第34羽 最悪の事態は避けられない
「マリアさんがいなくなった……!?」
「は、はい。実は、先程まで本部に行っていたのですが――」
プリムラさんの話を要約するとこんな感じだった。
彼は今日の午前中、マリアちゃんの監視を担っていた人達に再び話を聞こうと本部に行った。
本部は前日の事件で慌ただしい様子ではあったけど、通常業務は行われていたらしい。
マリアちゃんの監視も当然行われているはずで、それに携わっている人達も本部にいるはずだった。
しかし、マリアちゃんの監視を担っていた人達は誰も出勤していなかった。
直接マリアちゃんを監視している人がいないのは当たり前だけど、責任者とか彼女の監視に携わっていた人達全員がいなかったらしい。
プリムラさんは「全員揃ってサボりか」とブチ切れかけたみたいけど、よくよく考えるとおかしいことに気づいた。
いくら昨日自分に指摘されたとはいえ、急に全員休むという、より叱られそうなことをするだろうか?
しかも、昨日起きた事件の犯人が教会内にいるのではないかと捜査されている中で休んだら、自分達が犯人だと疑われるに決まっている。
流石にそれに気づかないほど考え無しではないだろうと思った時に、ふと、プリムラさんは嫌な予感がしたらしい。
彼は他の教会の人と連れ立って、マリアちゃんの家へ向かった。
その時点で家の鍵は開いていて、既に彼女はいなくなっていたらしい。
彼女は親元を離れて生活をしていたから、両親の元に帰ったのかと他の人に連絡を取ってもらったそうだけど、両親のところにもいなかった。
監視役は何をしていたのかと、プリムラさん達はその監視役も探した。
しばらくして、彼らはマリアちゃんの家の裏手で監視役の人が無惨な姿になっているのを発見した。
遺体の状況から他殺であることは明らかだったそうだ。
プリムラさんは「まさか」と思い、監視に携わっていた他の人達も探してもらうことにした。
その結果、彼らが皆殺害されていたことが判明したのだという。
プリムラさんはこの件を教会に報告し、教会側は至急マリアちゃんを探すよう通達を出した。
今は警察にも協力を要請して、マリアちゃんの捜索に当たっているらしい。
「私はロベル様に伝えなければと、教会本部を抜け出してきたのです。恐らく後ほど警察の方がやって来るとは思いますが、それよりも先にお伝えせねばと……!」
「わざわざありがとうございます」
「いえ。しかし、これは由々しき事態ですよ」
プリムラさんの顔が不安そうに歪んでいる。
その正面で、ロベル君は険しい表情を浮かべていた。
「まさか、こんなに早く動いてくるとは……慎重に出たのが裏目になりましたか」
「ど、どうなさいますか?」
「……プリムラさんはまず教会のお仕事を優先してください。大変でしょうが、教会側が得た情報を少しでも教えていただけますと助かります」
「わ、わかりました。しかし、ロベル様はいかがなさるのですか?」
「私は今得ている情報からマリアさんのいそうな場所を探してみます。あくまで推測になりますが、宛もなく探すよりかはマシでしょう」
「確かにそうですね……ああ、しかし、マリア・カモミールが行方不明になったという情報は御内密にお願いします。彼女は『神聖剣』に選ばれた者として広く知られていますから、行方不明になったと知れたら市民の中で混乱が起きるでしょう」
「わかりました」
「よろしくお願いします」
プリムラさんは頭を下げると、足早に部屋を出ていった。
それを見送った後、ロベル君は顎に手を当てて考え込んでいた。
「チュピ?(どうするの、ロベル君?)」
「……とりあえず、学校に行ってみようと思う」
「チュン?(学校?)」
「ネペンテス先生が犯人だとするなら、何か手がかりが残っているかもしれない」
「チュピ(確かに)」
「まあ、先生がいらっしゃったら探そうにも探せないのだけど」
……その時はその時だ。
それに、もしネペンテス先生が学校にいるとしたら、マリアちゃんが行方不明なのとは関係無いかもしれない。
誘拐してたとしたら、そんなノコノコと人前に現れたりしないだろうし。
その心理を逆手に取られてたら……いや、これを考え出すとキリがないからやめよう。
私達が急いで学校に向かうと、校門の前で見覚えのある髪色をした男子生徒を見つけた。
「シーボルトさん?」
ロベル君がそう声をかけると、奇抜な髪をした男子生徒がこちらを振り返る。
「……会長とスズさん?」
その男子生徒――シーボルト君は、こちらを怪訝そうに見つめていた。
「何で後ろから……学校にいたわけじゃないのかよ?」
「今日は生徒会業務が休みの日なのです。マリアさんのことがありましたから、少し長めに休みを取っていました」
「ああ、そうだったのか……」
シーボルト君はどこか元気が無いように見えた。
マリアちゃんのことで相当参ってしまっているのかもしれない。
「それなら何で学校に来たんだ?」
「少し調べたいことがありまして」
「それって、親父が昨日から本部に行って忙しそうにしてるのと関係あるのか?」
シーボルト君、なかなか鋭いな。
でも、プリムラさんに釘を刺された手前、教えるわけにはいかないよね。
「……教えてくれるわけないよな。どうせ、親父から口止めされてんだろ?」
「……すみません」
「謝んなくていい。良く考えればわかることなのに、聞いた俺が悪いから」
シーボルト君はそう素っ気なく返した。
最初は元気が無いのかと思ったけど、そういうわけではないのかな?
何かやけに冷静だし、ロベル君にもあんまり突っかかってこないし。
「シーボルトさんは何故学校に?」
「俺も会長達と一緒だよ。多分、目的も調べたいものも同じだと思う」
えっ、まさか、シーボルト君もマリアちゃんがいなくなったことを知ってる……?
「会長達も、ネペンテス先生のこと調べようとしてるんだろ? だったら、俺も協力する」
「それは大変有難いのですが、何故シーボルトさんもネペンテス先生のことをお調べになっているのですか?」
「前に話しただろ、ネペンテス先生の本性がやばいって。それに、チラッと話聞いた感じもネペンテス先生が一番怪しそうだし」
「ですが、それだけで学校にまで調べに来たのですか?」
ロベル君がそう尋ねると、シーボルト君は顔をしかめた。
「相変わらず回りくどい聞き方するのな」
「すみません。こういった性格なものでして」
「まあ、良いけど」
長いため息の後、シーボルト君は言った。
「ネペンテス先生が近いうちに何かしでかすと思って調べに来たんだ」
「何故そうお思いに?」
「あくまで俺の経験則なんだけど、ああいう本性が真っ黒な奴はそのドス黒い欲望を叶えるために一ヶ月以内に行動を起こすことが多いんだ」
「そういうのを見たことがあるのですか?」
「まあな。流石に警察沙汰になってるようなのは知らないし、ネペンテス先生の本性みたいにあそこまで真っ黒なのは初めて見たから、俺の推測があってるかもわからないけどな」
シーボルト君の推測は当たってるし、何だったらもう起こっちゃってる。
そういうことは早めに教えてもらいたかったと思いつつ、でも教えてもらっていてもどうしようもなかっただろうな、なんて思った。
それを知っていたところで、マリアちゃんの行動を制限できるわけではないからね。
結局はマリアちゃんが行方不明になってしまうのを避けられなかっただろう。
「でも、会長達がここに来たってことは、俺の推測は間違ってなかったんだろうな」
シーボルト君が横目でロベル君を見る。
ロベル君は何も言わず、微笑みだけを返した。
「……ここまで言っても話してはくれないか」
「言わずとも予想はついているのでしょう?」
「そうだとしても、言ってくれなきゃ確定できないだろ。俺は貴族みたいに腹の探り合いはできないんだよ」
「他人の本性がわかるのにですか?」
「本性がわかっても考えまで読めるわけじゃない。それに、アンタみたいに本性すらわかんない奴だっているんだから」
「褒め言葉として受け取っておきます」
あれれ、なんか二人の間に火花が散っている気が……?
味方同士のはずなのに、おっかしいなぁ?
「てか、無駄話してる場合じゃないだろ。さっさと調べに行くぞ」
「そうですね」
その後、何故かシーボルト君が先陣を切りながら私達は学校に入ったのだった。
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