第42話 〜私が拳聖?〜

「ノ〜レ〜!、父さんと一緒に拳聖にならないか!?」


「なるなる〜!!」


 帰って速攻で娘を拳聖にしようとする親父を見て変な笑顔が出てきた。

 ハハッと笑いながら俺は逃げるように自室へ向かおうとすると、母さんにこう言われた。


「タルトさん、エルシーさんを見ていないかしら?、まだ帰ってきてないの」


「エルシーさんが?」


 変だな...、先に帰っていたと思ったんだけど...。

 仕事場にはもういなかったので、その辺をぶらついているのだろうと思ったのだが、それもおかしく思う。

 時間的にもう帰ってこないのはおかしい。

 俺が少し心配していると、窓から一通の手紙が入り込んできたので読む。

 どうやらエルシーさんは今日ツバキの家に泊まるそうだ。

 一安心して思わず息を吐く俺。


(よかった、何かあったのかと本気で心配してたわ)


 彼女のことなのでもしものことなど起こり得る筈もないのだが、それでも年頃の女性なことに変わりはない。

 安心するとお腹が空いてきたので母さんが用意してくれていたご飯を食べる。

 久しぶりに家族だけでのご飯なのでノーレと母さんは嬉しそうだ。

 やっぱり部外者であるエルシーさんがいると、こんな感じの雰囲気にはならない。

 そう思うと家族ってやっぱり家族なんだなと思わずにはいられないと思う。

 特に妹は父さんが帰ってきてからよく笑うようになったと思う。

 いや、以前からよく笑う子ではあったけど、更に良い笑顔を見せてくれるようになっているのは確実だ。

 その起点となったのは、どう考えても父さんの帰還だと思えてならない。

 あの人が帰ってきてから家全体の雰囲気が2段階くらい向上したように感じる。

 これが真の親か...、俺の親とは真反対だな。

 皮肉たっぷりに俺は心で笑う。

 俺の親もタルトの親くらいいい人だったら死なずに済んだのにな...、今更もう遅いけど...。

 こっちでの生活に幸せを感じるた度に感じるのは、あちらでの生活との格差。

 こちらで幸せになればなるほど頭に浮かぶのはあのムカつく視線。

 そしてその原因となった親父。

 それを思い返すとどんどんムカムカがたまってしまい、ついコップを床に落とし割ってしまった。


「タルトさん!大丈夫ですか!?」


 母さんが足元に飛び散った破片など気にも止めずに、俺の足にそれが刺さっていないか確認してくれるのを見て胸が熱くなった。


(世界が違うだけで、親の温もりってこんなに変わるんだな...)


「ありがとう母さん...」


 俺はため息にも似た笑みを浮かべながら、母さんが破片を片付けるのを手伝うことにした。

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