第17羽 変な格好の人ⅹ2
シーボルト君を引きずりながら、私達はルーファス君の元に向かった。
部室棟の一角にある部屋の扉をノックすると、間の抜けた返事が返ってきた。
「ほいほーい、今開けますよぉ」
初めて尋ねた時と同じように何かを片付ける音がした後、扉が開かれる。
「およ、会長さん。今日はどうし……その人誰です?」
部屋から出てきたルーファス君の目がシーボルト君に向けられる。
一方、シーボルト君もルーファス君を見て目を瞬かせていた。
「変な髪色の子だね~」
「いや、変なのはアンタの方だと思うけど」
見た目が変なのはどっちもでしょうが。
それはさておき。
「新しい仲間ですよ、ルーファスさん。それと、貴方に確認したいことがありまして」
「だから、俺はアンタらの仲間になった覚えは……」
「まぁた仲間増やしたんですか。僕は別にいいですけど」
「だから、俺は仲間じゃないっての!」
諦めろ、シーボルト君。
ロベル君に目をつけられた時点で君の負けなんだよ……多分。
「ま、中に入ってよ。あ、ローラスも呼んだ方が良い?」
「いえ。彼は仕事中ですので、後で伝えましょう」
「りょうかーい」
部屋に入ると、以前よりもゴチャゴチャした室内が目に止まる。
そんな部屋に驚いたシーボルト君がキョロキョロと周囲を見回した。
「何かの研究でもしてるのか?」
「『魔王』の魂の分離と『黒の聖女』の力の復活の研究……みたいな?」
「みたいなって何だよ。てか、随分凄いもの研究してるのな」
「ふふーん、見直した?」
「変な奴だっていう印象は変わんねーよ。で、研究成果は出てるのか?」
「まだだよ。会長さんとスズさん見たらわかるでしょ?」
「……あ、確かにそうだな」
「んで、君は誰?」
あ、そういえば紹介がまだだったね。
二人の掛け合いがコントみたいですっかり忘れてた。
「彼はシーボルト・プリムラさんです。一年生で、教会の司祭様のご子息ですよ」
「教会の司祭の息子だっていう情報、いらないだろ」
シーボルト君の顔が不快そうに歪む。
確かに、普通はいらないんだけど……。
「あ、君、一年なんだ。どうりで見かけたことないと思ったよ」
ケラケラと笑うルーファス君だったけど、急に真顔になる。
「でも、教会ね……そんなところの関係者を紹介してくるなんて、どういうつもり?」
ルーファス君の目がロベル君を睨む。
彼は今でこそ私達の味方だけど、まだ「
教会はもちろん、その組織のことを敵視している。
そんな相手の関係者を連れて来たってなったら、彼が警戒するのは当然だろう。
「彼は面白い情報を持っていたので、ここに連れて来たのですよ」
「面白い情報?」
「その前に、ルーファスさん。組織内で『黒の聖女』についての話を聞いたことは?」
「ないよ。あったらあんなに驚かないでしょ」
「そうですね。しかし、どうやら組織には既に知っていた人達がいたようです」
ロベル君の発言に、ルーファス君が顔をしかめた。
「シーボルトさんが子供の頃、『黒の聖女』の肖像画を見て『聖女様』と呼んでいた集団を目撃したそうです」
「それが組織の連中かもしれないってこと?」
「可能性は十分にあるかと」
「……シーボルト君、だっけ?」
「あ、は、はい」
急に雰囲気の変わったルーファス君に気圧されたのか、名前を呼ばれたシーボルト君が肩を跳ね上げた。
「今、会長さんが言っていた肖像画を見たのはどこ?」
「どこって言われても……昔のことなんでハッキリとは覚えてないです」
「大体で良いよ。覚えてる範疇で」
「えっと……多分、俺ん家の近くにあった空き家だったと思います。住宅地からは離れてたような気がするんですけど……」
「君の家ってことは、教会の建物の近くかな?」
「あ、はい。多分……いやでも、そんな近くに『
「さぁ? それはどうだろうね」
「……え?」
ルーファス君は冷ややかな目をシーボルト君に向けた。
「案外、教会にも《裏切り者》はいるかもよ?」
「それはどういう……」
「そんなことより。プリムラってことは君の家はプリムラ司祭のいるところだよね?」
「……そうですけど」
「じゃあ、あそこか。確か、随分昔に使われなくなった隠れ家があったと思う」
……本当に隠れ家があったんだ。
そうなると、シーボルト君が見たのも組織の集まりだった可能性が高くなった。
「案内をお願いできますか?」
「んー、ちょっと今すぐは難しいかな。具体的な場所の確認をしないといけないから」
「では、早急にお願いします」
「会長さんはそこに『黒の聖女』に繋がる手がかりがあると思ってるの?」
「そう思うのが普通では?」
「わかんないよ? 使われなくなったのだって、教会に隠れ家が見つかって持てるもの持って逃げたからかもしれないじゃん?」
「そうだったとしても、持ち出せなかった物があるかもしれないでしょう?」
「その可能性を追うのね」
「今は少しでも多くの手がかりが欲しいですから」
ロベル君がニッコリと笑う。
それを見たルーファス君が肩を竦めた。
「そうだね。もし組織の連中に『黒の聖女』が見つかったら大変だし」
「……な、なぁ。さっきから、そこにいる変な格好の奴がまるで『
「変な格好の奴じゃなくて、僕はルーファス・ペチュニアだよ。あと、君が言った通り、僕は組織の一員だからね」
「はぁ!? な、なんでそんな奴がこの学校にいるんだよ!」
「……会長さん。僕のこと、彼に教えてなかったの?」
ジト目でルーファス君がロベル君を見る。
ロベル君は笑顔のまま答えた。
「必要ないかと思いまして」
「絶対必要でしょうよ……」
ルーファス君がため息をつく。
そんな彼らの様子を見て、シーボルト君が切れた。
「おい、俺を無視するなって!」
「無視なんてしてないよ。でも、僕は会長さんの味方だから心配しないでいいよ」
「心配しないでって言われても……」
「僕にとっては君が何者でも構わないよ。僕の目的を邪魔しないならね」
ルーファス君は真顔でそう言った。
彼の冷たい視線を受けたシーボルト君は顔を青ざめていた。
「まあまあ、喧嘩せずに仲良くしましょう」
「喧嘩なんてしてないよ。ちょっとからかっただけ」
さっきまでの雰囲気が嘘みたいに、ルーファス君がケラケラと笑う。
おちょくられたとわかったシーボルト君は、今度は顔を真っ赤にした。
青くなったり赤くなったりしてて、ちょっと面白いなって思ったのは内緒だ。
「にしても、組織の連中が『黒の聖女』のことを知っていたとして、何で崇めていたんだろうね? 奴らにとっては『魔王』の力を封じる危険な奴なのにさ」
「……そう言われると、そうですね」
そういえば、シーボルト君が見た時に奴らは肖像画の女性を「聖女様」って呼んでたんだっけ。
その女性が「黒の聖女」だったとしたら、確かに様付けなんてして崇めているのはおかしい。
組織は「魔王」によって世界が滅ぶことを望んでいるのだから、それを阻止できる彼女のことを敵視していそうなものだけど。
「ま、その隠れ家に行ったらそういうのもわかるかもしれないよね」
「そうですね。私の方でも色々調べてますので、すぐにわかるかもしれませんし」
「そっか。じゃ、場所がわかったら連絡するね」
「よろしくお願いします」
ロベル君が頭を下げる。
その隣で、シーボルト君が顔をしかめていた。
「……それ、俺も協力しなきゃダメなのか?」
「はい」
「即答かよ」
「貴方の家の近くに隠れ家があっただなんて世間に知られたら、お父さんの評価に関わるかもしれませんよ?」
「今度は脅しか?」
「いえいえ。率直な意見を申し上げただけです」
「ったく……何にせよ、断れないみてーだな」
仕方なさそうなシーボルト君を加えて、私達は組織の隠れ家だったところに侵入することになったのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます