第5話 〜ノーレと休日〜

 俺はノーレと一緒に森に遊びにきていた。

 なぜこのようになったかと言うと、母さんに朝食後「今日は仕事を休んでノーレと遊んでやってくださいな」と言われたので妹に連れられて森へとやってきたのだ。

 深緑の風景に心を落ち着かせながら彼女についていく。

 森の奥に行くほど森特有の匂いが鼻を刺してくるが不快感はない。

 むしろ心地よく感じる。


「森って何もないと思ってたけどこうしてきて見ると案外いいもんだな」


 俺は先行く妹にそう言うと、彼女は笑い出す。


「何言ってるの?にーにーがノーレに教えてくれたんだよ、森は楽しいところだって」


 妹の言葉に俺はハッとする。

 今俺はタルトなんだ、妹をがっかりさせるようなことをしてはいけないと。

 彼女はそんな俺を尻目に駆け出す。

 子供のはしゃぎっぷりが不快に感じないのはタルトの妹だからかなのか?。


「まてよ!」


 俺はノーレを追いかける。

 追いかけっこが楽しいようで、彼女の速度はどんどん上がる。

 俺も頑張って追いかけるがなかなか追いつけない。

 自分より年下の女の子に追いつけないことに疑問を持ちながらも追いかける。


「追いかけっこ楽しい〜!」


 彼女ははしゃぎ声を上げているので、追いかけっこを楽しんでいるようだ。


「全く、しょうがないな」


 俺は彼女にもう少しで追いつくところまでくると、急に静止し動きを止めので俺は止まれず走り抜けてしまう。

 木々の遮る道なき道を進み、傷つきながら走り抜けた先には広大な湖が広がっていた。


「うわぁ〜」


 思わず声を上げる。

 俺は目を輝かせながら湖を見る。

 キラキラ光る水面に水面に立つ白鷺。

 背景の森といい、ここで有名な絵師が風景画を書けば絵になると言えるほどに様になっている湖だったのだ。

 俺は湖の水の透明度に目を奪われる。

 そこまで見えるほどに透明度が高く綺麗な水だ。

 俺の後に妹が姿を現す。


「にーにー、あれやって!」


 ノーレが期待の眼差しを俺に向けてくるが、あれとはなんだ?。

 俺がゴマついていると、彼女は俺に草を渡してくる。

 やってと草を渡されても記憶にないことをできるはずがない、俺はタルトではないのだから...。

 だが実際に草を受け取ると彼の記憶が脳内に再生される。


(これは?...)


 少し靄がかかっているような感覚だが、何をしているかはわかる。

 草を口に当てて音を出す。

 草を笛のように扱い音を出す。

 初めてなのに上手なメロディを奏でる、これはタルトの技術がそのまま俺に受け継がれたということなのだろうか?。

 音が旋律を生みだし、周りと溶け合う。

 彼女は目を瞑り俺の出す音に酔うように聞いている。

 俺が音を奏でると調律が森に響いていきこの場の空気を作り出す感じを覚える。


(なんか...、心地いいな...)


 タルトの記憶通りの音楽を続ける。

 一通り吹き終わると俺は汗を流していた。

 ただ草笛を拭いていただけなのだが思ったより体力を使ってしまったようだ。


「やっぱりにーにー凄い!」


 ノーレは飛び跳ねながら俺の出した音楽を褒め始める。


(他人に凄いと言われたのは久しぶりだな...)


 俺は彼女の嬉しそうな表情を見て笑う。

 俺を慕う妹の笑顔を作ったのはタルトの記憶で俺の力ではないが、それでも嬉しい物は嬉しい。


「まあな」


 俺は笑顔を作りノーレの頭を撫でる。

 それを妹は声を上げながら受ける。


「えへへ、にーにーに撫でられちゃった〜」


(前いた世界もこのくらい穏やかならな...、生まれた場所を間違えたって思うよ...)


 俺は空を見上げながらそんなことを思っていた。

 しばらく彼女と会話をしていると後ろから物音がしたので、振り返ると小動物がいた。

 前の世界にもいた、そうこれはリスだ。

 それを見た彼女はリスに近づいて話しかける。


「リンちゃん久しぶり〜」


 小動物に話しかけるのを見てほっこりする俺だったが、動物が話せるわけがない。


「おいおい、ノーレ、動物が話せるわけ...」


「ノーレさんこんにちは、今日はいい天気ですね、それにタルトさんもお元気そうでなによりです」


 リスが人の言葉で喋っていた。

 突然のことに俺は吹き出してしまう。

 そんな俺の様子を見た妹が不思議そうな顔で俺を見てくる。


「なんでにーにーが驚いているの?、にーにーが名前をつけて言葉もこの子達に教えたんだよ?」


「俺が!?...」


(タルト一体何者だよ...、オウムに言葉を覚えさせれることは知っているが、これはリスだぞ...、リスが喋れるなんて聞いたこともないぞ...)


 俺は頭の中を整理することにした...。

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