その9

 とある森の中、ある寒い日。

 それはもう、ひと目で身も凍えそうな氷点下の泉にて。


「とうりゃあっ!!」

「うおっ! 氷を突き破ってくるとは思わんかった」

「なんのこれしき、女神パワーで粉々ですわよ」

「そうわよか。たくましくなったなあ」

「料理と掃除で鍛えられましたからねえ。腕がちょっと太くなっちゃった」

「健康的でいいと思うよ。よくそんな薄着で寒くないなあと思うけど」

「寒いですよ。ほらここ、鳥肌」

「ダメじゃん! ちゃんと冬らしい格好しとけよ!」

「これ一着しかなくて」

「……毛皮の上着、持ってきてやる。隣の爺さんが新しいの作ってた」

「毛皮ですか。暖かそうですね」

「おう。あの番犬、革になっても温いんだ。さすが地獄出身」

「あれ狩っちゃったんだ」

「そりゃまあ、放置は出来ねえからな。それより今日の分の斧、ほれ。二本作ってきた」

「ありがとう。これでえーっと、残り四千八百九十二本かな」

「先はなげえなあ」

「ですねえ……えへへ」

「なんだよ、含み笑いなんてして」

「じゃじゃーん!」

「おお、今日は豪勢だなあ。この丸いのは何て料理だ?」

「ぴざって言うらしいです。お友達に作ってもらいました。味は保証付きだとか」

「なんだ、お手製じゃないのか。アンタは食べたのか?」

「ごめんなさい、味見もしてなくて……。でも、料理の女神謹製だから絶対美味しいはず!」

「いや、謝んなって。たまにはプロの料理もいいもんだ。そんでさ、こういうのはさ……」

「どうしました? 冷めますよ」

「どうせだし、一緒に食おうや」

「はいっ!」


 とある森の中、冬の泉を前にして、一人と一柱が昼飯をつつき合う。

 彼らが出会って、ちょうど百日が経った昼のことだった。

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