第46羽 「シスル」と「リン」②

 シスルは、とても優しい青年だった。

 森の皆ともすぐに打ち解けて、楽しい毎日を送っていた。

 森の中はとても平穏で……けれど、時々騒がしくなることがあった。

 それは、森の中に逃げ込んでくる人が、私達の他にもいたから。


 シスルの次に森にやってきたのは、私よりも少し年上に見える女の人だった。

 森の中で食糧を集めていた時、森の中をずっと走り回っていたという彼女と遭遇した。

 混乱していた彼女を落ち着かせて何とか話を聞けば、命からがら逃げてきて、辿り着いたのがここだったようだった。

 彼女は他の人よりも長命で老化が遅いらしい。

 それが他の住民達にバレる前に住んでいた土地を離れるということを繰り返し、彼女は各地を転々としていた。

 だが、とある村にいた時に居心地が良くて、つい長居をしてしまった。

 そしてある時、遂に彼女の隠し事がバレてしまい、仲良くしていた住民達全員に「魔女」と言われて殺されかけ、必死に逃げたのだそうだ。

 シスルの時と同様、彼女もここをすぐ離れると言ったが、私達は引き留めた。

 ここなら他の人間にバレることは無いし、私達は貴女を傷つけたりしないと言って、半ば強引に一緒に暮らすことにした。

 最初は戸惑いを見せていた彼女だったけど、次第に慣れて彼女本来の姿を見せてくれるようになった。

 私をからかってくることもあったけど、料理や掃除、森に生えている植物の使い道などなど様々なことを教えてくれたのも彼女だった。

 世話好きで、でも、人をからかうことも好きなお姉さん。

 それが、彼女――「レイヴン」さんだ。


 彼女の次にやってきたのは、幼い少年だった。

 ボロボロの姿で水辺に倒れていた彼をシスルが見つけ、私に治療を頼んできた。

 幸いにも命に別状はなく、怪我もすぐに治すことが出来た。

 目を覚ました少年に話を聞くと、彼もまた住む場所を追われて逃げてきていた。

 彼は他の子供よりもほんの少しだけ頭が良くて、物事を覚えるのが早かった。

 周りの大人達は彼を褒めて、彼自身ももっと褒めて欲しいと思った。

 だから、彼はもっと勉強をしたら褒めてくれると思い、より一層勉強をした。

 そのおかげで、7歳くらいの時に大人でも難しい少し強い魔法が使えるようになった。

 彼は嬉々としてそれを大人達に披露した。

 こんなに凄いことができる自分のことを、褒めてくれると思ったから。

 しかし、大人達の反応は、彼が望んだものとは真逆だった。

 彼がその魔法を使った瞬間、大人達は悲鳴を上げた。

 彼が見せた魔法は、生物にぶつければ丸焦げになってしまうほど高火力な火の玉を生成するものだった。

 そんな危険な魔法を小さな子供が笑顔で使っているのだ。

 大人達は、殺されるとでも思ったのだろう。

 彼らは皆一斉に、手身近にあった武器になりそうなものを構えた。

 それを、怯えた顔で少年に向ける。

 一方、少年は困惑した。

 褒めて欲しかっただけなのに、何故自分が武器を向けられるのかわからなかった。

 彼が魔法を消しても、大人達は武器を手放そうとしない。

 実の両親ですら、まるで化け物を見ているかのような目を彼に向けていた。

 それに気づいた時、賢い彼は全てを悟った。

 無意識のうちに、彼の足はその場から逃げ出していた。

 着の身着のままで森に入った彼は数日間森の中を彷徨い、満足な食事も休息も取れなかったために倒れてしまったようだ。

 私達の介抱もあって元気になった少年だったけど、人間不信気味になっていた。

 それでも、少しづつ信頼関係を築き、私達に心を開いていってくれた。

 本を読むと勉強をするのが好きで、話し方は少しぶっきらぼうだけど、心根は優しい。

 レイヴンさんに色々と教えてもらっていたようだけど、彼女にからかわれて怒りで顔を真っ赤にしている姿をよく目にしていた。

 彼の名前は「リンカルス」君。

 私と名前が似ていたので勝手に親近感が湧いてしまい、凄く可愛がっていた。


 二人と出会って、毎日がとても賑やかになった。

 誰にも受け入れてもらえなかったけれど、ここでは皆が私を受け入れてくれるし、私も皆が大好きだった。

 ここでひっそりと、皆と暮らすことができれば、私はそれで充分だった。

 でも……思えば、この時既に、シスルは私と違う考えを持っていたのかもしれない。


 それに気づけないまま、私達の平穏な生活は突然終わりを告げた。

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