第21羽 飴と鞭なら最初に鞭の方が良い
あれからまた時間が経ち、もうすぐ夏休みになろうとしていた。
組織の目立った動きは未だに無い。
ゲームだとこの時期には何かしらの動きを見せていたはずだけど、まだ裏でコソコソしているらしい。
こっちとしては有難いと思う反面、動きが無さすぎて何だか不気味だ。
このまま何事もなく、順調に進めば良いな……。
私はそう思いながら、平穏な学園生活を過ごしていた。
「会長さんいますかぁー?」
今日は休み前の試験最終日。
最後の試験が終わり、他のクラスメイト達が様々な表情で帰り支度や部活に行く準備をしている。
そんな中、入口からロベル君を呼ぶ声が響いた。
「ルーファスさん、どうなさいましたか?」
ロベル君を呼んだのはルーファス君だった。
彼もテスト終わったばかりだと思うんだけど、来るのが早いな。
彼のクラスって、この教室から一番離れたところにあったはずなんだけど。
「ちょっとねぇ。荷物まとめたらついてきてー」
一体何の用なんだろう?
ロベル君と二人で首を傾げながらも、荷物を持ってルーファス君の後をついていった。
彼に連れられてやってきたのは、いつも彼がいる部室。
中に入ると、ローラス君とシーボルト君、そしてプラムさんが待っていた。
「何故プラムさんがここにいらっしゃるのですか?」
プラムさんは普段、お父さんのそばから離れることはない。
この間はロベル君がお父さんに頼んで、彼を借り受けた。
そんな人が何でここに?
「ロベル坊ちゃんにお話したいことがございまして。ここで待たせてもらうついでに、彼らには先に話させていただきました」
「何かあったのですか?」
「……組織が動くより先に、教会が動きました」
「教会が?」
「組織と繋がっていた司祭を捕まえ、組織を一網打尽にしようとしているようです」
そういえば、ゲームにも教会の中にスパイがいた描写があった。
確か、教会でも組織でも、そんなに偉い立場の人じゃなくて、大した情報を得られないまま自害されちゃうんだよね。
でも、ゲームでそのスパイが見つかったのは夏休み明けくらいだったと思うし、そもそも司祭なんて立場の人だったっけ?
「しかも、そいつは教会ではかなり上の立場の司祭だったみたいだ。おかげで教会内部は今荒れてるらしい」
そう言うと、シーボルト君が顔を歪ませた。
教会の不祥事に、彼の心中は複雑そうだ。
「組織でもそれなりの地位にいたみたいでね。このままだと僕達も捕まっちゃうかもしれないから、プラムさんが色々手を尽くしてくれたんだってさぁ」
ルーファス君がしれっとそう言った。
いやいや、それかなりヤバかったんじゃないの?
捕まったら妹さん助けられなくなっちゃうわけだし。
まあ、プラムさんがどうにかしてくれたなら、今はもう大丈夫なんだろうけどさ。
「プラムさん、ありがとうございます」
ロベル君が頭を下げる。
「俺らからも礼を言わせてください。本当にありがとうございます」
「ありがとうございますぅ」
続けて二人も頭を下げた。
プラムさんはそんな彼らに恭しく一礼する。
「ロベル坊ちゃんのご友人方を助けるのは、執事として当然です」
しかし、色々手を尽くしたって、一体どうやったんだろう?
またプラムさんの謎が増えちゃったよ……。
「先輩方が助かったのなら、もう問題なくないですか? 後は教会に組織をどうにかしてもらったらいいんじゃないんですか?」
シーボルト君の言う通り、ルーファス君達が捕まる危険がなくなったならプラムさんがここに来てまで報告する必要はなかったと思う。
でも、ロベル君は彼の発言に首を横に振った。
「いえ、教会に今組織を潰されると困るのですよ」
「何でだよ?」
「『黒の聖女』についての情報が何も得られてないから、ですよね?」
ローラス君の言葉に、ロベル君が頷く。
「恐らく、教会は組織が得ていた彼女の情報を全て破棄してしまうでしょう。何故かはわかりませんが、教会は『黒の聖女』という存在をひた隠しにしていますからね」
「それに、教会にまだ組織のメンバーがいないとも限らないよねぇ。そうなったら、組織が表向き壊滅させられたとしてもどこかで残党が息を潜めている、なんてことになりかねないねぇ」
ルーファス君の言葉に、シーボルト君が顔をしかめる。
「……確かに、そうだとするとまずいですね」
「ですので、ロベル坊ちゃんに報告に参った次第です」
そうか、まだ教会に組織のメンバーが隠れていたら、そんなことになるかもしれないのか。
今回、教会の偉い地位の人が捕まってるから、まだいる可能性は高いよね。
意外としぶといな、この組織。
ゲームではそんなに脅威じゃなかったのに。
「幸い教会も慎重に動くつもりのようで、今は捕まえた司祭の尋問に時間を割いています。ですが、あまり悠長なことは言っていられないでしょう」
「ようやく手がかりが見つかったというのに、これですか……」
ロベル君がため息をつく。
このままだと、組織が何の目的で「黒の聖女」を復活させようとしたのかわからないままになってしまう。
もしその目的が「魔王」の復活に繋がることだったとしたら、無視できないというのに。
やっぱり、順調になんていかないよね……。
「まあ、そんな悲観することないよぉ。何も悪い知らせばかりじゃないからさぁ」
私達が沈んでいるのを見て、ルーファス君はケラケラと笑った。
何でさっきから彼はこんなに平然としてるの?
妹さんのこと、助けられなくなるかもしれないのにさ。
「では、良い知らせがあるのですか?」
「うん、あるよー」
「チュン(え?)」
私だけでなく、ロベル君や周りの皆もルーファス君の言葉に目を丸くしていた。
「ルーファス、良い知らせって何だ?」
ローラス君がそう尋ねると、ルーファス君はヘラヘラと笑いながら答えた。
「んっとねー、見つかったよぉ」
「……何がだ?」
「あは。やだなぁ、ローラス。見つかったって言ったら、あれだよあれ」
いや、あれって何よ?
ていうか、さっきからルーファス君なんかフラフラしてない?
「ルーファスさん、あれとは?」
「会長さんもかぁ。あれって言うのはねぇ、方法だよ」
「何の方法ですか?」
「『黒の聖女』の力を引き出す方法のことぉ」
ルーファス君、そろそろ倒れそう……って、今何と仰いました?
「おい、ルーファス。それはどういうことだ?」
「どういうも何も、そういうことだけどぉ?」
ローラス君の反応を見るに、彼も知らなかったようだ。
「昨日ねぇ、色々本読み返したらピーンッて来てねぇ。だからぁ、良い知らせなんだよぉ」
「……ルーファス先輩めっちゃフラフラですけど、大丈夫ですか?」
シーボルト君が少し引き気味に言った。
ルーファス君の身体は段々激しくぐらつき始めている。
そんな彼に、ローラス君は呆れ顔で言った。
「お前、まさかテスト勉強もせず、寝ることすらせずにずっと研究してたのか?」
「だって、勉強中になんか閃きそうだなぁって思ったらずっとやっちゃってたんだもん」
「だからって、そんなになるまでやるなよ!」
「あへぇ、ごめんー」
遂に耐えきれなくなったのか、ルーファス君が前のめりに倒れそうになる。
しかし、その前に素早くローラス君が彼を支えた。
「全く、無理するなよ……ビアンカの兄はお前だけなんだから」
最後の方は声がとても小さくて、よく聞こえなかった。
ローラス君が腕の中で眠り始めたルーファス君を近くのソファーに横たわらせた。
「……詳しい話は起きてから伺いましょうか」
「そうしてやってください」
何で肝心なところで寝ちゃうかな……。
まあ、寝ないで頑張ってくれてたみたいだから、しょうがないか。
そうして、私達はルーファス君が目覚めるまで待ちぼうけを食らったのでした。
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