第9話 弱りゆく絆

 そこからが地獄だった。


 まず、思いつくかぎりの名前を竜にぶつけた。でも、〈彼〉は困ったように首をふるばかり。

 早朝から続けて夜になる頃には、お互いひとことも口をきかないで、テーブルの両側で黙り込んでしまった。


「もう、あたし、考えられない」

「わかります。そうですよね。本当にすみません」


 竜も元気がなかった。

 どう考えても、見込み薄の無謀な謎謎なぞなぞだ。謎謎というより、賭けギャンブルだと思う。

 しかも、賭かっているのは、〈彼〉の命。


 正直、あたしは、怖くなってきた。


 そうして、四日目の朝になっても答えは見つからなかった。


「あのさ、竜と乗り手は、一生涯伴侶となるって言ってたよね」

「そうですよ」

「それって、あたしが不死身になるってこと?」

「契約したあとにリリベットが死んだら、わたしも生きていられないという意味です」

「竜って千年近く生きるんでしょう?」

「そうですよ」

「ならば、あたしが〈伴侶〉にならないほうが、長生きできていいんじゃない?」

 〈彼〉は少し考えた。

「そうかもしれません。でも、運命の相手を見つけてしまうと、無視できないんです。私たちはそういうというか」

「それじゃ、じゃない」

 〈彼〉は眼を見開き、悲しそうに微笑んだ。

「なら、あたしが契約する前に死ねば、あんたは長生きできるってこと?」

「リリベット!」

 一瞬、〈彼〉が白い火を噴いたように見えた。

「絶対に、絶対にそんなことは口にしてはいけません。二度と。約束してくれますか?」

 あたしは、〈彼〉の迫力に押されてこくこくと頷いた。

 〈彼〉は、ため息をひとつついて、

「すみません。ちょっと休んできます」

 あたしを残して宝物庫へ消えていった。


「それ、禁句だから」

 横で聞いていたマイレ=マリカはフライパンを片手に言った。

「◎*⊆→∝∞⌘は、それで前に相手を亡くしているの。これ、あたしが教えたことも内緒」


 ってそういうことなの?

 あたしはもう、お手上げだった。

「マイレ=マリカ、ヒントちょうだい!」

 ドワーフ少女は、厳しい顔で首をふるばかり。

 あたしは追い詰められた気持ちで、紙に思いつく限りの名前を書いていく。

 紙は二枚、三枚となって、あたしは手が痛くてペンをおいた。

 もう、思いつかない。

 どうすればいいの。

 あたしは、ヒントを探そうとサムナート先生の本を開いた。

 最初から読み直しながら、文書の頭文字を組み合わせたり、綴り換えアナグラムを探したり。紙とあたしの手は真っ黒になったけれど、これっていう答えは見つからなかった。


 ひとつも。


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