道中にて

俺たちは村を出たあと、取り敢えず近くにある大きな街、ドナセスを目指すことにした。


「ライトっさ、どこから来たの?」


きっ、来た!異世界系テンプレである「あんたどこ住み?」が!


作品によっては、正直に答える奴もいれば、『極東の地』というパワーワードを使いこなす輩もいる。


ど、どうすれば……っ、仕方ねぇ、こうなったら!


「ベ、ベルセルクはどこに住んでたんだよ?」


「えっ、僕?まさか、質問に質問で返されるとは思ってなかったよ…」


俺だって正直に答えたいんだけど、信じてくれるか微妙なとこだからな…


悪ぃな、ベルセルク。俺にも「言えないこと」が出来ちまったみてぇだ。


「うーんと、僕はね、龍の里で生まれたんだ」


「いきなりだけどちょいまちー、それどこ?」


「ああ、ごめんごめん。ここら辺から、ずっと北北西に進んだ所にある山脈に囲まれた土地だよ。山が険しすぎて、人間には存在すら認知されてないこと、忘れてた」


わざわざ、詳しい説明をしてくれた。龍の里どころか、この世界の様子すら知らないので、とても助かる。


俺は首肯し、話の続きを促す。


「それで、僕の家族構成なんだけど………」


ここでベルセルクは、急に言葉が詰まってしまった。何故だろうか、言えないことでもあるのだろうか。


「うん、ライトにはちゃんとしたことを言うよ。僕はね、半人半龍なんだ」


「ええっ!?」


信じられなかった。自分の中での半人半龍のイメージは、ところどころに鱗が浮かんでいて羽も生えてるけど、姿形は人みたいな感じだ。


そのことを伝えると、


「ああ、それは僕のだね」


「兄貴いたんだ」


さっきほどではないが、驚いた。でも言われてみれば、村を抜け出す時にみせた妹の演技は、とても完成度が高かった。


まさか、本当に妹だったとは。


「あっ、これも言ってなかったっけ。そうそう、いるんだよ。だけど、僕と違って『完全変身』が出来なかったんだ」


「なんだその、スーパー戦隊モノみたいなやつは」


もしくは、仮面被ってバイク乗る方々か。ともかく、転生前の世界でそんなことを言ってるのは、小学生ぐらいのものだろう。


「ごめん、また知らん単語が。ご教授のほどを」


「やっぱ、人に説明したことがなかったから、伝えるのは大変だな……『完全変身』ってのは、僕みたいに人と龍の姿を自由に変えられることを言うんだよ」


「へぇー」


つまり、先程俺が言った特徴は、『完全変身』が出来ていない半人半龍に当てはまるのか。


「お前は、里を追い出されたって聞いたけど、兄貴はどうだったんだ?」


「……僕よりも幼い頃に村を追放されたよ。だから、兄がいたことすら親に教えてもらうまでは知らなかった」


「そう、だったのか…」


想像していたよりも、ヘヴィーな話だった。自分が言いたくないがために、彼女に話を振ってしまったことを後悔。


ベルセルクだって、言いたくないはずの過去を話したんだ。俺が言わない訳には、いかなくなった。


「じゃあ、俺も過去の話をするよ。信じてもらえるか、分からないけど」


「ホント?やったー、ライトってどんな生活してたか、気になるんだよねー」


自分の話をしていた時は暗かったベルセルクの表情が、目に見えて和らいだ。どうやら、正しい選択をしたようだ。


「俺はな、『転生者』なんだ」


「あ、そうだったの」


「あ、ここの異世界だったのか」


俺の言うとは、その異世界に沢山の『転生者』が来ており、所謂転生者慣れしていることだ。


つまり、俺の心配は杞憂に終わった。


「ならば、話が早い。俺は日本から来たのだよ、ベルセルク君」


「ああ、日本か。確か、人口1億人強、公用語は無し、海洋に囲まれた島国で、食料自給率の低下と高齢社会が課題となっている、だったかな?」


「え、何それ俺より詳しいじゃんてか公用語日本語じゃねぇのかよ」


なんで、俺より俺の出身国のこと詳しいんだよ。でも、これで話しやすくなった。


「じゃあ、NEETという単語に聞き覚えは?」


「Not in Education, Employment or Trainingの略。正しい定義は、十五歳から三十四歳までの、家事・通学・就業をせず、職業訓練も受けていない者。通称、自宅警備員。平たく言えば」


「待て待て待て、それ以上言うな、俺が死ぬ」


危なかった。NEETについては知らなくていい事まで、知っているみたいだ。


まあ、英語とかこっちの異世界でどう言えばいいのか、気になるところではあるが。


話題を転換しないと、こちらの豆腐心メンタルが持たない。


「あ、後どれぐらいでドナセスに着くか、分かるか?」


「ええと、あと15分位で着くよ。そんなに都市部って訳では無いけど、結構貿易が盛んなんだ」


「貿易かぁ。この世界の食べ物とか食ってみてぇな。まだ木の実としか食ったことないからな」


「僕も楽しみだよ。まぁ、木の実も好きだけどね」


そんな他愛もない会話しているさなかだった。




「や、野盗だァァァァァァァァァァァ!!!!!」


「!?」


突如として、前方から悲鳴が上がった。


俺は場違いながらも、またテンプレかと思ってしまった。




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