第十話「夫婦は聖夜に戯れる~思いもよらないプレゼント~」

「っふー……」


 寝室。湯上りの尽九字(つくじ)は、身体から湯気を立てながらベッドに腰掛ける。


「結構食ったなー。睦美が作ったのに加えて俺も鶏とケーキ多めに買ったもんなぁ。人間のまま食ってたら肥満云々以前に体調崩して地獄見る量だったぞ……」

 にもかかわらず夫婦揃って平気でいられるのは、組合によって施された"治療"よる所が大きかった。

「睦美も俺も、改造された以上実質的に人間じゃねぇからな。でなきゃこんな仕事続けてられねぇよ」

 組合は二人に、健康で丈夫な人外としての生を与えた。

 そしてその対価として組合の構成員として働くよう命じ、尽九字は前線で、睦美は裏方としてそれぞれ働いている。

 字面だけを見ると何やら怪しげで恐ろしいかのようだが、実際は福利厚生が充実しており給料もそこそこの額が支給されるなど、構成員はかなり厚遇される傾向にある。

「まあ命の危険は付きまとうし離反しようもんならどエライ目に遭ったりで、完全ホワイトとも言い切れねえが……それでも充実してるんだもんなぁ」

 尽九字はベッドに寝転がったが、何故だか中々寝付けない。

 仕方ない、何かしらの作業でも進めようか。

 そんな具合に起き上がった、その時。ドアをノックする音がした。

「ツクジー、入るよー?」

「おう、いいぞ」

 何の用かは知らないが、ともあれ部屋に来た妻を拒む理由はない。用事をこなせば程よく疲れて寝付きがよくなるかもしれないし、何なら一緒に映画やゲームを楽しむのもいい。

「それじゃ、お邪魔しまーす」

(まあどんな用事かによるが――なっ!?」

 刹那、尽九字は己の目を疑った。

 疑い過ぎて問い質したくなったが、自分の両目なので諦めた。

 だが彼がそれほどに面食らったのも無理はない。何せ

「睦美、お前……その恰好っ……」

「どう? 似合ってる、かな?」


 睦美が着ていたのは、差し詰め"露出多めの改造メイド服"と言うべき代物だった。

 赤白の色合いに、所々にあしらわれたリボンや鐘(ベル)、柊の葉からしてクリスマスを意識したデザインなのは明らかだった。

 愛する妻の見せた思いもよらない姿に、尽九字は内心静かに狂い悶える。


(まず注目すべきは何といっても上着(ウェア)! なんだあれ、マジに上着かっ!?

 首から胸元辺りまでしか覆えてねーぞ! 腹も、多分だが腰も丸出しじゃねーか!

 んで袖っ! 袖がねぇっ! 肩から脇まで丸出しだよ! 余分な布地限界まで削りやがって、もう構造が水着のトップスじゃねえか!

お蔭で睦美のっっ……FだかGだかの、胸がっ……乳がっ! バストが、チェストが……おっぱいがっ!

 ほどよい厚みの布地に包まれた状態で強調されてやがらっはぁぁあ゛っ!

 んで地味だから見落としがちになるが両腕のっ、二の腕下辺りから手首を覆うアームカバーっ!

 てめー! 否、てめー"ら"! 自分らは所詮腕担当で地味だからどうでもいいとか思ってんだろうが勘違いも甚だしいわァ!

 ベース赤に両サイド白フリルでお前っ! 睦美のさらさらすべすべぷにっぷにな肩と二の腕を強調しやがるわ奇麗な両手も上品に纏めやがるわと! 何なんだよお前らはっ!)


 衣装側からしてみれば『お前が何なんだ』といった所だろう。


(んで下半身ン~下半身よぉ~てめ~シンプルにもオシャレに可愛くエロく纏めやがってよぉ~。

 靴(ブーツ)は足首丈、リボン鐘(ベル)装飾で可愛らしく季節感も演出……!

 そして何よりスカート……スカァート! お前何なんだよ……リボンに鐘にフリルでこれまたプーリティー路線と思わせて、膝どころか太腿まで見せる丈っ……!

 もう、なんなんだよ……そんな丈じゃお前……ふとした拍子で中えちゃうだろーっ!?

 っはぁぁぁちきしょぉぉ……反則だぁ……ウチのカミさんが好きすぎるーっ!)


 かなり長いが驚くなかれ、以上は約20秒程度の間に尽九字の脳内で繰り広げられた独白である。


「……っ、っっ」

「つ、ツクジ? どうしたの? ずっと目見開いてるけど……具合でも悪い?」

「……あ、いや、そういうわけじゃねぇ。大丈夫だ。

 ただ、見とれてたんだ。あんまりにも、良かったんでな」

「そっかぁ。なら安心だねー。

 うーん、でもなあ……」

「……どうした?」

「や、そのさ? 肯定的な感想が聞けたのは確かに嬉しいんだけど、ちょっと言い方がアバウトなのが不満というか物足りないかなって。

 ほら、君って何でも、大体は結構独特な言い回しっていうか、いわゆる"自分の言葉"で語るでしょ?

 趣味の話から、テレビのニュースとか身の回りの出来事、あと私が作った料理の感想とかも、具体的かつ事細かに」

「……まあ、そうだな。そういうのが楽しいみたいな所あるからな、俺」

「でしょ? だからさー、これ着た私のことも単に"良かった"だけじゃなくて、具体的にどういう感じでどうなのかとか、

 そういうの聞かせてくれたらもっと嬉しいのにって、そんな風に思っちゃったんだよね」

「そ、そうか……そう、だな……まあそりゃ、そうなんだが、然しなぁ」

「え? 何か問題ある?」

「や、そのー……いつものノリで事細かに語っちまうとほら、下ネタばっかりになっちまいそうで、そこがな?

 なーんか、女相手に下ネタ連発ってどうなんだとか、劣情剥き出しなのはヤバくねーかとか、

 普通こういう時ってキレイだよとか似合ってるとか可愛いねとかがセオリーだろうに調子こいてエロいなって言っちまったら雰囲気台無しだなとか、

 女、それもてめえのカミさんを性欲の対象としてしか見れねぇのは夫としてアレなんじゃねーかとか、

 まあそんなことを思うと躊躇っちまってなー……」

「いや繊細っ! っていうか考えすぎ? 何て言っていいのかよくわかんないけど、そこまでしなくていいからね?」

「……そうか?」

「そうだよー。確かに配慮してくれるのは嬉しいし、そういう理屈もあるとは思うけど、性欲あるのは当たり前だしお互い様だし、少なくとも私は君からエッチだとかエロいって言われても嫌じゃないっていうか……寧ろ嬉しい、ぐらいあるし……」

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