その3

 とある森の中、ある日の泉。

 それはもう、ひと目で女神と分かる若々しさ。


「あなたが落としたのは金の斧ですか? それとも、銀の斧ですか?」

「鉄ですよ。握りの端に、紐付いてるでしょ?」

「あなたは慎重派ですね」

「呼び出すのに投げ込んだんですよ。上手く釣れてくれてよかった」

「釣りなら川の方がいいですね。泉に魚はいませんので」

「斧で釣れるのは女神くらいでしょう。それより金の斧、返してください」

「物に執着するのは、あまり感心しませんね。形ある物はいずれ消える、無きを在ると知りなさ――」

「宗派違うよね? どんだけ欲しいんだよ、ゴールド。いっぱい持ってるくせに」

「……持ってません」

「は? 前に見せてくれたじゃん、金の斧。くれなかったけど」

「落としました」

「どこで?」

「ここで。いくら探してもなくて……これじゃ見せ斧が用意出来ないし……」

「見せ斧なんだ。ご褒美じゃないのな」

「そしたら、親切な人が代わりを寄越してくれたから……」

「パクった、と」

「借りました」

「いつ返してくれるの?」

「時は永劫に輪廻し果てること無し。生命は転生を繰り返す車輪の如し――」

「だから何教だよ、あんた!」

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