盗聴
長い話し合いの割に、決まったことはそんなに多くはなかった。
何せ、当のヘラエサーと連絡がつくかすら怪しいこの状況では、何一つ具体的なことを決めることが出来なかったからだ。
結局、連絡はナシエノに任せ、もし取れたらそこからまた予定を調整することになった。
それまでは、なるべく大人しくしているようにと、ギルドマスターから伝えられた。
それには、ルクも賛成だった。
狙いはクリネらしいが、ルクも関わりのある者として、彼らに目をつけられていることは間違いないだろう。
さらにユオラエジュを倒したことがバレれば、状況は悪化の一途を辿るに違いない。最悪、ギルド襲撃ということも考えられる。
このようなことを話し合うに留まり、この会議は幕を閉じた。
はずだった。
「はは、ぜーんぶ丸聞こえですよぉー。ふむふむ、今度あの少年が行くのはティスリフですか……報告、報告♪」
一人、聞こえるはずのない三人のみの密談を盗み聞いている者がいた。
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クリネたちは、ゲームセンターを湧かせる大試合を繰り広げた後、ギルドに戻ることにした。
レマグは再戦を挑もうとしていたが、ルクのことが心配だと言うと、思いの外すんなりと了承してくれた。
その言葉を聞いた時、レマグの表情が
ゲームセンターを出ると、再び暑さが2人を襲った。
クリネは回れ右をして、あの冷房の効いた空間に戻りたくなったが、そういう訳にもいかない。
ルクに会えることに対しての
しかしギルドに繋がる大通りに出た時、あることに気づきその歩みは止まった。
いや、気づくと言うよりは、目に入らざるを得なかったと言った方が正しいか。
「えっ、封鎖されてる?」
「……」
視界をを埋め尽くす観衆、野次馬、傍観者。
ギルド全体が封鎖されている。
広いはずの通りが人で埋め尽くされ、熱気を
彼らを言い表す言葉は数あれど、目的はただ一つだろう。
人を
「これだと、ギルドに入れなそうだな……」
「じゃあ、正面入口の方は……」
「ダメだろうな。というか、
「えっ、どうして?」
クリネは、純粋に疑問を抱いた。今、ここから得られる情報は裏口に封鎖がなされていることだけ。
それなのに、どうして正門の方で事件が起こったと言えるのだろうか。
そしてその時、明らかにレマグは失言に気づいた表情になった。
「あっ…………いや、うん。ほらさ、うちらがゲーセンいる時、悲鳴とかが聞こえなかっただろ?だから……」
「…………ねぇ、レマグ。どうして、そんな嘘つくの?」
「っ。………………じゃあ、聞き返すようだがどうしてそんなことが言いきれるんだ?」
まず何よりも、その反応が示していた。
いつものレマグと違って、少し早口で文末になるに連れ語気が強くなっていた。返答にも時間がかかっている。
怪しい。きっと彼女は隠し事をしている。少なくともクリネはそう口調や態度から判断した。
「だって、おかしいよ。私たちはゲームセンターにいたんだから、多少の悲鳴は掻き消されちゃうはず。しかも、前にあのゲームセンターは近所迷惑防止のために、防音壁で作られてるってレマグが言っていたじゃない」
さらに、問い詰める。
こんなことはクリネだってしたくはなかった。これではまるで、尋問だ。友達にするようなことではない。
だけどここで下がるのも、何か違うような気がした。
「____ 」
レマグは、その質問に対し沈黙を貫いていた。顔は心
「なんで、隠すの?言えないような事情があるなら、正直にそう言って。正門で何があったの?いや」
クリネは、一旦そこで言葉を切った。
次の一言が決め手となった。
「…………ルクさんと何を話したの?」
その時、明らかにレマグの表情が変わった。
______________________
「
最初に聞こえてきたこの言葉が、合図となった。
「……何っ!」
「来たわね……予想以上の早さだったけど」
今度こそ、二人は別の反応をとった。
アルフレッドが慌てていることに対し、ナシエノは驚きつつも、どこか予知していたかのような
暫く、部屋にいるとこちらに近づいて来る足音がする。一つや二つではきかない。もっと大勢の集団が迫ってきていた。
扉が乱暴に開かれる。ノックなどある
「この区のギルドマスターは誰だ?」
開口一番、遠慮のない切り込んだ質問がなされた。元からその場にいた三人の顔が
ルクの予想通り、出てきたのは治維連の者たちだった。全員、独特の鈍色の制服を身に
質問をしてきたのは、リーダー格のような男だった。
一人だけ胸にある勲章が多く、さらに棒がある反対側の腰には、
「私がこの区のギルドマスター、アルフレッド=ロクラタイナだ。二つ名は
ハンター界隈の常識として、二つ名というのは大変に効力を持つ。
既に世に広まっている二つ名を
破ったらどうなるかは、具体的には決められていない。
そのため、アルフレッドは信用を得るためにそう言ったのだが、
「貴様らの意味のわからんその二つ名文化など、なんの証明にもならん。あれだ、承認印だ。ギルド内で使っているギルドマスターの承認印を見せろ」
一蹴だった。興味がないと言うより、毛嫌いしているかのような感じだった。
アルフレッドは素直に指示に従った。ここで渋ったりなどしたら、きっとあとが面倒だろう。
アルフレッドは
机の前でしゃがみこみ、
すると、カチッという音とともに抽斗が開いた。
「早く、こっちに見せろ」
傲岸不遜な態度は、相変わらずだった。
自分たちは、ハンターのような野蛮な奴らとは違う、そういった思い込みがプライドを形成していた。
アルフレッドが、その場でよく見えるように印を掲げた。
それにも関わらず、
「……見えないな。もっとこっちに寄れ」
ルクとすれ違うその刹那に、アルフレッドと目が合った。それだけで、彼の言わんとすることを察する。
「これは失礼しました。こちらが印でございます」
口調こそ穏やかだが、込み上げている怒りが隠しきれていなかった。
リーダーは、ジロジロと印を眺める。そして数秒悩んだあと、
印を奪い取ろうと、手を伸ばした。
同時に伸ばした腕を何かが掴んだ。
「っ」
「おい、あんまりハンターを舐めるんじゃねぇよ。お前みたいな礼儀も何もかもが成ってない、どうしようもないやつが、この世界を腐らせてるんだよっ!」
「ひぃぃ!!」
アルフレッドの怒りはとうとう、爆発した。先程から見せていた態度もそうだが、あまつさえ印を盗もうとしたのだ。
法を守らせるための立場の人間が、法に
「取り乱して申し訳ありません。ですが、先程の行為はあまりにも目に余る。このことは上にご報告させていただきます」
「ふ、ふん。いいさ、こんなちんけな区のギルドマスターに何が出来るというのだ。俺の父は、本部に勤めてるんだ」
「だから、大抵の事は許されると」
「あ、ああ、そうだとも」
ここで許しを
しかし、リーダーはこのチャンスを棒に振った。
「すみませんが、私は治安維持連盟総長と旧知でしてね」
明らかに、彼が青ざめるのが見て取れた。
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