またね

しみちゃん。

またね。


「またね」


「うん、また」


 彼女は改札の向こう側へ姿を消していく。

 時折こちらを振り向いては、手をふってくれた。

 曲がり角で曲がり、姿が見えなくなって俺も背を向けて帰路につく。

 次会うのはいつだろうか。

 そもそも、次会う日がくるんだろうか。

 それまで、この関係が続くだろうか。

 夏の夜、小雨の中傘を開かず歩いていく。

 アスファルトが雨に濡れた、独特な匂いが鼻をくすぐる。

 さっきまでは君の匂いでいっぱいだったのに、もうアスファルトの匂いにかき消されてしまった。

 それどころか、さっきまで感じていた温度すらも、小雨の中吹く穏やかな風に拐われてしまったみたいだ。

 魔法を、かけてよ。

 長く深い夜を、一緒に越えよう。

 またそれぞれの日々がはじまって、再び時間を重ねるまで消耗していく、君との魔法。

 君との時間を染み込ませるために、静かな夜に、君を歌って歩くんだ。

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またね しみちゃん。 @shimishimi6532

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