第13羽 ヒロインちゃん+αとお昼を食べることになりそうです

 それから一週間ほど経ったある日のこと。

 天気が良かったので、私とロベル君はお昼を中庭で食べようとしていた。


「……先客がいるみたいだ」


 中庭の木の下で、一人の女の子がお弁当を広げていた。

 おや、あの子は……。


「チュン?(あれ、マリアちゃんじゃない?)」

「本当だ」


 私達が気づくのとほぼ同時に、彼女もこちらに気づいた。


「あっ、会長さん!」


 その彼女――マリアちゃんが、ニコニコしながらこちらに手を振る。


「チュピピ?(もしかして、いつも一人で食べてるのかな?)」


 ゲームでも、ヒロインが一人でご飯を食べているシーンがあった。

 編入生だからかクラスから浮いてしまって友達がなかなかできないとか、そんなことを言っていた気がする。

 そのシーンが出てくるのって誰のルートだったかなぁ……。

 ロベル様のルートじゃなかったのは覚えてるんだけど。


「さぁ……会ったことがないからね」


 マリアちゃんがいる二年生の教室と、三年生の教室はちょっと離れている。

 それに、私達は普段、食堂か生徒会室でご飯を食べている。

 彼女が食堂を利用しない限り、会う機会が全くないのだ。

 そんなことを話していると、彼女がこちらに駆け寄ってきた。


「会長さんもお昼はお弁当なんですね!」

「時々食堂も利用しますが、基本はお弁当ですね」

「そうなんですね! もしよろしければ、一緒に食べませんか?」


 グイグイ来るなぁ、マリアちゃん。

 目を輝かせて頼んでくる姿は可愛らしい。

 ……その相手がロベル君じゃなければだけど。


「……どうしようか」


 ボソッと、ロベル君が私に耳打ちする。

 どうやら私に気を使ってくれたらしい。

 複雑ではあるけど、彼女が恋愛感情を持って近づいてきているとは限らない。

 私がいないところで二人きりになるわけじゃないし、別に気にする必要は無いよね。


「チュン(ロベル君の好きなようにしていいよ)」

「……そっか、わかった」


 うん?

 何か、ロベル君が残念そうな顔をしている気がするな。

 実は止めて欲しかったとか?

 それだったら私に聞く前に断ればいいと思うんだけど……。


「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいましょうか」

「はい! あ、後からもう一人来るんですけど、構いませんか?」


 何だ、友達がまだ来てなかっただけか。

 マリアちゃんがぼっち飯だったらどうしようかと思ったよ。

 ヒロインが一人ぼっちで寂しそうに食べてるところに現れてたとしたら、ロベル君がゲームの攻略対象みたいになっちゃう。

 いや、攻略対象だけれども。


「構わないよ」

「ありがとうございます! その子、会長さんのことが気になってるみたいなんです。だから、会長さんとお話できたらきっと喜ぶと思います!」


 ふーん、マリアちゃんのお友達はロベル君のファンなのか。

 マリアちゃんにも好かれてるみたいだし、女の子達に好かれてるんだなぁ。

 ……いや別に、ヤキモチ妬いてるわけじゃないよ。

 かっこいいロベル君がモテモテなのは自然の摂理だもの。


「……あっ、噂をすれば!」


 マリアちゃんが私達がやってきた方とは反対側を見た。

 つられて私もそっちを見る。


「おーい、シー君!」


 そこにいたのは女の子じゃなくて、金髪に水色のメッシュを入れた奇抜な髪色の男の子だった。

 その彼はこちらを認めると、目玉が飛び出そうなほど目を大きく見開いた。


「な、何で生徒会長がここに……」

「たまたまお見かけして、私が呼び止めたの。会長さんもこれから昼食を取られるみたいだから、ご一緒にいかがですかって!」


 男の子はどう見ても嫌そうな顔をしている。

 そんな彼の様子に気づいていないのか、マリアちゃんは屈託のない笑顔を見せていた。


「マリアさん、俺が会長のこと嫌いなの知ってましたよね!?」

「え、気になってるんじゃなかったっけ?」

「そ、それはそうなんだけど、マリアさんが思っている『気になる』とは違うんです!」


 耳にピアスを付けて制服を着崩している男の子は、髪色も相まって、ガラの悪い不良に見える。

 でも、パッと見は怖そうだけど、マリアちゃんとのやり取りを見る限りは悪い子には思えない。

 というか、悪い子ではない。

 何で断言できるかと言うと、この男の子も攻略対象だからだ。

 名前はシーボルト・プリムラ。

 ヒロインの一個下の一年生で、ヒロインに一目惚れしている設定のキャラだった。


「でも、気になるならお話を聞いてみたらいいじゃない。何が気になっているのか知らないけど」

「そんな簡単に聞けたら苦労しないんですって!」


 そういえば、ゲームでヒロインがぼっち飯してるシーンが出てくるのはこの子のルートだったな。

 一人でご飯を食べるヒロインを見兼ねて、彼が声をかけることで毎日一緒にご飯を食べる仲になるんだよね。

 序盤に起きるそのイベント以降はほぼ毎日会えるから、親密度が上がりやすかった。

 元々ヒロインに惚れてる設定だったのもあるんだろうけど、攻略難易度はゲーム中最も易しいと言っても過言ではないだろう。


「……あの、揉めるようでしたら、私は退散しますよ?」


 マリアちゃん達が揉めているのを黙って見ていられなくなったロベル君がそう提案した。


「そんな、会長さん……」

「じゃあ、さっさと帰れよ」

「ちょっと、シー君! 失礼が過ぎるよ!」

「別に俺が生徒会長にどんな対応しようが、マリアさんには関係ないじゃないですか」


 そう言うと、シーボルト君は私達を睨みつけた。

 何だこのクソ生意気な奴は。

 ロベル君の方が年上だっていうのに、敬語も使わないのかよ。

 マリアちゃんには使ってるくせにさ。

 いくらロベル君のことが嫌いでも、表面上は取り繕えよ。

 ロベル君が傷ついたらどうしてくれるんだ!


「もう、生の生徒会長さんを目にして恥ずかしいのはわかるけど、そんな態度ばかりとってると嫌ってるって勘違いされるよ?」

「だから、嫌ってるんですって!」


 ……マリアちゃんの天然っぷりも凄いな。

 一体どこをどう見たら、シーボルト君がロベル君を前にして恥ずかしがっているように見えるんだろうか。


「そんな照れ隠ししなくてもいいのに。この前、会長さんを見て顔を赤くしてたの見てたもの」

「なっ、見てたんですか……」

「ほら、やっぱり会長さんのことが……」

「違います! 俺があの時見ていたのは生徒会長じゃなくて……」


 急に口をつぐんだシーボルト君が、チラッとこちらを見た気がした。

 でも、次の瞬間に顔を逸らしてしまった。


「会長さんじゃなかったら誰を見てたの?」

「誰って、その……それは、言えないんですけど」

「ええ、そう言われると気になるなぁ」


 マリアちゃんがシーボルト君に詰め寄る。

 二人とも何だか楽しそうですけど、今が何の時間かわかってます?


「……お二人共、早くご飯を食べないと食べ終える前に予鈴が鳴りますよ」

「はっ、そうですね! すみません!」

「んなこと言うならお前がどっか行って食べればいいじゃんか」

「もう、シー君ってばまたそんなこと言って!」

「まあ、貴方がそう言うなら……と、言いたいところなのですが」


 ロベル君がシーボルト君に近づく。


「何故私が貴方に嫌われているのか、気になりますね」

「は?」


 ん? ロベル君って嫌われてる理由とか気になるタイプだったっけ?

 あ、そもそもこんなに誰かに嫌われてるなんてことが無かったか。

 そうなると、面と向かって嫌われてるってわかるシーボルト君は珍しい存在だ。

 こんなに優しくて素晴らしいロベル君を嫌いになる人がいるなんて信じられないけど、シーボルト君は一体彼のどこが嫌いなんだろう?


「ぜひとも、お話を伺わせていただきたいのですが」


 ロベル君が笑顔でそう言った。

 疑問形だけど、その顔には有無を言わさぬ迫力があった。

 あれ、もしかして、ロベル君怒ってる?


「俺は嫌」

「どうぞどうぞ!」

「ちょ、マリアさ」

「ささ、お喋りする時間が少なくなりますから、早く一緒に食べましょ!」


 そんなわけで、不穏な雰囲気のお食事会がスタートした。

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