第十一話「夫婦は性夜に愛し合う~"クライ"夫婦にも"アカルイ"未来~」
「逆に、逆にね?
ここまで気合い入れて衣装選んだのに、綺麗だとか可愛いとか似合ってるとか、
そのくらいの無難な感想しか貰えなかったら、
怒るまではそうないにしても『自分ってそんなに魅力ないのかな』『愛されてないのかな』って不安になったりはしちゃうかも……っていう。
例えばさ、好きな映画について気合入れて書いた考察交じりの感想文にさ、『すごいですねー』とか『おもしろーい』とか、
あとは言葉すらないよくわからないスタンプ? みたいなのだけ、そんな味気ない返信が返ってくるような、そんな感じ……かな」
「そ、そうか……そりゃ、悪かったな……」
「そうだよ。
確かに身体ばっかり求められるのは嫌だけど、求められなかったらそれはそれで大概嫌だもん。
第一に私達、夫婦だよ? 結婚してもう一年半とかそのくらいだよ? お互いにむらむらして……エロくなってこそじゃない?
それに……もう、そこそこシてるんだし……今更何躊躇ってるのって感じなんだけど」
「て、的確過ぎて返す言葉もねぇ……俺が全面的に悪かったわ、ごめん……」
「や、まあ、私の言い分も単なる我が儘って言ったらそれまでだし、そんな平謝りされても……」
「だとして俺に問題があったのは事実だろ……」
「そんなに申し訳なく思ってるなら、行動で示してよ」
「と言うと、まさか」
「当たり前だよね? 私だって、君に喜んで欲しいなって、そう思って相当覚悟決めてこれ着たんだもん。
君にも腹括って貰わないとさ、やっぱり納得できないっていうか……」
「そう、だな……なら、言うわ。
その衣装……よく似合ってんな、睦美。すげえ可愛くて、綺麗で……そんで、滅茶苦茶エロいよ……。
全体的に季節感あっていいチョイスだし、
上着とか、布少なめで……水着かってくらいに……その……胸、際立ってんの、興奮するし……。
あと……スカートも、リボンとか鐘とか洒落てるし、太股まで出すような丈で、その、危うげにヒラヒラしてたりしたら……もう、目ぇ離せなくなる、つーか……」
「ん、ありがと……」
「本当にさ、夢みてぇだよ……こんな素敵なサンタクロースが目の前にいるなんてよ。
全く、今年のクリスマスは最高だな……」
「……へぇ~……"最高"なんだ?」
「ああ、"最高"だ」
「これ以上ないくらい?」
「……望みは幾らでもある。だがこれ以上は――
「だったらさっ」
「だったら、なんだ」
「だったら、望みがまだあるんならさ……叶えて欲しいって、願わないの?」
「……そりゃ不当な贅沢ってもんだろ」
「えぇー? 別に贅沢したっていいじゃん、正当だよ。クリスマスにプレゼント欲しがったり贅沢したがったりってそれ、普通のことだよ?」
「それは本来善人の特権だ。クリスマスには悪人が裁かれるって伝承もある。
配下の化け物が鉄槌を下すとか、相方が袋詰めにして攫ってくとか、炭や生馬鈴薯なんぞを押し付けられるとかな。
するってーと、裁かれるべき悪人の俺がこんなに幸せなんだ。これもう奇跡だろ」
「あー……うーん……言っちゃ悪いけど、今の状況って奇跡にしては小さくない?」
「そうか?」
「そうだよ。この程度で奇跡だったら世の中奇跡だらけだよ。奇跡ってそんな安くないよ。中々起こらないから奇跡っていうんじゃん。
仮に奇跡だとしても、精々寝たきりの人に命令したら自力で帰れるまで回復したとかそういうレベルだよ多分。
どうせならもっと大きくて派手なの行こうよ。例えばパン五つ魚二匹で何千人何万人も満腹にしたとか、死んだ人を生き返らせたとか」
「それサンタクロースじゃなくて救世主(メシア)の管轄じゃねぇか」
「ものの例えだよー。少なくとも君にプレゼントをくれそうなサンタクロースは目の前にいるじゃんっ」
「自分で言うかね……」
「最初に言ったの君じゃん。とにかくそういうわけで私、倉井睦美は倉井家管轄のサンタクロースなわけです。協会非公認だけど。
その使命は管轄区画在住の倉井尽九字くんに何かしらのプレゼントをあげることです!」
「……じゃあ非公認サンタクロースの倉井さん、質問いいですか」
「はい、どうぞー。できる限り答えますよー。非公認だから専門的な質問とかは無理ですけどねー」
「……サンタクロースは善人に贈り物をするのが使命でしょう? 自分は悪人ですよ。
仕事とはいえ今まで散々悪事に手を染めてきました。仕事以外でも悪事に手を染めてきました。ひどい男ですよ。
非公認とはいえサンタクロースを名乗る以上、悪人に贈り物をするのはポリシー面で問題あると思うんですが、その辺り大丈夫なんでしょうか?」
「ふっ、愚問ですね尽九字くん。君が心配する必要なんてどこにもありませんよ。大丈夫、何も問題ありません」
「と言うと」
「君が悪人であるように、私も悪いサンタクロースだからです」
「……悪いサンタクロースは他人にプレゼントを贈らず寧ろ奪ったりするのではないでしょうか」
「確かにそういうベクトルの悪いサンタクロースもいると思います。ですが私は悪人を甘やかして幸せにするタイプの悪いサンタクロースです。だからこんな格好なんです」
「……なるほど」
「……まだ、躊躇ってますか?」
「お恥ずかしながら。どうにも踏ん切りがつかないのです。躊躇ってしまうのです。既に何度も繰り返して、慣れてきた筈なのに、それでも二の足を踏んでしまうのです。
自分がこんなに恵まれていていいのだろうか。罰が当たるのではないかと、不安で仕方ないのです」
「はい、わかりました。
っていうかごめん、もう面倒だから敬語やめるけどさー」
「助かる」
「うん。まあその、君の気持ちもわかるよ。そりゃそういう気持ちにもなるよね。けど私も譲れないのね。だからさ、逆に考えればいいんだよ。自分が恵まれてると罰当たる気がして不安なら、他人の為って思えばいいんだよ」
「つまり?」
「私が、君にっ、プレゼントをあげたいからっ! 『私からのプレゼントを貰って欲しい』っていうお願いを君が聞いてくれればいいのさっ!」
「考えたな……」
「でしょー。どう? いっつも私にやたらと優しい愛妻家拗らせ気味の君がさー?」
睦美は、愛らしくも妖しい動きでベッドに腰掛ける尽九字へすり寄っていく。
「私のこと″妻″とか″嫁″とか言えばいいのに、わざわざ″カミさん″って呼び名に拘るような君がさぁ~?」
目を逸らす隙も与えず、扇情的な挙動で揺れる胸やスカートを見せつける。
「大好きなお嫁さんからの頼みを、まさか私情だけで聞き入れないなんてこと、あり得ないよねー?
ね、"つーたん"……?」
隣に腰掛け、もたれ掛かり、密着する。
わざとらしくなく自然な形で欲望を刺激し、挑発的かつ、優しく甘い囁きで脳を、意識を、魂を愛でる。
呼称はいつもの"ツクジ"ではなく"つーたん"。これは特別に甘えたい時に使う、言わば必殺の殺し文句。
他意なく、悪意なく、恋情と愛情、良心と善意を高純度の性欲に混ぜ溶かし、ゆっくり注ぎ込み、じっくり漬け込むように、全身へ浸透させるように。
幾度か身を重ね、本質を理解した妻だからこそ知り得る、最適な夫の攻略法。
「……」
対する尽九字の選択は、最早ただ一つ。
息が詰まりそうな緊張を押し切り、無言のまま、躊躇いがちに傍らの妻の腰へ手を回す。
そうして心の準備が整った辺りで腰に手を這わせ、しっかりと抱き寄せる。
「ぁんっ、ふふっ」
嬉しそうに頬擦りする妻の方へゆっくりと向き直り、絞り出すようにゆっくり言葉を紡ぐ。
「……なあ、サンタクロースの姉さんよ……」
「はぁい、何かなー?」
「……世間はクリスマスなもんで、俺もプレゼントとかお願いしてもいいかい……」
「勿論いいよー。用意できるかはモノによるけどね」
「あぁ、モノじゃなくてな……その、どう言ったらいいかわかんねぇし、もう直球に言うけどよ……
あんたが欲しくて、たまらないんだ……貰っちまっても、いいかなぁ……」
「ん、いいよ。好きにして。私はもう、君のものなんだから」
「へへっ、そうか……俺のものだから好きにしていい、かぁ。
いいなぁ……おお、そうだ。なら俺もあんたの――睦美のもんにしてくれよ。
互いが互いの持ち主だ。悪くねぇだろう?」
「おっ、いいねー。じゃあ早速つーたんに持ち主権限で命令だっ」
「おー、何だ何だぁ?」
「じゃあ……この私を、好きなだけ、力一杯愛しなさい!
お互い疲れ果てるまで、存分に、欲望ぶつけてメチャクチャにするのっ!」
「満面の笑みで中々ドギツいこと言うじゃねぇか、悪かねぇぜ。
だがいいのか? 俺は魔神竜、魔神でドラゴンなんだぜ? そんなやべぇ奴にそのドスケベでエロエロな格好で"好き勝手やれ"なんて言ったらお前……色々と保証できねーぞぉ?」
「覚悟の上だよ。っていうか寧ろ本望、みたいな~?」
「ほう、言ったな? ……ま、嫌がるようなことはしねーさ。何かあったら言ってくれ」
「うんっ、いつもありがとうねー。ほんとつーたん、優しいもんねぇ」
「カミさんに優しくすんのは夫の義務だからなー。
さて、そんじゃあ……存分に楽しもうぜ、聖夜の性(サーガ)ってヤツを……」
「ん」
尽九字は睦美をベッドに寝かせつつ、唇を重ねる。
溢れんばかりの愛と情熱を、沈黙のまま伝えるように。
黒竜と美姫が交われば、愛欲の炎燃え上がり、白雪溶かして闇夜を照らす。
倉井夫婦の絆はきっと、名前に反してすこぶる明るい。
真パニクリスマス・クライシス~聖夜に騒ぐバカがいる~ 蠱毒成長中 @KDK5109
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