりはない。俺は、取り返したのつかないことをしたんだ」
恥ずかしいことに、弱音を人前で吐いてしまった。エルの前ですら言わなかったのに。
「エ、る……!そういえば、エルはどうなった?」
「ああ、あの貴方様の隣におられた半人半龍の方ですか。残念ながら……」
そう言いながら、トルスは首を横に振る。
「いや、いいんだ。分かっていたことだ」
力なく微笑む。そう、分かっていたことなのだ。あの突き落とされた瞬間、俺は救われると同時に呪われたのだ。エルという名の呪いに。
「こんな時に、言いたくないのですが……」
そう思わせぶりな口調になる村長代理。
「なんだ?言ってみてくれ」
エルが居なくなった今、もう何もかもがどうでも良くなってしまった。何もかもが、受け入れられてしまう気がした。
「貴方様に、村長になって頂きたいのです」
「俺で…いいのか?」
「はい」
俺の返答は、早かった。
_______________________
「村長、どうしたんですか?」
「ああ、少し昔のことを思い出していてな」
「あの頃のことですか、、、そんなこともあるんですね」
「この歳になるとな、、、して、トルスよ。何か用があるのだろう?」
「なんでもお見通しですね。流石、ベルフさん」
「もうその名は捨てたと思っていたんだかな」
「はは、ご冗談を。それでご相談がありまして、、、」
「言ってみてくれ」
「それが、身なりの悪い若者が訪ねてきたのですが……」
※以下、筆者の独り言です。やっと終わりました、元冒険者編(←いつの間にか名前変わっとる)。いやあ、長かった。お付き合い有難うございます。
多分お気づきの通り、この後本編に続いていく作りです。
ちょっと伏線とやらを入れてみたかったのも、この間章(←そもそも日本語としてあるのか謎)創作の理由ですね。
つまり、次回へ繋がるってことです。無駄じゃなかったってことです。お楽しみに。
強調したいことが多すぎて「・」を使い過ぎちゃうのが目下の課題です。
あ、もし良ければフォロー、応援コメ、ハート等よろしくお願いします。
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