第18羽 隠れ家へいざ突撃!
シーボルト君を無理やり仲間に引き入れた日から一ヶ月経過して、遂にシーボルト君が肖像画を見た場所――組織の隠れ家に突入する日がやってきた。
この日が来るまでに組織にも教会にも大きな動きはなく、当の隠れ家が誰かに使用されている形跡もない。
心配性なユリウスとお父さんにあれこれ言われたり、準備を手伝われたりしたけど、そのおかげで安全に隠れ家に踏み込めるようになったと思う。
そして、私達は隠れ家近くで待ち合わせていた。
「会長さん、おはよー」
「おはようございます、会長さん」
私達が待ち合わせ場所に到着すると、先に来ていたルーファス君達が挨拶をしてきた。
「おはようございます、ルーファスさんにローラス君」
「チュピ!(おはよう!)」
時刻は朝10時ちょっと前。
別に不法侵入するわけじゃないから、明るいうちに堂々と突入するつもりでこの時間に集まることにした。
「待ち合わせ時間ギリギリになってしまって申し訳ないです」
「まだ時間になってないから大丈夫だよー」
「……ルーファス、敬語使えよな。すみません、うちのルーファスが無礼を働いてしまって」
「いえいえ。気にしてませんから」
「さっすが、会長さん。器が広いですねぇ」
「ところで、シーボルトさんはまだいらっしゃっていないのですか?」
ロベル君が辺りを見回すけど、彼の姿は見当たらない。
「そうみたいだね。案外、直前になってめんどくさくなって逃げたのかも」
「俺はそんなに会話したことないんですが、そんな方なんですか?」
「そんな薄情な方では無いと思いますよ。来られない時はきちんと連絡をしてくださる方だと、私は思ってます」
「ま、僕もそう思うけどね。あんな見た目してるけど、中身は真面目そうだもん」
「……あんな見た目って、ルーファス先輩に言われたくないんですけど」
声がした方を振り向くと、そこにはシーボルト君が立っていた。
ただ、その背中には、何故か大きなリュックを背負っている。
なんか、まるで今から長旅に出るかのような重装備ですね。
「おはようございます、シーボルトさん」
「シーボルト君、その荷物なぁに?」
「……親父に持たされたんですよ。今は教会の管轄にある建物とはいえ、何年も前に調査したっきり放置されてるから老朽化して危ないかもしれないって」
シーボルト君が大きなため息をつく。
現在、隠れ家だった建物は教会が所持している。
ルーファス君が予想した通り、隠れ家は既に教会に見つかって制圧されていたようだ。
記録によると、制圧されたのは10年近く前なので、多分シーボルト君が肖像画を見た直後くらいに制圧されたんだと思う。
教会も色々と中を調べたみたいだけど、その後はずっと放置されていたらしい。
一応、勝手に侵入できないよう施錠は施されているみたいだけど。
「誰もいない家の中を調べるだけだってのに、回復ポーション大量に持たされるし、解毒薬も解呪の魔道具も渡されて、こっちはいい迷惑だ」
「じゃあ置いてくれば良かったんじゃない?」
「これ持たないと鍵を渡さないって言われたんで、仕方なく持ってきたんですよ!」
元々、隠れ家の鍵はシーボルト君経由で彼のお父さんから渡してもらう手筈になっていた。
鍵を壊して入るより、そっちの方が後腐れがなくて良いからね。
「それで、鍵は貰ってきたんだよね?」
「当たり前ですよ。ほら」
シーボルト君が鍵を出す。
「会長さんが受け取ったら?」
「そうですね。では、私が先陣を務めましょうか」
「なんか戦うみたいな言い方してるけど、別に襲われることはないだろ」
愚痴を言いながら、シーボルト君がロベル君に鍵を渡す。
「わかりませんよ? 何か仕掛けがあるかもしれません」
「少なくとも、親父からはそんな話聞いてないけど」
「でも、お父さんはポーションとか持たせたんでしょ?」
「それは建物が崩れてくるかもしれないからだと思います」
「それなら、解呪の魔道具なんて持たせないんじゃない?」
「……確かに。親父も何か仕掛けがあるとでも思ってるのか? でも、教会が調べたんだから何も無いだろ」
「何も無かったら無駄足なんだけどねぇ」
「いずれにせよ、中に入ればわかりますよ」
ロベル君が鍵を開ける。
朝で晴れているから外は明るいのに、隠れ家の中は薄暗かった。
パッと見は家具も何も無いけど、妙な仕掛けがあるかもしれない。
「何か見えますか、ルーファスさん?」
「んー……ここから見える範囲には変な仕掛けは無いね。多分、この部屋の仕掛けは全部撤去されてるよ」
「ルーファス先輩って、そういうのわかるんですか?」
「まぁね。だてにローラスと二人で修羅場潜ってきてないよ」
ルーファス君がローラス君に目配せする。
視線を受けた彼は肩を竦めて笑った。
「頼れるのはお前だけだったからな」
「ちなみにローラス的にはどう? なんか見える?」
「いや、危ない仕掛けは無さそうだ。ただ……」
ローラス君が部屋の奥に見える四隅の一角を指さした。
「あそこだけ、床の色が違うように見える」
「はぁ?」
シーボルト君がローラス君の指さす方にまじまじと目を凝らす。
「……同じに見えますけど」
私とロベル君も同じようにそちらを見たけど、他の床との違いが全くわからなかった。
「気の所為じゃないですか?」
「そうかもな」
「え、そんな簡単に認めるんですか?」
「俺しか違うように見えないなら、気の所為かもしれないだろう。だが、調べてみる価値はあるよな?」
ローラス君がニヤリと笑ってルーファス君を見る。
それを受けたルーファス君も、ニヤリと笑った。
「そうそう。疑わしきは確かめろってね!」
そう言うと、ルーファス君はローラス君が指さしていた位置に素早く移動した。
本当に何も無かったから良かったけど、見えない位置に罠があったらどうするんだ!
めっちゃヒヤヒヤしたよ……。
「ふむふむ、なるほど」
ルーファス君は床をじっくり観察している。
「何かわかりましたか?」
「ここ、扉があるよ」
「……隠し扉ですか」
ワァオ、いかにも何かありそうな仕掛けじゃないですか。
「この先に何かありそうですね」
「流石に教会にもう見つかってるんじゃないか?」
「いや、隠蔽魔法がかかったままになってるから、それは無さそうだよ」
あれ、隠蔽魔法ってその魔法をかけたものが見つけられなくなる魔法だよね。
なんでローラス君はわかったんだろう?
「ローラス君は隠蔽魔法を見抜けるのですね」
「見抜けるわけじゃないですよ。何となくわかる程度です」
何となくってことは、勘なのか。
勘で見抜けるって凄くない?
「ローラスが凄いのはさておき、今からここの扉の鍵開けるよー」
「え。隠し扉の鍵なんて持ってたんですか、ルーファス先輩」
「違うよ。魔法で鍵かけられてるから、それを解くの」
「……先輩達って何者なんですか?」
シーボルト君が若干引き気味に聞いた。
「何者って、普通の学生さ」
「ちょっと変な組織には入ってるけどねぇ」
二人は笑いながら答えた。
普通の学生は変な組織に入らないし、お二人みたいな特殊技術は持ってないんですよ。
「ま、ちゃっちゃと捜し物を見つけに行きますか」
ルーファス君は床に手を置くと、ブツブツと何かを唱える。
すると、彼が手を当てていた部分の床がゆっくりと動き、地下へと続く階段が現れた。
「マジで開いたよ……」
「これくらいヨユーだからね」
驚くシーボルト君に対し、自慢げにルーファス君は胸を張った。
「では、行きましょうか」
「ちょっと待ってください。念の為、見張りを立てていた方が良いと思うのですが」
ロベル君を呼び止めたローラス君が、そう提案した。
「誰かが俺達の邪魔をしないとも限りません。四人いるから、中に入るのが二人、見張りが二人で動くべきだと思います」
「確かにそうですね。では、私達とルーファスさんが地下へ。残るお二人は入口を守ってください」
そして、私達はルーファス君と共に地下へと降りたのでした。
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