第40羽 変わっていても変わらない
転移した先の部屋を出て、別の部屋に移動する。
部屋を出る前にヘビ(?)が外の様子を確認してくれたけど、誰もいないようだった。
一緒に塔に入った警察の人達とすら、まだ会えていない。
彼らもどこか別の場所に飛ばされたのだろうか。
それとも、この塔のどこかにいるのかな。
もしこの塔に先生やマリアちゃんだけじゃなくて、先生の協力者がいたとしたら、一緒に入った人達の身も危ない。
皆さん、無事でいると良いのだけど……。
「……姫さんは心配性だな。赤の他人なんか気にする必要ないのに」
「チュン(他人だからこそ心配なんです)」
マリアちゃんを助けるために協力していただけたのに、彼らも危険に晒してしまったと思うと心が痛くなる。
それが彼らの仕事だとしても、やっぱり辛い。
「……姫さんは優しすぎるな」
ヘビ(?)はそう呟くと、それっきり黙ってしまった。
私も一言も喋らず、彼の後をついて行く。
次の部屋でも同じように転移の魔法陣を発動してもらい、また更に上の階へと上がる。
この転移で一体どの階まで上がったんだろう?
窓があれば大体の高さから予測できたかもしれないけど、この塔に窓はない。
そもそも、窓があったら飛んで外から侵入してる……いや、窓ガラスぶち破らなきゃいけないからダメか。
ともかく、どこかの階に着いた私達は、部屋に空いた穴から外に出ようとした。
「――しっ!」
ヘビ(?)が急に動きを止めた。
「チュン?(どうしたんですか?)」
「外で音がする」
そう言われ、私は耳を澄ませる。
――カツ、カツ。カツ、カツ。
複数の人が廊下を歩く靴音が、部屋の外から聞こえてきていた。
「ここでやり過ごしたいところだが、時間が無い。魔法で気配を消して進むぞ」
少し不安だったけど、私は意を決してヘビ(?)についていく。
部屋の外に出ると、すぐにフードを被った人達を発見した。
「侵入者はいたか?」
「いや、いない。どうやら入口の罠に上手く引っかかってくれたようだ」
「てことは、上の階の連中は戦ってるのか。持ち場がここで良かったよ」
「そうも言ってられないだろ。あの魔法陣には特定の奴以外に座標が設定されていないから、この近くに転移してる奴もいるかもしれない」
「はは、そうだとしてもバラバラに飛ばされてるはずだから、侵入してくるにしても一人か二人でだろう。そのくらいの人数なら俺達だけでやれるさ」
「で、でもよ……」
「相変わらず臆病な奴だな。侵入者は来てないんだから大丈夫だって!」
そんな会話をしているフードの人達の横を通り、目的の部屋に入る。
気づかれなくて良かったけど、見回り役の人達があんな呑気に会話してるんだったら魔法で気配消してなくても気づかれなかったかもね。
でも、他の人達もこの塔以外の場所に飛ばされてるのか。
座標を設定していないから、どんな場所に飛ばされているのかはわからないみたいだ。
もしかして、さっきヘビ(?)が話していたみたいに、土の中に埋まってしまった人がいるかも……!?
「大丈夫だ。仮に埋まってても今頃あの女が探し当てて救出してるはずだから」
「チュピピ?(あの女って、あのカラスさんのことですか?)」
「ああ。無駄に優秀なあいつのことだから、俺が姫さんを送り届ける前に全員救出してるかもな」
ほ、本当かな?
確かめようが無いから、飛ばされた人達が全員助かっていることを信じて進むしかない。
それからは、同じようなことの繰り返しだった。
部屋で転移の魔法陣を発動してもらい、見回りしている人達の横を気配を消して通り、また別の部屋の魔法陣を発動してもらう。
何度目かの転移をして部屋に着いた直後、ヘビ(?)がこちらを振り返った。
「この階が魔法陣でいける最後の階だ。ここから先は階段を上がっていくしかない」
「チュピ?(ロベル君のいる所まではどのくらいですか?)」
「あと数階上がった場所にいるようだが……そこに行くまでがちょっと面倒くさいかもな」
「チュン?(どういうことですか?)」
「上の階で誰かが戦闘してる。王子様では無いようだけど、多分姫さんのお仲間だと思うぜ」
ロベル君の他にもこの塔の中に飛ばされた人がいたということなのだろう。
バラバラに飛ばされていると言っていたから、もしかすると一人で戦っているかもしれない。
「……上で戦ってる奴を助けたら、王子様のとこに行くのが遅くなるぞ。姫さんはそれでいいのか?」
ヘビ(?)が怪訝そうにそう聞いてきた。
私だって、ロベル君の所に早く行ってあげたい。
だからといって、一人で戦っている人を放っておけない。
せめて、その人を連れて逃げることはできないかな?
「まあ、できなくはない。だが、向こうがどれだけの戦力を持っているのかわからない。助けるために突っ込むのは得策じゃないな」
「チュン……(でも……)」
私達だけ安全に移動して上で戦っている誰かを見殺しにするなんて、私にはできない。
そんなことをしたら、きっと一生後悔する。
「チュピ?(どうしても助けられませんか?)」
私はヘビ(?)の目をじっと見つめた。
彼はしばらく見つめ返してきた後、目を逸らして長いため息をついた。
「……ったく、本当に姫さんは優しすぎる。そこだけは
「チュン?(え?)」
今の言葉はどういう……?
「気にすんな。ただの独り言だ。それより、助けるんだったら早く行くぞ」
ヘビ(?)はスルスルと手すりをつたって上がっていく。
私もパタパタと飛んでその後を追った。
階段を上がると、すぐにその光景が目に飛び込んできた。
「はぁっ!」
フードを被った人達にたった一人で立ち向かう奇抜な髪色の青年。
戦っていたのは、シーボルト君だった。
彼は魔法で自らを回復させながら、手に握る剣を振るっている。
回復のおかげで見た目にはそこまで傷ついていないけど、彼の今の戦法だと魔力が底をついたら終わりだ。
敵の隙をついて彼を連れて逃げられないかと思っていたけど、敵の数が多すぎてそんなことはできそうにない。
どうしよう……このままじゃシーボルト君が死んじゃうかもしれないのに。
「姫さん。俺らが敵の気を散らすから、お仲間と一緒に上に行っててくれ」
「チュピ?(ヘビさんはどうするんですか?)」
「俺はこいつら蹴散らしたら行く」
そう言った直後、ヘビ(?)の身体が輝き出した。
気配を消す魔法を使っていたけれど、その強い光のせいでシーボルト君含むその場にいた人全員がこちらに気づいた。
「な、何だ!?」
「まさか他にも侵入者が……うぐっ!?」
「ザシュッ!」という鈍い音がした後、誰かが倒れる音がした。
眩しさにやられた目をぱちぱちさせると、ヘビ(?)がいた場所にその姿は無く。
代わりに、ヘビっぽい少年が立っていた。
ヘビのようなギョロ目に大きな口からは細長い舌が覗いている。
よく見ると、目元や腕にウロコのようなものが浮かび上がっていた。
え、まさか、さっきのヘビ(?)なの……?
「姫さん、早くそいつ連れて逃げろ!」
その少年はヘビ(?)とよく似た声でそう言いながら、鋭く長い爪でフードを被った人達を切りつけていく。
切りつけられた人は足から崩れ落ち、痺れたように動けなくなっていた。
「ぼさっとすんな! 早く行け!」
私はハッとして、呆然としているシーボルト君に近づいた。
「チュン!(シーボルト君!)」
「え……スズさん? 何でこんな所に」
「チュピ!(いいから逃げるよ!)」
私はシーボルト君についてくるように促して、上り階段の方へ向かう。
「に、逃がすな!」
私達に気づいた数名のフードを被った人達が、こちらに走ってくる。
少年がその人達の行く手をはばもうとするけど、彼の周囲に人が多すぎて動けないようだった。
このままでは追いつかれてしまう。
そう思った時、少年が叫んだ。
「鳥! やっちまえ!」
その声に答えるように、私の後ろをついてきていた小鳥がけたたましく鳴いた。
「ピィー!」
その瞬間、私達とフードを被った人達の間に、巨大な白い毛玉が出現した。
「う、うわぁ!?」
フードを被った人達の何人かはその毛玉の下敷きになってしまったらしく、情けない声を上げている。
「な、何だこの鳥!?」
「一体どこから……てか、邪魔だなこいつ!」
その白い毛玉は、どうやら小鳥が巨大化した姿らしい。
通路にぎゅうぎゅう詰めになるほど巨大化したせいで、私達の方からは白いモフモフした壁にしか見えない。
「ピピピッ!」
まるで早く行けと言っているかのように、白い毛玉――小鳥は鳴いた。
もはや小鳥じゃなくて大鳥だけど。
「所詮は動物、痛めつければ退けるだろ……って、剣が折れたぁ!?」
「ひ、ひぃ! まま、魔法も効かない!?」
「こうなったら、力ずくで退かすぞ!」
白い毛玉の後ろから、そんな声が聞こえてくる。
「な、何ですか、これ?」
突如起こったことに理解が追いついていないのか、シーボルト君が頬を引きつらせている。
「チュピィ……(私にもわからないよ……)」
私はそう言って、首を横に振る。
普通のヘビと鳥じゃないのはわかってたけど、あんなことができるなんて聞いてない。
前もって教えておいて欲しかった。
だけど、今はそんなことを言っている場合じゃない。
「チュン!(行くよ、シーボルト君!)」
「え、ちょっとスズさん!?」
シーボルト君も救い出せたことだし、一刻も早くロベル君の元に向かわなくては!
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