第10話 シグマとテレサ(その1)
六年前。
アネストラ。救済室。
「うっうあああああああ!」
物心ついたときから聞こえる
毎日毎日、繰り返される狂気。
飽きずによくやれるものだと、あくびをする。
ぐぅー。
腹が何かよこせと訴える。
「メシ食うか」
ポケットから四本のソーセージを取り出す。
「あああああああ!」
ガブッ。
うん。ソーセージは、やっぱりうまいな。
目の前で拘束された男を見ながら、ソーセージを食べる。
男は、バタバタと暴れまわるが両手両足を拘束されていて、まったく動けてない。
ただ疲れるだけなのに、なんであんな無駄なことをするのだろう。
救済のときは、みんな決まってああする。
わけがわからない。
「あああああああ! っだあああああ!」
男の腹がぱっくり開く。
とめどなく鮮血が溢れだす。
そして、宝石のようにキレイなものがこちらを覗いた。
「あっ」
思わず二本目のソーセージを落としてしまう。
もったいない。
だが、目の前のソレに見惚れてソーセージを拾えない。
「ああ、素敵。これこそが救済。おめでとう。やっとあなたは救われるわ」
俺の隣で、ロズルはうっとりとしていた。
「ロズル。あの宝石はどうすんの?」
俺の問いかけにロズルはニタリと笑う。
「こんなに美しいのよ。彼にも見せてあげないと」
ロズルはそう言って男の腹に手を突っ込んだ。
「――ああああああああああああああ!」
鼓膜に響き渡る悲鳴。
耳障りで
思わず耳を塞ぐ。
ズリュッ!
鮮やかな中身が引きずり出される。
「おおおおっ!」
その美しさに興奮する。
ああっ、なんであんなうるさい奴からこんなに美しいものが姿を現すのだろうか。
「なあ、ソレくれよ」
ロズルにお願いする。
どうしてもこの宝石を見せたい奴がいた。
そいつと一緒にこの気持ちを共感したかった。
「あら、シグマ。どうして宝石が必要なの? もしかして誰かにプレゼントしたいのかしら」
ロズルは、イジワルな笑みを浮かべる。
「そっ、そんなんじゃねえよ!」
俺は頬を赤く染めて、ロズルから目をそらした。
うーむ。プレゼントか。
そんな発想はなかった。
そっか。こんなにキレイなんだ。
プレゼントしたらきっと喜んでくれる。
って、ますます欲しくなったぞ。おいっ!
「スキありっ!」
そう言ってロズルの手にある宝石を奪おうと手を伸ばす。
「ダーメ」
ロズルは宝石を頭上へと持ち上げる。
頭上から鮮血がポタポタと滴る。
「あー、テメェ。俺がチビだからって、ずりいぞ!」
宝石に向かってジャンプする。
「くそっ! このっ、クソババア! ナメやがって!」
ダメだ! 全然届かねえ。
クソッ! 見てろよ。来年にはお前より高くなってるからなっ。
「そんなに焦らなくても今度あげるわよ」
「チッ」
ロズルに聞こえるように舌打ちをする。
「クソババア!」
そう吐き捨てて救済室をあとにした。
三本目のソーセージを食べながら、とある部屋のドアを開ける。
ガチャッ。
「よう元気か」
「また、ソーセージ?」
ドアの向こう側には、
金髪ツインテール。
髪に不釣り合いなボロボロのシャツとスカート。
テレサは、超貧乏で先週ここにきた。
「チッ。わりいかよ!」
目の前のクソガキを睨む。
と、いっても俺よりふたつ年上なんだが、コイツが年上とかなんかムカつくからクソガキと呼んでおく。
「よく飽きないねえ」
クソガキは、そう言って俺の手にある最後のソーセージを奪った。
「ちょっ! おいっ!」
そして、パクッとひとくちで食いやがった。
ていうか、食い方が気色悪い。
口の中でグチョグチョ音立てやがって。
ていうかクソガキメエエエ!
「いちゃもんつけたんだから食うなよ!」
俺が怒鳴った瞬間――
グルウウウッ。
「なっ、なんだ!」
猛獣のようにグルグル音がする。
いつ襲われても対処できるように身構える。
すると、目の前のテレサが頬を赤く染めてうつむいた。
ゆっくりと音のするほうへ近づく。
「ここか」
そう言ってテレサの腹に耳を当てた。
俺が音の正体を突き止めた瞬間、
「いやぁーっっっ!」
「おわっ、バカッ! そんないきなり暴れたら――」
ドシーンッ!
「どうしたのテレサッ!」
バターンッ!
勢いよくドアが開け放たれる。
「いっ……つつ」
身体を起こす。
いや、起こせない。
テレサが俺の上で倒れてやがる。
クソッ! 重いし……手はコイツの身体の下敷き――
なんだ?
この柔らかい感触……?
ゆっくりと手を動かす――
「アンッ!」
「うおっ!」
その瞬間、俺の上でテレサがビクッと起き上がった。
「変な声だすなよ。きしょくわ――」
「死ねえええ!」
「――ぐほっ!」
俺の顔面を右ストレートが直撃した。
いってええええええ!
「うううっ……」
床に頭を打ちつけて薄れゆく意識のなか、ドアの側でクソババアがニタニタと笑ってやがった。
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