第14話 シグマとテレサ(その5)
「ゴホッ、ゴホゴホッ」
襟が俺の首を解放していく。
「ゴホッゴホッゴホッ」
うつむいたまま咳き込む。
窒息死するかと思うくらいしんどい。
キンキンキンッ!
激しい金属のぶつかり合いが聞こえる。
「「「おおーっ!」」」
冒険者三人が咳き込む俺には目もくれず、ルリカの戦闘を
コイツらあ! 誰のせいでこんなに苦しんでると思ってんだ!
こみ上げてくる怒りを抑えながら、呼吸を整える。
「ふー」
だいぶ落ち着いた。
さて、とりあえずバトルマスターのお手並みでも拝見するか。ていうかバトルマスターならそろそろ決着つきそうだし。
そう思いながら顔を上げる。
「――っ!」
ルリカと戦闘を繰り広げるモンスターの姿に思わず目を見開く。
ルリカと同じくらいの身長で、体型は人型。
まるで人間同士が戦っているようにも見える。
だが、クモのように長い両手と尻に生えたトカゲのような
そして、ヘビのような顔が目の前のソレが人でないのを証明している。
だが、目の前のモンスターは、巧みに武器を振り回していた。
そして、
その動きに見覚えがあった。
その武器に見覚えがあった。
目の前のモンスターは知らない奴だ。
だが、
その
その金色に輝く槍を俺は知っている。
目の前の
「嘘だろ……」
驚きの声が自然と漏れた。
何かの悪い冗談。
アレを同一人物とは思いたくない。
だが、ルリカの紅と蒼の双剣を槍一本で
そして、ルリカの僅かな隙を見逃さず反撃へと転じる。
その動きは、戦闘のなかでキレを増していく。
バトルマスターと互角。
いや、それ以上になろうとしている。
そんな奴を俺はひとりしか知らない。
槍を捌く
「――くっ!」
ルリカが防御へと徹する。
それしか、できなかった。
攻撃に転じた瞬間、奴の槍がルリカの身体を貫くだろう。
一瞬の隙で命を落とす。
これは、冷酷で怖ろしい命のやり取り。
「「「「なっ!」」」」
その戦いの
この状況で、ルリカはニヤリと口もとを歪ませた。
「へへんっ。いいぜ! こういう展開は好きなんだ」
ルリカがそう叫んだ瞬間、
シュバッ! シュンッ!
二本の剣をモンスターへと繰り出した。
紅と蒼の得物がモンスターを襲う。
「ばっ、今攻撃したら――」
俺が、そう言いかけたときには、ルリカの攻撃速度を上回る必殺の一撃がモンスターから放たれる。
勝敗は完全に決していた。
奴は死ぬ。そう思った瞬間――
「限定解除! 『リミッター解除80%トォォォォォッッッ!』」
ザン! ザンッ!
「――!」
ルリカの剣撃が消失する。
いや、気づいたときには、既に剣撃を与えた後だった。
「へっ、切り札ってのはピンチに使うもんさ」
ルリカが余裕の笑みを見せた瞬間、
ズグシュッ!
「――えっ……」
「「「「……ぁぁぁぁっ」」」」
ルリカの腹部を槍が貫く。
モンスターは無傷のまま、ルリカの身体を槍で突き刺していた。
「がっ……ふっ、はっっ」
口から血が溢れだす。
カランッ。カンッ。
二刀の得物が力なく地面へ落ちていく。
「はな……っせ」
その言葉を、呼吸よりも優先して口にする。
「っ、このバケっ……モノ、やろうが」
ピクッ。
その瞬間、勢いよく槍が抜かれる。
「ぐうっっっ……うっ」
ドサッ。
ルリカの身体が地面へと倒れる。
「いっ……ったい。たい……だれかあ、だれかあ」
そして、激痛に苦しみながら
「たすけ……て、いやだ、いやだ……しに……かはっ、しにたっくないっ、にたくない……」
「「「「くっ……」」」」
俺たちは、その光景に目を覆った。
最悪の光景だった。
そして、四人とも恐怖にかられた。
そんな俺たちをモンスターは、見逃さない。
足元のルリカには興味がなくなったかのように、こっちへ歩いてくる。
「やばいっ! こっちへ来るぞ!」
冒険者のなかで一番地味な男がそう叫んで慌てて走った。
「バカッ、そんな急に動いたら――」
その瞬間、モンスターの姿が消失する。
そして、風が吹いたかと思うと、俺たちの隣にモンスターが立っていた。
「「「……あっ、あああああ」」」
手には、さっき逃げようとした男の首が握られていた。
とんでもない移動速度。
それは、俺たちの勝機が微塵もないことを報せるには、充分過ぎる行為だった。
「あああっ……オットぉ……」
大柄の男が、斧を握りしめる。
「よくも……よくもっ、オットおおおおお!」
大柄の男が斧を振り上げる。
そして、目の前のモンスターへ飛びかかった。
「よせっっっ!」
思わず叫んだ。
だが、アイツは助からない。
そう思った瞬間、とんでもないものを目にした。
「――っ!」
その光景に呼吸が止まる。
立ち向かってくる男を返り討ちにしようと、槍を構えるモンスターの後方。
腹に穴をあけた血だらけの女が、両手の剣を振り上げていた。
「……限定解除『リミッター解除……120%(フルパワー)』」
その瞬間、モンスターは後方に迫りくる会心の一撃に気づく。
だが、
「フルパワーになったら私は死ぬ。……だけど、お前に勝てるっ!」
その瞬間、両手に握る剣を振り下ろした。
「私と共に死ねっ! 『
ザッ! ザンッッッ!
勢いよく血しぶきが舞う。
モンスターが仕掛けるよりも先に、ルリカの剣撃が直撃した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます