第8話 アネストラ
デリオン邸。書斎。
「幹部のフラテルの
コードE。
俺たちのリーダー、デリオン。
短髪。あごヒゲを生やしていて、とても鋭い目つきをしている。
はっきりいって
そんな彼が笑いながら、一枚の書類を俺に手渡す。
任務遂行した際は、必ず報酬金額の記された書類が渡される。
今回は、いきなり入ってきた仕事で詳しい報酬金額を聞いていなかった。
昨日の殺しの報酬を今、この瞬間知ることになる。
ただ、今回は組織内の裏切り者の
金になるような仕事には思えない。
よくて、数百万が相場だろ。
そう思いながら書類へと目を通す。
「……っ!」
驚いてゼロの数を何度も数える。
一、十、百、千、万、十万、百万、千万。
「い……一千万」
予想を遥かに超えていた。
「なっ、なんで組織の裏切り者四人にこんな金額が!?」
書類に記された数字を指差して、デリオンに見せる。
何かの間違いではないか……。
「ああ、そのことだが。奴ら、かなりの売上金と
デリオンは、そう言ってタバコに火をつけると、
「フラテルの得意先のルートから
とんでもないことを口にした。
「――は、えっ!」
言っている意味がわからない。
脳みそが言葉の意味を理解できないでいる。
「えっ、あの……薬を捌かないのが組織の
「そう言っとけば、薬で儲けた奴のすべてを奪えるだろ」
俺の言葉を遮るように悪魔のような答えが返ってくる。
「っ……そんな……そんなの酷すぎる」
コードBの連中は、
だから、奴らを裁くのも納得できた。
だが、幹部を裁くのは……いったい誰がするのだろうか。
「とにかく、その一千万はお前のもんだ。お前、三億。必要なんだろ」
これ以上詮索はするなと、デリオンの鋭い目が訴える。
ぐっ、気持ちを抑える。
俺が追求したところで、どうにかできる問題ではなかった。
それよりもエロヴィスのために金を集める。
俺はそれだけを考えようと誓ったはずだ。
「いつものように、この金はボスに渡していいんだな?」
デリオンの言葉に頷く。
「よし。これで、あと二億四千万だ」
デリオンはそう言ってタバコの火を消すと、俺に笑顔を見せた。
「それで、昨日の件でフラテルがお前のことを気に入ってな。また、仕事を頼みたいらしい」
俺は、その言葉に困惑する。
そんな奴に気に入られたくなかった。
思わず顔が引きつる。
「……また、薬ですか?」
「いや、今回は安全なヤマだ」
その言葉に安心する。
全身の力が抜けていくのがわかる。
「お前、宗教団体アネストラって知ってるか?」
「――!」
名前は知らない。
名前は知らないが宗教団体はヤバい。
安全と言われた三秒後、安全でないのが判明してしまった。
「それ、安全じゃない――」
「大丈夫だ。中にいる連中と適当にウンウンいうだけだ。あと、お前の変身能力。あれを宗教のおかげにする」
思いっきり詐欺だが、たったそれだけ? とか思ってしまう自分が嫌だ。
完全に感覚がおかしくなっている。
「それだけですか?」
「それだけだ」
デリオンは、きっぱりと言い切った。
「報酬は、一ヶ月働いて三百万。向こうで寝泊まりしてもらう。石像の管理はいつもどおりシグマにやらせる。安心しろ」
デリオンの言葉に頷く。
殺しのない仕事なんて久しぶりだ。
ヤバいヤマには変わりないが、久しぶりに殺し以外の仕事をしたかった。
「よし。じゃあ頼んだぞ」
「はい」
「あああああああああああっ!」
アネストラ。教祖の間。
「きみがサクトくんね。私はアネストラの教祖、ロズル。話しはフラテルさんから聞いてるわ。これからよろしくね」
茶髪でロングヘアーの女性。
歳は俺と同じくらいか少し下だろう。
黒いローブに身を包むその姿は、気品があって清楚な雰囲気を感じる。
……だが、今は教祖に聞きたいことがあった。
「あの、さっきから聞こえてくるこの――」
「っぎぃあああああああっ!」
俺の言葉を遮るように、またしても叫び声が聞こえてくる。
いったいどこで、何をしているのか。
「ああ、これ? 今、救済の最中なのよ。さっそくだけど参加してみる?」
「……きゅう、さい」
その単語をポツリと繰り返す。
「いあああああああっ!」
ロズルはさっきから聞こえてくる叫びが、救済だと言う。
これが……。いったい誰を助けているというのか。
「こちらへどうぞ」
そう言われ、ロズルの後に続く。
長い郎化にはいくつもの部屋があって、うめき声や話し声が聞こえてくる。
それらに耐えながら歩いていく。
「ねぇ、もし目の前に救いを求める人がいたらどうする?」
突然のロズルの問いに困惑する。
……なんて答えたら正解だ?
「……助けると思います。たぶん」
俺のテキトウな答えにロズルの足が止まる。
っ! ミスったか……。
「なんで助けるの?」
ロズルが前を向いたまま追求する。
っ、なんで。
そんなこと急にいわれてもわかんねえよ。
それでも考える。
そして、無言のまま時間だけが過ぎていく。
俺は、この空気に耐えれず、
「……すいません。わからないです」
そう言って彼女から目をそらした。
俺には、こういうの向いてない。
そう思ったとき――
「そのとおり」
ロズルが満面の笑みでこちらに振り返る。
「えっ!」
思いもよらぬ反応に驚く。
「人を助ける明確な理由なんてわからない。まったく知らない赤の他人でも、救いを求めていることを知ったら助けたくなる」
彼女は、そう言って俺に右手を差し出してくる。
「その気持ちに強弱の違いはあるけど、人は助けること。助けられることを常に求めているの」
彼女の言葉にテキトウに頷き、握手を求めるその手を握る。
その瞬間、彼女の口がニヤリと嗤う。
「っな!」
「限定解除! 『魂の
彼女の肩が光る。
ヤバい。
コイツも変な能力の使い手かよ。
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