第2話 落ちこぼれリズ

「ドラゴンとは、孤高のいきものである」


 竜学の権威だというサムナート教授は、そういって黒板に〈孤高〉と、書いた。


 あたしもノートに、孤高、と書きながらぼんやりと窓の外を眺める。


(あ、飛んでる)


 飛行実習用の茶色いドラゴンが、ふわふわと上がっては降りていた。

 ブラウニーは穏やかな種だ。三歳でも乗れる。

 飛行実習は好きだけれど、正直、あたしは上手くない。

 なにがいけないのか、竜たちに嫌われている。

 ブラウニーでさえ、あたしが乗ると、態度がよそよそしくなる。早く降りろといわんばかりに、いらいらし背中を揺すって落とそうとする。

 竜の狩人ドラゴン・ハンターになりたいのに、竜に嫌われてどうすんの!


 あたしの名前は、リリベット。長く言えばエリザベス。来月十五歳になる、王立竜の狩人ドラゴン・ハンター養成学院の二年生。

 生まれたのはアルムガルト王国の王都、アルムスター。

 背はのび(すぎ)たけど、茶色のくるくるくる巻き毛とやせっぽちと、成績はほぼ最低で、来年進級できるか微妙なところ。

 本当は、微妙とかいってられない。

 この学校に、「落第」はないから。

 「落第」=「退学」

 うわあ、あたし、大丈夫か?


「エリザベス・マーロン」


 あんなに反対したダディとキャスリンを説得して、やっと入学できたのに、「落第」しました、なんて帰れる?


「エリザベス=ローズ・マーロンくん!」

「はい!」


 反射的に立ち上がると、同じ目線にサムナート先生のがあった。小柄な先生のおでこが、目の前でつやつやと光っている。

 先生はかなり年寄りだ。旧種族の血を引いているらしい、という噂で、百歳近いらしいけど、そこまで年寄りには見えない。

 髪と髭を長く伸ばしていて、きっと若い頃はきれいな金髪で、かなりの美形だったとあたしは思う。

 美形!


「答えはなんだね?」

「は。こ、こたえ」


 語尾が下がる。先生がくるりと背中を見せて戻っていくと、隣のアードが「第三王暦二九五年」とつぶやいてくれた。

「こ、答えは第三王暦二九五年です!」


 先生が何度かうなずいた時、時計塔のチャイムが鳴った。


「あー、今日はここまで。マーロンくんは、後ほど私の部屋へ来るように」

「はい」


(またか……)


 今年、何度目かの呼び出しだ。周りでクスクス笑いが起こる。

 「落ちこぼれリズ」が、あたしの呼び名。

 いや、本当。

 あたしは、かなり前から、落ちこぼれていた。



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