第17話 負けられない戦い
「何で怒るのシグマ? 昔はそんな子じゃなかったわ」
ロズルは心底悲しそうに嘆いた。
「あなたが変わってしまったのは、テレサが来てから。だからあの子にはとっておきの救済をしたの」
ロズルがそう口にした瞬間、シグマが消えた。
「かっ……はっ」
金色の槍がロズルを貫く。
消えたのではない。
シグマは、約五メートルほどの距離を一瞬でゼロにしたのだ。
「これは、お前に裏切られたテレサの分だ」
シグマは、そう吐き捨てて槍を引き抜いた。
「っぐ……いい……ものを……見せてあげる」
ロズルは最期にそう口にして力尽きた。
「シグマ……」
俺は彼に近づけないでいた。
目の前にいる男の顔は、俺の知っているシグマではなかった。
殺意だけがシグマから放たれる。
ギイッ。
不意に、一番奥のドアが開けられる。
「「――なっ」」
ドアを開けた人物の姿に驚きが隠せない。
それは、獣のような腕。
それは、爬虫類のような尻尾。
それは、ヘビのような顔。
人型の人ではない何か別のモノ。
宇宙人を連想させられる容姿。
ギイッ。ギイッ。ギイッ。ギイッ。
次々とドアが開けられる。
この部屋も。
この部屋も。
この部屋も。
この部屋も。
人型の人ではない生物。
それが次々と姿を現す。
「なんだよ……ここ」
俺が呟いた瞬間、
「ふざけやがって!」
シグマが、足元に倒れるロズルを蹴り飛ばした。
ギイッ。ギイッ。
シグマの叫び声に反応して、さらにドアが開く。
だが、どれもこれも人ではなかった。
彼らはドアを開けたまま、俺たちを見つめた。
「急いでここから逃げたほうがいいわ」
不意に、俺たちを見つめていたバケモノのひとりが忠告してくる。
そいつは、爬虫類のような皮膚と大きい目が特徴的。
まるでカエルのような奴だった。
「お前、喋れるのか!?」
シグマが驚く。
「ええ、私以外は喋れないけどね」
カエル女(?)はそう言って近づいてくる。
「とにかく早く逃げて! 一号と二号を倒したからサウザンドが来るわ!」
カエル女の言葉に首を傾げる。
「さう……ザンド?」
その単語をオウム返しする。
いったい何のことだ?
そう聞き返そうとしたとき――
「ずいぶん暴れてくれたわね」
ギイイイイイッ。
そのドアが開かれた瞬間、異形の生物たちが一斉にドアを閉めた。
「「――っ!」」
部屋の中から無数の手が姿を現す。
「うげっ――」
俺が驚きの声をあげた瞬間、
「あらっ、女性にそのリアクションは失礼よ」
そう言って無数の手をもつ女が部屋からでてくる。
いや、女というよりは肉ダンゴといったほうが正確だ。
無数の人間の塊。
その姿は、度し難いほどに
地獄のような
人間は、何て醜い生物なんだ。
奴を見るとそう考えずには、いられない。
「……ロズルなのか?」
俺の問いかけに、肉ダンゴがクスクス嗤う。
「ええそうよ。私はロズルよ。まあ、ロズルのクローン千体を合成させた存在。サウザンドと呼んでほしいけど」
「「――!」」
俺たちは言葉を失った。
クローン千体?
合成?
何を言ってるんだ奴は。
「そうやって何もかもを犠牲にして、お前はいったい何がしてえんだ! このクソババア!」
シグマが激情をぶつける。
「何がしたいか? フフッ、すべてはボスのため。あの人のためなら何でもするわ」
サウザンドは、愉しそうに笑う。
「クローン人間だって造るし、キメラだって造るわ。それがあの人の望みだから」
その言葉に、シグマの歯がギリギリと音を鳴らす。
「お前だけは俺が殺す! 何があろうと殺す! 今すぐ殺す! ぜってえ殺す!」
そして、体勢を低く構える。
一瞬でゼロ距離にする必殺。
こうなったシグマを止められる者は、誰ひとりとしていない。
「死ねええええええ!」
その瞬間、シグマが消える。
ザシュッ。
一瞬にして、サウザンドの身体を貫く。
「へっ、今すぐその醜い姿を穴だらけにしてやる」
シグマが得意気にそう口にした瞬間、
「あなたじゃ無理よ」
「なっ!」
その言葉ともに、シグマの槍がサウザンドの体内へと吸い込まれていく。
「――さよなら」
その瞬間、サウザンドの傷口から金色の槍が射出される。
ドスッ!
「かっ……は」
金色の槍がシグマの腹部を貫く。
その槍の威力は、俺たちが一番よく知っている。
「嘘だろ……」
その光景は、信じられないものだった。
シグマの最期を目の前にして、
「うああああああああああ!」
俺は、サウザンドへ突っ込んだ。
すぐにでもシグマから槍を引き抜きたくて。
まだ、助かるはずだ。
まだ。まだ。まだあああ!
シュッ!
得意の手刀を繰り出す。
目の前の肉ダンゴを斬り裂くことなど、
だが、
「ムダムダァァァ! 『デザイア』にこんな攻撃が効くわけないでしょ!」
「なっ」
肉ダンゴの身体から無数の剣が射出される。
ドスッ!
「あ……っぐ」
腹部に突き刺さる。
ドサッ。
そして、その場で倒れた。
激痛が俺を襲う。
「い……っ」
だが、奴のひとことが痛みを麻痺させる。
デザイアだ……と。
ボスが所持する伝説のアイテム。
それさえあれば、エロヴィスの石化を治せる。
三年間。
それだけを求めて生きてきた。
「めの……まえに、ある」
なら、死ぬ訳にはいかない。
痛みは、全身を支配している。
泣き叫びたいほどの激痛。
だが、まだ足は動く。
まだ手は動く。
「この……戦いには負けられない!」
立ち上がる。
そこには強い意志がある。
彼女を助けるためなら何でもすると誓った。
なら、倒れてはならない。
負けてはならない。
死んではいけない。
「お前の敗因を教えてやる!」
俺はサウザンドを指差した。
「お前はペラペラと喋り過ぎだ。お前がデザイアであるなら俺は勝つぜ! ぜったいに」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます