その6

 とある森の中、三日後の濁った泉。

 それはもう、ひと目で重労働だったと分かる疲れ具合。


「私が落としたのは油汚れですか? それとも、黒カビですか?」

「知らん。そんで、金斧は見つかったのかよ」

「あなたは知らないのです。女神の泉の深淵さを」

「小まめに掃除しないからだろ。毎日やってりゃ、カビも生えんだろうに」

「底を抜けて、さらに下へ落ちたのかもしれません」

「えっ、どういうこと?」

「泉の中は神界です。汚くても神界なんです。廃品回収場みたいですけども」

「ぶっちゃけやがったな。んで、神界だったらどうなんだ」

「神界は三層に分かれています。高潔な天界、わりと汚い地上界、そして混沌の闇である冥界。どうも、泉の汚さは限度を超えていたようで……」

「おいおい、よしてくれ」

「汚れが極まって、底が冥界に通じてしまっていたみたい。てへ」

「真顔でテヘペロるな。なんちゅう女神だ、つうか泉だ。それじゃ地獄の釜じゃんか」

「掃除したおかげで、もう蓋は閉じました。ご安心ください」

「隣の爺さん、首が二つある犬に追いかけられたって言ってたぞ。お前のせいか!」

「この森は清潔ですので、地獄の番犬も長生きは出来ないでしょう」

「しれっと言ってるけど、とんでもない自白だしな、それ。アンタもう魔王だろ。村が魔界にされちまう」

「魔王も元は女神だと聞いています」

「知りたくなかったわ、そんなトリビア……」

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