戦・雄伝

 やはり力だ。

 雄伝は存分に力を奮っていた。狩人ども、その頭蓋めがけて。

「目を射抜け!」

 誰かが叫んだ。狩人も知恵を使い始めたようだが、雄伝は意に留めなかった。出来るものならやってみろと言わんばかりに、弓を向けた狩人の方を向いて高々と体を持ち上げた。

「狙え、狙え、人間ども! どうせここで朽ちるのならば、せめて刃向かって死んでゆけ!」

 ごう、と吠えた顔に矢が飛ぶ。その全てが弾かれる。雄伝の顔を覆う泥の兜はそれほどに硬く、もはや第二の骨といって差し支えなかった。骨は硬い。雄伝の意思を示すように。

「おうっ」

 雄伝の身体が狩人めがけて跳んだ。二本足で、矢の飛ぶほどの幅を一跳びで越えた。どすんと落ちると同時に二人の狩人を踏みつぶしていた。

 もう一人の頭は泥の拳で叩き潰した。虫のようにあっけなく潰れた。少しばかり人間の声が少なくなった。

 雄伝は、己が力に震えていた。

 これほどの意思、闘志――殺意が、己が内にあったとは。

 元よりそのつもりではあったが、実際に人間を狩ってみて、殺意は高まる一方だった。こんな虫けらのような奴らに今まで俺たちは窮屈な暮らしをしていたのかと思うと、灼けるような感情が込み上げて堪らなかった。

「皆を」

 声は静かに、動きは苛烈に。突き出された槍をへし折った。

「父を、乳母を、右眼うげんを、左眼さげんを」

 目の前の人間を蹴り飛ばした。飛んだ奴は後ろで弓を構えていた者らにぶち当たった。

「殺して嗤ったお前たち。許さない。潰えろ。ここで潰えて終わるのだ。まずは大年、次いで七加瀬も、金牙も、火波も、人間の棲処すべてを焼き尽くしてくれる。第一の門出、血祭りはお前らだ。さあ、かかれ、かかれ! 狸の意思、大地の意、人間どもを廃絶するものと思い知れ!」

「おお、やってみろ!」

 獣の吠え声にも負けぬ野太い声が轟いた。見れば、尻込みする狩人らを押しのけて、巨躯の人間が踊り込んでくるところだった。馬面だが力狸のような大男だ。担いでいる斧もでかい。雄伝はそいつの目に、他の狩人とは一味違う闘志を見出した。

 ――大伝みたいなやつだ。

 戦の中で、ニヤリと笑った。体格も、無骨に真っすぐ来るところも、この大男と大伝は似ている。強敵に怯えぬところもだ。そのそっくりなところが雄伝を笑わせた。大伝は好きだ。大伝との取っ組み合いは、考えることの多い親分の職責の中で、何よりも心弾ける楽しい瞬間だ。あの斧は脅威だが、それだけにこちらも燃える。こいつは強く、美味い敵だ。

「我は雄伝。名乗れ、人間!」

「六武太!」

 六武太の斧が空を割って振り下ろされた。雄伝は引かず、泥の腕で止めた。激しい力と力がぶつかって、一時両者の動きが止まった。

 その間を縫って放たれた一条の矢が、雄伝の目を射抜いた。

 のけぞりながら雄伝は考えを改めた。

 こういうことは、大伝はしないと。

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