第39羽 救出は謎のヘビと小鳥と共に

 外に出ると、辺りは暗いまま。

 どうやらそこまで時間は経ってなさそう。

 でも、問題はここからどうやって塔まで行くのかということ。

 そもそも、ここはどこなんだろう?


「……よりにもよって、何であの塔なんだ」


 ボソリと、ヘビ(?)がそう呟いたのが聞こえた。

 何か因縁でもありそうな言い方に、気になったものの質問することはできなかった。


「姫さん」


 ヘビ(?)は私の方を見て、そう言った。


「……チュピ?(もしかして、私のこと?)」

「他に誰がいるって言うんだよ」

「チュン(小鳥さんのことを呼んだのかと思いまして)」

「そいつはただの雛鳥だ。名前なんてねーよ」


 面倒見てるようだったのに、名前はないの?

 それは可哀想じゃない?


「そんなことより、姫さんよ。こっちについて来てくれ」


 私は言われるがまま、ヘビ(?)の後ろをついていく。

 そんな私の後ろから、例の白い小鳥も少したどたどしい歩き方でついてくる。

 まるでヒヨコのようにひょこひょことついてくる姿はとても可愛らしい。

 私はぴょんぴょん跳ねながら歩いてるから、上手じゃなくても人間のように歩けている小鳥が少し羨ましい。

 何故かどう頑張っても足を交互に動かせないんだよね。

 中身は人だから歩こうと思えばできると思ってたんだけど、身体が雀だからかな?


 そんなことを思っているうちに、目の前を進んでいたヘビ(?)が動きを止めた。


「この魔法陣の上に乗ってくれ」


 ヘビ(?)が示した方を見ると、地面に埋め込まれている平たい石の上に、魔法陣が描かれていた。


「チュピピ?(これは何の魔法陣ですか?)」

「転移の魔法だよ。座標は西の森の塔のすぐそばになってる」


 何でここにある魔法陣に、そんな場所が座標として設定されているの?

 それを尋ねるより先に、ヘビ(?)が魔法陣の上に乗った。


「さっさと行くぞ。早く乗ってくれ」

「チュ、チュン(は、はい)」


 私は慌てて魔法陣の上に乗る。

 続いて小鳥も乗った直後、魔法陣が輝き出した。


「急な浮遊感を感じるかもしれないが、堪えてくれ。そんなに酷いもんじゃないはずだが、あいにく動かすのが何百年ぶりだからな」

「チュピ?(え?)」


 それって大丈夫なの?

 というか、もしかしてヘビ(?)さんは何百年も生きてるの?

 などと思った時には、既に身体が浮き上がっている感覚がした。

 そして、視界は真っ白になった。




 次に景色が見えた時、目の前には苔むしたボロボロの塔があった。

 さっき、ロベル君達と来た時に見た塔と同じだ。

 何とか無事に塔まで戻ってこれたらしい。


「あー、良かった。揺れも少なかったし、座標のズレもない。あそこまで放置しててここまで完璧なのが逆にムカついてくるぜ……いや、実は手入れしてたのか?」


 最後の方は声が小さくてよく聞こえなかったけど、ヘビ(?)もどうやら無事に着いてホッとしているようだ。


「チュン?(塔の中にはどうやって入るんですか?)」

「入れそうな穴からテキトーに入る」

「チュピ……?(それで大丈夫なんですか……?)」

「入口付近の魔法陣はもう発動してるから通っても大丈夫だ。他に仕掛けがある様子もない」


 中を見てないのにわかるんだ。

 実はこのヘビ(?)、凄く優秀な人だったのかも。

 あ、それともあのカラス(?)が露払いをしておいたって言っていたから、それで塔の中のことも知っていたとか?


「あいつが露払いしたって言ってたのはこの塔に来るまでの道のことだよ」


 あれ、でも転移の魔法陣を使ったから、露払いしても意味はなかったのでは?


「あの露払いってのは俺達のためじゃない。後から来るであろう姫さんの味方が塔にたどり着きやすくするためだよ」


 えっ、そんなことまで考えてくれてたの?

 一応、明け方まで戻らなかったら応援が来るようになっているけど、その話をした覚えはないのに。


「あいつはそういうことまでわかるんだよ。それが死ぬほどムカつくんだけどな」


 ヘビ(?)はチッと舌打ちする。

 何となくわかってたけど、彼はカラス(?)のことが嫌いみたいだ。

 あと、しれっと彼も私の心を読んでいる。

 そういうことができるというのは先に教えておいて欲しいです。


「そんなことより、姫さんは王子様の位置わかるのか?」

「……チュピ(わかりません)」


 入ってすぐにさっきの場所に飛ばされちゃったから、ロベル君がどこに行ったかなんてわからない。


「まあ、そうだよな。でも、多分この塔の上あたりにいるんじゃねーか?」

「チュン?(何故そんなことが言えるんです?)」

「姫さんの王子様の魔力をたどった」


 へぇ、そんなことができるんだ。

 ……ん? ヘビ(?)はロベル君に会ったことがあるの?


「正確には、王子様の中の別の魔力をたどったんだ」

「チュ!?(え!?)」


 まさか、もう「魔王」が暴れ出してる!?


「ちげーよ。封じ込めてても俺はかすかに感じ取れるだけだ。姫さんの王子様はまだ王子様のままだぜ」


 なんだ、良かったぁ。

 でも、ロベル君のことを私の王子様だなんて呼ばれるのは照れちゃうな。

 確かにロベル君は優秀でカッコ良くて優しい王子様みたいな人だけど、「私の」なんてそんなおこがましいことは言えないよ。

 まあ、私もロベル君のことが大好きだし、彼も私のことを大好きなんだけどね!


「……ここで唐突に惚気けるな。ちょうど良さそうな穴があったから、とっとと中入るぞ」


 そう言われ、私はヘビ(?)に続いて穴を通った。

 中は、最初に塔に入った時に見た光景とほぼ同じだった。

 唯一違うのは、床に巨大な魔法陣が描かれていること。


「もう発動しているから魔法陣は問題ないはずだが、どこかで監視されているかもしれない。慎重に行くぞ」


 ヘビ(?)に小声でそう言われ、私は頷く。

 先頭から順に、ヘビ(?)、私、白い小鳥の順番で二階に上る。

 ヘビ(?)は階段の手すりをつたって、私と小鳥はその後ろを飛んでついていった。


「この塔は元々デカい上に魔法を使って空間を拡張してるとこもあるから、外から見るよりも中はもっと広いんだ。だから、そこかしこに転移の魔法陣が設置されている」


 そう言って、ヘビ(?)は二階にある扉の壊れた部屋に入る。

 どうしてそんなことを知っているのだろうと思ったけど、それもやはり聞くことはできなかった。


「この部屋は確かここら辺に……あったあった」


 ヘビ(?)が何も無い部屋の四隅に行くと、突然部屋のど真ん中に魔法陣が浮かび上がった。


「チュッ!?(ひぇ!?)」


 その魔法陣は大きく、私の足元にも浮かび上がっていた。

 慌てて飛び退いた私を見て、ヘビ(?)がクククッと笑う。


「安心しろよ。それはただ触れただけじゃ発動しない」

「チュ、チュン(よ、良かった)」


 もう、驚かせるようなことしないでくださいよ。

 それにしても、何で急に魔法陣が現れたんだろう?


「俺が起動させたんだ。侵入者に利用されないように、予め記録させておいた魔力を持った奴にしか起動できないようになってる。しかも、普通の魔法陣は一度使うと使えなくなるのに対して、この魔法陣は何度でも使える」


 防犯対策バッチリな上に、更に高度な技術が使われている魔法陣なんだ。

 だけど、私はヘビ(?)がどうしてこれを起動できたのかが気になった。

 この塔が元々何なのかはわからないけど、彼はこの塔と何か関わりがあったのだろうか?


「敵も王子様もこれは使えないから、これを使っていけば王子様のとこに着くまでの時間を短縮できるぞ」

「チュンチュピ?(すぐにはロベル君のところに行けないんですか?)」

「それは無理だ。この魔法陣は飛べる部屋が決まっている。着いたらまた別の部屋に魔法陣があるから、そこに移動する必要がある」


 な、何でそんな面倒なことになってるんだろう?


「転移の魔法陣に設定する座標の数を増やすと高い確率で失敗してよくわかんない場所に飛ばされるんだよ。下手すると土の中に飛ばされるかもな」

「チュ!?(怖っ!?)」

「だから、この魔法陣も移動できる先が一つだけなんだ。移動先に魔法陣が無いのは、もし侵入者が何らかの形でこの魔法陣を使うことができたとしても、目的地にすぐにはたどり着かないことで発見される可能性が上がり、結果として被害が最小限に抑えられるように設計したからだそうだ」


 へぇ……そこまで防犯意識が高いということは、以前は偉い人が住んでいたのかな?


「それと、最上階とその下の三階分くらいまでに行ける魔法陣は無い。そこはこの塔の主の居住空間で、おいそれと近づける場所じゃなかったから無いのは当然なんだけどな」


 ということは、この塔には昔、誰かが住んでいたんだ。

 それをどうしてヘビ(?)が知っているのかが謎のままなんだけどね。


「……無駄話をし過ぎたな。魔法陣の上に乗ってくれ。すぐ発動させるから」


 私と小鳥が魔法陣の上に立つと、ヘビ(?)も魔法陣の上に立った。

 すると、私が触れた時には何の反応も示さなかった魔法陣が輝き出す。


 これで次の部屋に行ける、と思った時。

 ふと、こんな謎の多い、ヘビかもわからない存在を信用していいのかという考えが頭をよぎった。

 色々と展開が早くて、カラス(?)も含め彼らが何者なのかを考えることをしてなかったから、少し不安になってきた。

 でも、今のところはちゃんと案内してくれてるし、危害も加えられていない。

 それに、すぐにロベル君の元に行くには彼を頼らざるを得ないだろう。

 いくら飛べるとはいえ、雀の体力にも限界がある。あまり飛ばない私が上の方にたどり着くまで体力が持つとは思えない。

 多少不安でも、彼を信用するしかなさそうだ。


 そう自らを納得させ、私は転移の魔法に身を委ねたのだった。

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