須臾
「あ」
遂にその斜線上にルクの姿を捕らえた砲は、雄叫びを上げるようにして
ルクは空中に浮いており、身動きが取れない。
そして、同時に様々なことが起こった。
まず、レーザーがルクに直撃した。脇腹の辺りを貫通した後にそのまま背後の空中へと飛び去ってく。
ちりちりと
それは手をすり抜ける一条のレーザーだった。痛みもなければ、怪我もない。レーザーに殺傷能力はないかとも考えたが、そうだとしたら正に今自分が負った怪我の説明がつかない。
(偽物が紛れてる……?)
答えは出ないままに、ルクはその場に崩れ落ちた。横倒しになった姿のままでは追撃の危険がある為、素早く起き上がる。思った通り、先程まで倒れていた場所を光線が通っていく。
「怪我を負った状態でこの数を避けるのは無理があるぞ。全く、今まではあの方に生かして頂いていたことに気づけなかったのか。しゃりしゃり出しゃばるからだ」
「仲間が危機だというのに助けない理由があれば教えてもらいたいですね。でもこのままでは分が悪いのは確かです。なら、身体改造
体内の自然治癒力を一点に集中、そして強化することによって範囲は限られるが負傷を数秒で治療することが出来る。
「なんで……治、らない?」
はずだった。しかし、脇腹から溢れてくる血は止まるどころか、ますますその量を増やしルクの手では受け止めきれなくなっていた。血が滴り落ちて飛び散り、白かった歩道が、街路樹の根元が、マンホールが、赤く染められていく。
「何がしたいのかはよく分からんが、とにかくこれで本当に決着が着いたな、さらばだ。せめて最後ぐらいは楽にあの世に送ってやろう」
脇腹を抑えながら立つルクに向かって砲が一斉にこちらへ向く。動けないと判断されたからか、どの砲もルクの胸だけを無慈悲に狙っている。
「発射」
「くっ、はぁぁぁっっ!!!」
ギリギリのところで倒れ込み、無様ながらも辛うじて避けることに成功する。
「先程までの機敏な動きはどこに行ったのだ。往生際も悪いのは良くない」
「……ぐふっ。そりゃ粘りますよ。例えどんなに絶望的な状況で自分が非力でも抗うことをやめたら、生き残ったときに仲間に合わせる顔がなくなってしまうんですから。貴方には分からないとは思いますが」
吐血しながらも、ルクは囚人服に反対することを辞めなかった。
「分かりたくもないな。貴様らが信じている
「もしそれが貴方が感情を捨てた理由だとしたら、それは『逃げ』を正当化しているだけですよ。簡単に壊れてしまうからこそ、そんな儚いものだからこそ、友情が続くことに価値が生まれるんです」
囚人服の言う通り、首を突っ込まなければルクは安全だった。ターゲットとしてわざわざ認識されるような行為を繰り返した結果がこれだ。
たとえ逃げたとしても誰もルクを責めなかっただろう。いくら仲間のためとはいえ、誰もが未知の能力を操る正体不明の集団に立ち向かおうとは思えるわけではない。
それでも、自分の身を呈してでも守りたいものがそこにはあった。
(まだ引き下がるような時間じゃない。ここで諦めてしまったら目の前の男と同じになってしまう)
こういう場合にこそ、冷静に状況を判断することが大切になってくるのは経験則だった。
そもそも論として、身体改造が機能しなかった。ではそれはなぜか。
囚人服が操っているレマグが使っている兵器は、周囲のマナを吸収することで動力を確保している。そのため、空気中に残存しているマナの量は減っているはずだ。
最初に懸念されるのはマナ濃度が低下することにより起こる
(けど、特に気分とかは悪くなってはいない。それなのにさっきは身体改造を発動できなかった……まさか、身体改造そのものにマナを使っているということなのか?)
生まれつき、魔導が使えない存在だということは師匠から聞いていた。事実、いくら使おうと思ってもマナを外へ送り出す感覚とやらが全く掴めず、悔しい思いをした経験がある。それ以降に発現したのがこの能力だった。だからこそ、この能力はマナには頼っていないものだと思ってきた。
(
原因は置いておくにして、問題は
けれど身体改造が使えないと勝てない敵だと言うのも事実だ。どうすればいいのか思考を巡らす。
「はぁ……貴様と話していても価値を見いだせないな。語るだけ時間の無駄だ。さっさと発射しろ」
囚人服が痺れを切らしたように言う。またバニチャーへとマナが充填されていき、空気中のマナ濃度が下がっていく。
囚人服が平気そうに立っているが、彼の近くにある砲はダミーの可能性が高い。彼の近くに飛び込もうとすれば、即座に良い的として撃ち抜かれてしまうだろう。
(……だとすれば、あれにかけるしかない!)
閃光があたりを埋め尽くす。第何射になるのか、もう数えていなかった。一点にこちらへと集中するレーザー。どう避けようと必ず当たる軌道だ。
そして叫ぶ。
「身体改造
皮膚を貫通するはずだった本物のレーザーは反射され、あらぬ方向へと飛んで行った。偽物は通過していくがやはりダメージはない。
「なんだ、それは」
訝しむような視線を感じた。聞こえてきた声も少し震えている。
「
「……小賢しい真似をしてくれたな」
取り繕ってはいるものの、冷や汗によってこの
では、あるはずのないマナをどうやって調達したのか。
「空気中のマナは尽きているはず。貴様、『オド』に手を出したな?」
「その通りです」
人間の生命力とも考えられているオドは、手を出すのは最後の手段だと考えられている。文字通り、自分の一部を犠牲としてエネルギーを生むのには相応のリスクが伴うためだ。
「見ての通り、私は近接戦闘が苦手だ。かといって、今のところ策をこれ以上持っている訳でも無い。お暇させて頂くとしよう。ああ、あと。妙な真似だけはするなと伝えておこう」
囚人服の足元に浮かび上がってきたのは、どす黒い魔導陣だった。彼はその中へと吸い込まれていくようにして、消えていった。
そして吐き捨てるように言った。それは負け惜しみでも何でもなく、
「これが
忠告だった。
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