第16話 シグマとテレサ(その7)

 ザシュッ!


 俺の剣撃がテレサの身体に直撃する。

 突進するように見せかけて、背後への強襲。

 テレサの得意技。

 ついに、それを対処した。


「……勝負は俺の勝ちだ」


 だが、テレサの身体は無傷。

 頭部以外に攻撃は効かない。

 いや、効かないなんてことはない。

 単に俺の剣撃よりも奴らの身体が硬いだけ。


「ガアアアアアアッッ」


 お返しとばかりに槍が俺を襲う。

 勝負に勝って命を落とす。


「へっ、お前の身体に傷をつけるくらい強くなりたかったぜ」


 最期にそう言って笑った。

 目を閉じて、を受け入れる。

 

 グサッ!


 生々しい音が鼓膜に張りつく。


「ぐっ」


 だが、不思議なことに痛みがない。

 恐る恐る目を開ける。


「――っな!」


 テレサの身体に槍が突き刺さっている。

 その光景に驚きを隠せないでいた。

 

「なんで……」


 その言葉しか出てこない。


「がっ……はっ!」


 テレサが口から血を吐く。

 

「大丈夫か!」


 咄嗟に彼女の胸に刺さる槍を引き抜こうとする。

 そのとき、傷口から光が漏れだした。

 その光は欠片のように散らばり、四方八方へと飛んでいく。

 がマナだと気づいたとき、テレサの身体が変化していく。

 いや、元に戻ったというべきか。

 目の前には、俺の探していた女の姿があった。


「ごめ……ん」


 テレサは、その言葉だけ残して目を閉じた。 


「待てよ! しっかりしろよ」


 彼女を揺さぶる。

 もう一度目を開けてほしい。

 揺さぶれば、また目を開けそうなのに。

 なんで目を開けないんだ。

 なんでお前がこんな目に……。


「パラディンナイトになるんだろ! 起きろよ!」


 泣き叫びながら、彼女の胸に突き刺さる槍へと視線を移す。


「クソッ」


 槍を引き抜く。

 だが、何も変わらない。

 辺りを見渡す。

 ここにいるのは俺ひとり。

 なんのためにギルドに入ったのだろうか。

 自分に問いかける。

 誰も助けれなかった。

 好きな相手も死んだ。

 これから何をすればいいのだろうか。

 

 テレサを抱えて、立ち上がる。

 そして、ギルドに向かって歩きだす。

 最期にアイツの憧れたギルドを見せてあげたかった。


  

 

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