第20羽 呪われた箱に隠されていたもの
な、なんてあからさまな場所に置かれてるんだ!
しかも、すっごいヤバい感じがする!
絶対触っちゃダメなやつでしょコレ!
「何の箱だろうね?」
ロベル君がヒョイと箱を素手で持ち上げた。
「チュチュチュ!?(ちょっと、ロベル君!?)」
「うわっ! なんて物を手にしてるの、会長さん!」
いつの間にか近づいていたルーファス君が、ロベル君の手元にある箱を見て顔をしかめた。
「それ、どう見ても呪われてるよね! そんなものに手を触れたら、自分が呪われちゃうよ!?」
「チュチュ!?(の、呪われる!?)」
何でそんなもの手に取ったの!?
「ああ、平気ですよ。『魔王』の力のおかげで呪いにはかかりませんので」
そ、そうだったんだ。
いや、そうだったとしても、いきなりそんな気持ち悪いものを手に取られたら心臓が止まっちゃうよ。
「ジュウジュウ!(もう、心配したじゃない!)」
「ご、ごめん」
私はロベル君を翼でバシバシ叩いた。
全く、ロベル君ってば、時々こんなとんでもないことするんだから!
心配してる私の身にもなってよ!
「まあまあ、問題ないならいいじゃん。スズさんも許してあげなよ」
ルーファス君にそう言われ、私はひとまず羽を下ろした。
「んで、その箱は一体何?」
「そうですね……持ってはみたのですが、わかりません。中に何が入っているような感じはあるのですが、そこまで重いものでは無さそうです」
「開けられそう?」
「無理ですね。開けるにはきちんと解呪しないと、手に持っている私以外にも呪いの影響が広がるかもしれません」
呪いが効かないのはロベル君だけみたいだから、そうなったらまずいね。
「解呪できたら開けられそうなの?」
「ええ、恐らく」
「じゃあ、他にめぼしいものが無いなら上に戻ろうか」
ルーファス君が数冊の本を手に取り、上に続く階段へと戻ろうとする。
え、この箱はどうするの?
「ルーファスさんは何か見つけたのですか?」
「『黒の聖女』に関することじゃないけど、今後の研究に役立ちそうな本が何冊かあったから、それを持っていこうと思ってる」
「そうでしたか。私達はこの箱以外には特に見つけられませんでした」
「それ、シーボルト君が持ってきている解呪アイテムでどうにかなるかな?」
「ダメでしたら教会に持っていきましょう。彼のお父様に頼めば、解呪してくださるはずですから」
あ、その箱も上に持っていくんだね。
……そのままロベル君が持っていたら、上にいる二人がビビりそうだなぁ。
そう思ったものの、言い出す暇もなくロベル君達はさっさと上に戻ってしまった。
「戻ったよー」
ルーファス君がそう声をかけると、建物の入口にいた二人がこちらを振り返った。
「おかえりなさい。ルーファスと会長さん」
「何か見つけました?」
「成果はありましたよ。ですが、その前に……」
ロベル君は二人に例の箱を見せた。
「こちらの箱を開けたいと思いまして」
「うっ!? 何だよ、その気持ち悪いの……!」
シーボルト君が箱から顔を背けた。
一方、ローラス君は顔をしかめながらも箱を見つめている。
「……呪われてるのに、会長さんは平気なんですね」
「私は『魔王』の力のおかげで、呪いが効きませんから」
ロベル君はさっき私達にした説明と同じことを二人にも伝えた。
そして、まだ顔を背けているシーボルト君の方を向いた。
「シーボルトさん」
「……何だよ?」
「解呪の魔道具を貸していただけませんか?」
シーボルト君はすごく嫌そうな顔をしながら、カバンから小さな人形(?)を取り出した。
「……ほらよ」
「ありがとうございます」
ロベル君が受け取ったその人形を見ると、顔のない真っ白なてるてる坊主のような見た目をしていた。
彼がそれを箱に押し当てる。
すると、真っ白だった人形が一瞬にして真っ黒になり、ボロボロと崩れてしまった。
「チュチュ……(ひぇぇ……)」
怖っ!
呪いのせいなのか、解呪するとこんなふうになっちゃうのかはわからないけど、見てるだけで背筋凍りそうだよ。
でも、人形の尊い犠牲のおかげで、箱から感じていた禍々しさは消えていた。
「はぁ、ようやく気持ち悪さがなくなったか」
「解呪できたみたいだね」
「はい。では、開けてみます」
ロベル君がそっと箱のフタを開ける。
彼の肩越しに中を覗き込むと、そこにあったのは――。
「……チュン?(リボン?)」
箱の中には、一本のリボンが入っていた。
真っ黒な下地に真っ黒なレースがあしらわれたリボンは、可愛らしいけどちょっと不気味だ。
でも、何でこんなものが呪われてた箱の中にあったんだろう?
「呪いまでかけてた箱の中身がリボンって……よっぽどこれが大切だったのかな?」
「何か特別な品物なのかもしれないな」
ルーファス君やローラス君も首を傾げてリボンを見つめている。
「アンタはどう思ってるんだ、会ちょ……」
こちらを向いたシーボルト君が、怪訝そうに眉をひそめた。
「……おい、どうした?」
ロベル君を見ると、彼はリボンを見つめて固まっていた。
「チュン?(ロベル君?)」
「……これ、は」
ロベル君がリボンを手に取る。
震える手で、大事そうにそれを撫でる。
「それが何なのか知ってんのか?」
ロベル君の反応は明らかにそのリボンが何なのかわかっているようなものだった。
でも、彼は首を横に振った。
「……いえ、私はわかりません。しかし、『魔王』は何か知っているのでしょう」
「どういう意味だよ?」
「見たことがないはずなのに見たことがある、と言うべきでしょうか。これを見ていると、何故だか心がザワつくのです」
つまり、そのリボンは「魔王」の持ち物だったの?
まさか「魔王」にそんな可愛い趣味があったとは……。
「女物のように見えるけど、それは『魔王』の持ち物なの?」
「違うと思います。ですが……」
ロベル君はそこで言葉を切った。
そして、顔を歪ませながらこう言った。
「これを……いえ、これの持ち主を彼が大切に思っていたのは確かでしょう」
ロベル君は手に持っていたリボンをゆっくりと箱の中に戻した。
その顔はとても苦しそうに見えた。
「大丈夫ですか、会長さん?」
「……はい。何とか」
ローラス君にはそう答えていたけど、きっと大丈夫なんかじゃない。
多分、彼の中の「魔王」が表に出そうになってたんだ。
しばらくして落ち着いてきた彼に、ルーファス君が声をかけた。
「そのリボンが『魔王』の持ち物じゃないなら、もしかして『黒の聖女』の物なのかな?」
「……恐らく」
「何でそんなものを組織が持ってるんだよ?」
「さあ? でも、『黒の聖女』を復活させようとしていたことを考えると自然な流れだよね」
ルーファス君の発言に、ローラス君とシーボルト君が目を丸くした。
「そんな痕跡があったのか?」
「うん。まあ、失敗してたけどね」
「……成功してたらどうなってたんだ?」
「『黒の聖女』が復活するだけ。あの魔法陣はもう発動しないし、『黒の聖女』も『魔王』も復活するようなことは無いから安心して」
その言葉に二人はホッと胸を撫で下ろした。
「しかし、そのリボンを組織は何に使おうとしていたんだ?」
ローラス君の言葉に、ルーファス君はお手上げだと言わんばかりに肩をすくめた。
「わかんない。特別な物ではなさそうだけど」
「案外、『黒の聖女』に返そうとしたんじゃないですか? ほら、復活させようとしてたみたいですし」
「それを彼女に返してどうするの?」
「いや、それは知らないですけど……でも、そんなこと言ったら『黒の聖女』を復活させようとしていたのも変ですよね?」
「まあ、そうなんだけどさ」
考え込む三人に、ロベル君が声をかけた。
「御三方。ここで議論していても埒が明かないのではありませんか?」
「……そうだね」
「戻って議論しても大差なさそうだけど」
「いや、他の人にも意見を聞けば、何かわかるかもしれない」
「では、一旦ここを離れましょう。そして、今得た情報を整理しましょうか」
ロベル君の言葉に三人が頷く。
かくして、隠れ家探索は新たな発見と共に、大きな謎を残して終了したのでした。
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