第13話 シグマとテレサ(その4)
初級ダンジョン。草原。
「クソッ! 来やがれっスライム野郎!」
「くらえ、俺のアックスブレードオオオオ!」
「私に痺れなさい! 魅惑のアロー!」
「ぴぎいいいっ!」
スライムの悲鳴で目を覚ます。
「ふわあああっ」
大きなあくびとともに起き上がる。
まだ、眠いなぁ。
そんなことを思いながら布団を片づける。
さあ、帰り
「おい、待てよ!」
その声に動きが止まる。
振り返ると、スライムを倒した三人が俺を睨んでいた。
「なに? なんか用? ふわあああ」
「「「――んなっ」」」
三人が驚きの声をあげる。
うっせえな。なんで驚いてんだよ。
「てめぇ、ナメてんのか!? ああっ!」
「……?」
三人のなかで、一番大柄。斧使いの男が声をあらげる。
「うっせえなー」
耳を塞ぎ、大柄の男を睨む。
「モンスターも倒さずダンジョンで寝やがって! やる気ないなら帰れっ!」
「そうよ! ジャマなのよ!」
「モンスターを倒して平和にするのが俺たちの仕事だろうがカス野郎!」
激情にかられた冒険者たちが
はぁ、冒険者もめんどくせえな。
アイツの手がかりもなかったし、辞めちまうか。
俺は、怒りに狂った冒険者たちを前にして、初クエストで引退を決意していたりする。
「だいたいねえ、最近のガキはクエストなめてんのよ! モンスター倒さないな――」
ドドドドドッ!
そのとき不意に聞こえる地響きが、冒険者たちの怒りを鎮める。
「なっ、なによこの音」
俺たちは、音のするほうを探す。
「なっ!」
モンスターがこちらへ向かってくる。
それも一体ではない。
スライム。ゴブリン。ウォーウルフ。人食いトカゲ。走る宝箱……じゃなかったミミック。巨大キノコ。
この草原に生息する多種多様なモンスターの群れが、俺たちを襲う。
「や、やばいっ! こっちへ来る。早く逃げないと」
冒険者たちが、モンスターの群れに慌てふためく姿を見て笑いをこらえる。
「クククッ……モンスターを倒すのが仕事じゃなかったのかよ」
散々言われたお返しとばかりに皮肉を口にする。
「「「うるせーな! こういう異常事態は災害と一緒で逃げるのが
冒険者三人が口を揃えて反論した瞬間、
「わかってないわね、アンタたち! こういうときこそボーナスタイムなのよ!」
不意に、後方から第三者の反論が聞こえた。
「なんだとっ!」
「なによっ!」
「誰だああっ!」
冒険者三人のボルテージがMAXまで上がる。
振り返ると、そこには紫の髪の女が立っていた。
両手に剣を持ち、動きやすそうな軽装。
そして、体中のいたるところに絆創膏を貼っていた。
なんだ……このわんぱく少年みたいな女は?
俺が首を傾げた瞬間、
「「「あっ! ルリカさん」」」
冒険者三人が驚きの声をあげる。
「……だれ?」
「「「はあっ!」」」
俺の疑問に冒険者三人は、またしても驚きの声をあげた。
「ルリカさんだぞ。あのルリカさん」
大柄の男が興奮しながら近づいてくる。
うげー。キモいから
「だから、誰だよ」
片手で男の身体を押さえて、冷たく返答する。
「これだからヤル気のない冒険者は嫌になるぜ。ルリカさんは上級職のバトルマスターだぞ」
冒険者三人のなかで一番地味な奴がわかりやすく解説してくれる。
俺への嫌味を混ぜながら。
「へー、そんなすごい人がなんでこんなとこに(棒読み)」
俺は、愛想笑いをしながらルリカに尋ねた。
「はっはっはー。よせやい。そんなに褒めても何も出ないぞ少年」
豪快に笑いながら、ルリカは俺の背中を叩いた。
「いつっ、いってえよ。てか、全然褒めてねえし」
「ありっ、そうなの?」
コイツ
「で? なんで今さら初級クエストにいんの? アンタあれのこと何か知ってんの?」
「「「てめぇ、ルリカさんにタメ口聞いてんじゃねえよ!」」」
ルリカに尋ねた瞬間、冒険者三人が喚き立てる。
俺は、慌てて耳を塞いだ。
あー、もううるせーな!
「フフッ。元気いいねえキミたち。いやー、若いって素晴らしい」
ルリカは、耳を塞ぎながら笑った。
「いや、最近初級ダンジョンに見たこともないモンスターが出没するって聞いてね。未知のモンスターと聞いたら、こりゃもう戦うしかないって感じでさあ」
ルリカは、愉しそうにここへ来た理由を語った。
「ふーん。それで、新種とあのモンスターの群れが何か関係あんの?」
俺の問いに、ルリカはニヤリと口もとを歪ませた。
「初級のモンスターは、皆臆病だからねえ。とんでもなくデカいマナが現れたら怖くて逃げ出すんだよ」
そう言ってルリカは、モンスターの群れを指差す。
「ほらっ、洞窟にしか生息しないミミックが一緒になって逃げてるんだよ。そんなのここら一帯が危険だって感じた証拠じゃないか」
そう言って彼女は、唇をペロリと舐めた。
まるで、ごちそうを前にした子供のようにウズウズとしている。
「キミたちは、なんでギルドに入ったの?」
不意にルリカが俺たちに尋ねてくる。
「はい。キミから」
そう言ってルリカは俺を指差した。
「……人探し」
俺は、めんどくさそうにボソッと答えた。
「ふーん。はい、キミ」
次に、その隣にいる大柄の男を指差す。
「おっ、俺はルリカさんみたいな――」
男がそう言いかけた瞬間、
「私はねえ、自分より強い奴と戦いたいからギルドに入ったの」
ルリカが満面の笑みでそんなことを口にした。
ていうか、コイツ人の話興味ないなら聞くなよ。
「さあ、奴らもだいぶこっちまで逃げて来たし、後方で彼らを追いかける新種と戦うとするかあ」
そう言ってルリカは、身を低く構える。
そして、
「よーい、ドンッ!」
自分で言って、勢いよくモンスターの群れへ突っ込んだ。
さて、変なのもどっか行ったし俺も帰るか――
「お前も来いっ! ルリカさんの戦いを見せて、その腐った根性を叩き直してやる」
「ぐえっ!」
冒険者三人が服の襟を掴んで俺をズリズリと引っ張る。
「バカッ! やめろよ! 服伸びるだろ! これしかねえんだぞ俺」
そんなのお構いなしで、こいつらは俺を新種の元へと連行した。
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