第4話 一歳になりました
さて。
俺は成長を少しずつしていった。
こうやって感じると、赤ん坊の成長速度は凄まじい。できないことができるようになる、という考え方でではあるが。
俺は一年歳をとり、一歳になった。
この頃になって、ようやっと自力で歩き出せるようになった。立つために必要な筋肉自体が、ようやっと着いてきたことが理由だ。
もっとも、立ち方やバランスの取り方は、前世の感覚頼りのため、立ち上がってからは歩けるようになるまで、そう時間はかからなかった。
だが、所詮は一歳児。言語など話そうものなら、すぐに違和感を感じ取るだろう。ただでさえ、歩き出すまでの時間が早いことに違和感を感じていた様子の両親だ。
加えて参ったのは、まだ言語を理解していないと思っている両親が漏らした一言だ。
「この子の歩き方、大人とよく似てる」
「ええ。ようやっと歩き出し始めたばかりで、何故でしょう?」
この二人は、噂に聞く話だと相当な腕前を持っているらしい。そういう人間から見れば、俺の運動の違和感に感づくのもあり得るのだろう。
勿論、噂もメイドたちの会話から盗み聞いた話だ。
だが光陰矢の如しとはよく言ったもので、噂は常に拡散していくものだ。えてして彼女たちの噂話は、身の回りの状況を理解するのにはとても都合がいい。
たかが噂、と侮ってはいけない。どこか遠くの、伝え聞いた話なら、どこかで認識の齟齬等が混じって別物になっていても不思議ではない。だが屋敷内の話は、彼女たちの職場だけあって事実がねじ曲がりにくい。
情報は新しさに尽きる。これは常識だ。
最近耳にする話は、このエインフェルトの家が、公爵家の中で羽振りが悪いという話ばかりだ。
聞く話から類推できることはいくつかある。例えば俺が生まれた家がエインフェルト公爵家である、ということ。そして、公爵の爵位を持つ家は複数存在すること。そしてその公爵家たちは、互いに何かの功績を競い合っているということ。
まあ、お家柄の事情なんて、俺個人には関係ない。だが新聞というものが存在する日本の社会が示すように、社会情勢は知っておいて困ることはない。頭の片隅にでも残しておこう。
そんなある日のこと。
母のリナリー・エインフェルトは、寝起きの俺に向けて、不思議なことを口にした。
「ねえアルーゼ? 面白いものを見せてあげるから、こっちにおいで?」
面白いものという言葉に興味をつられた俺は、少し拙く歩くことも忘れ、母さんの元へ歩き寄った。
だが今回は、少し興奮していたので、まだ完全に完成していない一歳児の体が、ギリギリ拙さを残して動いていた。
俺はあの時の言葉を聞いてから、少し拙さを残しながら歩くようにしているのだ。
まだ言語を使ってはまずいので、「あうあぅ?」と言った喃語だけで誤魔化している。中身は大の大人なので、俺個人としてはなんだか違和感は残るのだが。
母さんは歩み寄った俺の体を抱き上げながら、立ち上がり、部屋を後にする。
「う、あぅ?」
これだけで「何をするの?」というメッセージを送るのは難しいと思ったが、意外にも母さんは理解したらしい。
俺を見て微笑むと、頭を撫でながら、凄いことを口にした。
「今からアルーゼに、魔法を見せてあげる」
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